ジュール・ルキエ(1814-1862)は、19世紀のフランスの哲学者で、その思想の傾向ゆえに実存主義の先駆者として「フランスのキェルケゴール」と称されることもあります。ルキエが生前に公刊したテキストは『知の問題』のごく一部のみで、それ以外はすべて彼の死後、友人のルヌーヴィエらによって編集され、陽の目を浴びました。しかし、お世辞にもあまり知られているとはいえない思想家の一人です。
ルキエは徹底して「第一真理 une première vérité」を探求し、デカルトに似た懐疑などを突き詰め、「もっとも明証的なもの」の根底を穿っていきます。その結果、最後に彼が見出したのはデカルトのコギトではなく、「何かをなすことの自由」こそが一切の知の源泉にあるという「自由の発見」です。そして、この発見こそがルキエが実存主義の先駆と呼ばれる所以です。
ルキエは、学問を「為すこと。成ることではなく為すこと。為すことによって自らを為すこと。 FAIRE, non pas devenir maie faire, et en faisant, SE FAIRE」と定式化しますが、この "en faisant se faire" という語は、サルトルが『実存主義とはヒューマニズムである』において実存主義を定義した言葉にほかなりません。
もっとも、ルキエはそうした実存主義的枠組みを超え、この自由の本質をさらに突き詰め、「人間は自由のおかげで自らの行為の作者であるが、自らの自由の作者ではない」という、自由の起源へと思索を進めます。そこでルキエが見出したのは、人間の自由の雛型としての「神の自由」であり、自由な行為の雛型としての「神の創造の業」でした。ここにおいて、ルキエの人間論は、独自な神学へと発展します。惜しむらくは、主著『学の問題』が、その神学が十全に展開される前に、ルキエの死によって断片的な遺稿に終わってしまったことです。
【補足】
ルキエの綴りには二種類あります。LequierとLéquyerです。ジャン・ヴァールによると、「出生証明書にはLequierと書かれているが、フジェールの裁判所による二度の決定により[この辺、詳細不明]、この哲学者の法的な名前はLéquyerである。……彼が代議士に立候補したときは、Léquyerの名をサインした」とのこと(Jean Wahl (ed.), Jules Lequier, Traits, 1948, p. 9)。
Œuvres complètes, Neuchatel, La Baconnière, 1952.
これは、J. Grenier が編集した著作集です。これがルキエ研究の際にはもっともよく参照されているようです。
Giulio Lequier, Opere (a cura di Augusto del Noce), Bologna, Zanichelli, 1967.
イタリア語版の著作集です(私は未見)。
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『学の問題−第一真理の探求』
ルキエが生前、唯一公刊した序文を持つ、ルキエの主著です。これにはいくつかの版があり、表題もそれぞれです。いずれの版も、それ以外のテクストを併せて収録しています。4は、初めてルキエのテクストが英訳されたものだそうです。
『アベルとアベル』
アベルを題材とした対話篇です。A. クレールが編集した『知の問題』(上掲3)にも収録されていますが、下に紹介した1では、ほかでは未収録の短文や、ルキエについての伝記的情報なども収録されています。2は英訳で、19世紀にP.
エモン(Hémon)によって書かれたルキエの詳細な伝記の英訳も収録されています。
それ以外にも、ルキエのテキストは散発的に公刊されているようですが、いずれも入手は難しいようです。
(追記)
『第一真理の探求』、『アベルとアベル』の出版社 L'Éclat の社長(兼 編集者)である Michel Valensi 氏から、直接メールをいただき、上記2冊が収録されている叢書
philosophie imaginaire のwebページをご案内いただきました。いやー、びっくりしました。のみならず、こちらにリンクまではっていただきました。光栄です。(2003.3.26)
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ルキエに関する研究書です。現象学や哲学史研究で有名なティリエットがルキエについての研究書を著していたのは、意外は発見でした。
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ルキエについて、日本語で読める本格的な文献は、私の知る限り、以下の論文しかありません。
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ルキエの第一真理の探求:内なる経路の宗教哲学 (本サイト内)
私が2002年4月に執筆したルキエ論です。『知の問題』にのみ対象を絞り、ルキエの第一真理の探求を辿りなおしたものです。
LEQUIER, Jules (in Biographisch-Bibliographischen Kirchenlexikons)
ドイツ語の伝記的文献的教会事典の中の、ルキエの項目です。執筆者は上述にも名前の挙がったX.
ティリエットです。
Lo spiritualismo in Francia (in Le filosofie contemporanee)
イタリア語の現代哲学における、フランススピリチュアリズムの系譜についての叙述の中で、ルキエが紹介されています。