Novial

Novial (Nov 新しい IAL 国際補助語、の意味) は、不思議な言語だ。祖父たるエスペラントはもちろん、親たるイド語ほどの組織すらなく、一度は死語になったばかりか、1990 年代後半に再発見されたとは言っても 2010 年現在アクティブに活動しているのはごくわずかな人数しかいないはずなのに、主要人工言語に必ずと言ってよいほどリストアップされ、Wikibooks にけっこうな学習用素材を持ち、あまつさえ Novial 版ウィキペディアすら保持している (その他の学習に役立ちそうなリンク: Li Verdi Kordie、エスペラントの初心者用コース La Verda Koro の Novial 訳、エスペラント版と Novial 版が横並びで、各課末の語彙リストにはさらに英語訳も並ぶ。Dave's Novial-Music PageNovial98 で作られたオリジナルの歌いくつか、Novial98 は改良 Novial の 1 つで今も生き残っている唯一のもの、動詞原形末尾に r が付くほかはオリジナルの Novial とほとんど変わらないので、Novial の歌がどんな感じになるかの例としてもよいと思う)。

ともあれ、欧州系エスペランティストの発音が決定的なまで聴き取れないことで、エスペラントは本質的に文語的言語であることを確信した私は、字上符文字の入力の面倒さもあって (私が、半永久的に安心して利用できる、簡易で堅牢でなおかつ表現力ある人工言語を探求しているのは、そもそも日本語におけるいちいちの漢字変換が面倒に思えるようになったからなのであった。字上符文字の入力も、はるかに簡単だとは言え、やはり同様の、思考と表現との間にワンクッションのラグが生じるような「面倒さ」が自ずと生じてしまうのである)、英字のみの人工言語をあれこれ探しあるいは自作すら試みるうちに、ようやくに Novial に至ったのであった。はじめは眉唾ながらもとりあえず学ぶうちに、意外に簡単に読めてしまうことが分かった私は、さらに一通り最低限学習してみる。

Novial クイックリファレンス

発音と文字 / 文法 / 前置詞 / 小詞 / 接辞 / 簡易単語リスト (作成途上)

Novial の原典とも言うべき "An International Language" (AIL、和訳すれば「国際語試案」か。Novial 以前の反省と、それによる根拠提示の上での Novial という言語学的に妥当な新言語の提案を内容とする。この Novial は、初版出版年から Novial 1928 と呼ばれる。ちなみに、これの最後の Specimens にまとまった例文がある) と "Novial Lexike" (5677 語根を提示する語彙目録、すなわち基本辞書。幸いなことに、(ザッと見た限りでは) 1/3 はイド語経由でエスペラントの語と相似し、1/3 はイド語以来のもので、残る 1/3 が英語由来のものと、エスペラント/イド語の英語系方言と言った趣きなので、それらを知っていれば学習はかなり容易である。なお、ここでほんのちょっと改良が為されており、そのためこちらもやはり初版出版年から Novial 1930 とも呼ばれている) も、既の述べたことだがこの程度の規模の言語としては破格な扱いでウィキペディア系サーバーにおいて参照できる (ただし英語)。私自身が AIL をちょっと読むに、作者イェスペルセンらがイド語に移行したのは、フランスを中心とする西ヨーロッパ圏ではポスト・エスペラントとして脅威となりつつあった無活用ラテン語に抗してのやむをえざる措置であり、また Novial へのシフトも、同じくイド語に決定的ダメージを与えたオクツィデンタルに抗しての同じくやむをえざるものだったことが分かる。要するに、イド語はローマの伝統を継がんとして挫折したゴート王国のごとき運動であり、また Novial は神聖ローマ帝国のごときものであったわけである (第二次世界大戦とイェスペルセンの死のダブルパンチで死語になってしまった点は異なるが。この場合エスペラントはもちろん、東ローマ帝国である)。なお、無活用ラテン語といいオクツィデンタルといい、また今華やかなインターリングァといい、これらはすべて、新語は合成よりも自然言語からより積極的に取り込むタイプであり、すなわち西ヨーロッパ共通語足りえても国際語足るには無理がある系の言語である。

さてちょっとかじった限りでは、エスペラントの語合成の自在さと自己イデオロギー客観化機能はイド語同様に持ち合わせてはいないが (ちなみに私見では、エスペラントに固有の語義の曖昧さと文語性もまた、この二大長所と同根のものである。いずれ、これらの機能のなさにおいて、イド語はもちろん、Novial さえも、エスペラントに取って代われる言語ではない。むしろ、エスペラントに無理に口語性を繰り込むよりもそれらで間に合わせ、もってエスペラントを純化するための相補的言語としてエスペラントと併走するのがベターであろうと私は思う)、全体に、一見華やかだが微妙に分かりづらい (エスペラントもそうだが、運用時に初めて分かる語法的例外が多い) イド語に比べ、重くて (d と m の音がかなり目立ち、また閉音節的傾向も強い) 地味 (文法は英語とほぼ同じで、要するにピジン系である) ながら、実際に取り組んでみると意外にスラスラと読めてしまうことが分かる。文を構成する句の切れがすぐに分かるのと、難しい、すなわち長い単語ほど英語など自然言語のそれに似るように設計されているので、ひっかかるところがほとんどないのである。イド語はまだよくは知らないながらも、単純に例えれば、エスペラントが歌謡的 (思想など、無から有を創成する作業に向く)、イド語が詩的 (言語的諸実験に向くか) であるのに対し、Novial は散文的 (普段的用途向き。少なくとも、英語との行き来はそれら 2 つよりずっと簡単と思われる) である、と言えるのではないかと思う。

Novial がイド語と異なる点は、すぐに目につく、文法が英語系であることのほかに、語根レベルで品詞区分を持っていることである。また、Novial はエスペラントと同じく、母音が連続しても二重母音にはならない (イド語では、二重母音になる組み合わせがいくつかある)。

Novial の eSpeak 用発音辞書。これを聴き、またエスペラント系のほかの言語 (エスペラント用は eSpeak に付属。イド語用と Mondlango 用はそれを元に作り試したが、アクセントや二重母音の処理をまだしてないので公開はしない) と聴き比べてみても、Novial の聞き取り易さは際立っている。エスペラント系をイタリア語になぞらえるなら、Novial は非常にスペイン語に近く、しかも語間の区切りが英語的にはっきり出るために、ちょっと聞き逃した部分があってもそれが尾を引かないのである。その一方で、この間に気づいた欠点的なものは、同義語や同音異義語がかなり多い、ということである。イェスペルセンは、文脈や品詞で曖昧さが解消できる限りで、むしろ意図的にそのような語を導入しているようだが、同様な英語でも問題にはならないように情報伝達という観点ではおそらくに問題はないものの、気づかないところで思考の経路などが阻害される可能性も考えられなくはない。

なぜ Novial が際立って聞き取り易いのかがおおよそ判明した。まず、母音のうち、a と o はそれ自体がイントネーションを持つ; a は上がり調子 (問いかけ調)、o は下がり調子 (応答調) である。両者のうち、o はそれほどでもないが、a のイントネーションはけっこう強い。ほかの 3 つは、発音し易さに順位はあるものの、(e i u の順)、それら自体はイントネーションに対し中立である。さて、形容詞語尾として a、名詞語尾として o が頻出するエスペラント系では、この a o の本来的イントネーションが、句や文を形成するための後付け的イントネーションと衝突してしまっている。エスペラントの母音が母語において一般的な欧州系発音では、この衝突を緩和するために語尾の a o が間延びする一方で、ほかの部分の母音が非常に短かくなる。エスペラントの母音に不慣れな英米系発音では、その不慣れさゆえに個々の母音を明確に同じ長さで発音するので、そうした歪みは生じない (欧州人の英語がネイティブ英語より聞き取り易いのも、同じく英語母音への不慣れさゆえの明確な発音のためだろう)。Novial では、語尾の a は動詞において多発するが、動詞は元々上がり調子のイントネーションを要する場合がほとんどなので、むしろ適切な一致ですらある。Novial で頻発する語尾母音は形容詞語尾の i と名詞語尾の e だが、これらは句や文のイントネーションと衝突するものではないので、エスペラント系のような歪みは生じず、また動詞が語尾 a で自然に浮かび上がる仕組みになっているため、その周辺の補助的語の発音が圧縮されてしまうこともない。以上から、エスペラント系、すなわち形容詞語尾を a、名詞語尾を o とする人工語は、それだけで既に「聞き取りづらくなる」ことが保証されてしまうことが明らかとなる。