ワシ類鉛中毒・釧路ワークショップ「ワシ類の鉛中毒防止に向けて」

 

開会挨拶、趣旨説明(黒沢信道)

 

 ワシ類の鉛中毒は現在大きな問題となっており、今後いろいろな対策が考えられてい

くことと思う。行政の施策が中心となるが、民間が協力していく必要もあり、このため

には事前に情報を共有し、共通の認識を持つことが必要である。民間の4団体の共催で

企画したこのワークショップに、行政はじめ関係団体の参加協力をいただき、大変あり

がたい。このワークショップの目的は、関係者の間に共通認識を作ることと、今後とる

べき対策をともに考え、それぞれのレベルで協力する体制を作ることにある。これによ

って鉛の被害を早期になくすることを期待する。準備期間が少なく、すべての関係機関・

団体の参加は得られなかったが、今後幅広く連帯を図っていきたいと思う。

 ご発表を受諾された方々と、会場その他でご支援いただいた阿寒町と阿寒町教育委員

会に特に感謝申し上げ、ワークショップを実りあるものにしてこれに応えたい。

 

 

パネル報告


「オジロワシの現状」白木彩子(北大大学院環境科学研究科)

 

 オジロワシの生息数は世界で約5,000〜7,000つがいと言われている。このうちの一部

が北海道で繁殖しているが、道内での繁殖数は若干ずつ増加しており、繁殖成績も安定

している。繁殖期の餌を調べると、人為的な餌への依存度は、低い場所では4%とほとん

ど自力でハンティングしている繁殖地もあるが、高い場所では89%にもなり、多くを漁

業から出る雑魚等の餌に頼っている実態である。幼鳥の冬の死亡率は低いが、厳寒期に

75%が水産加工場、25%が雑魚等と、ほとんどのワシが人為的な餌に依存しているた

めと思われる。

 

 総合的に言って、オジロワシの現状は人為的な餌に頼っていると言える。このような

現状で、シカの死体などの得易い餌があればそれを容易に利用するということになり、

注意が必要である。

 

「オオワシの現状」中川元(オジロワシ・オオワシ合同調査グループ)

 オオワシはオジロワシと違い、道内では繁殖していない。ロシアの極東地方で繁殖し、

多くは10月末から11月初めにサハリン経由で宗谷岬に大群で渡ってきて、11月初旬から

中旬には斜里周辺を通過して知床岬方向へ向かう。初冬期までは河川周辺でサケを主な

食料としており、その後は海岸でクジラや鰭脚類の死体などを食する。2月には越冬数

がピークになる。

 1980年から越冬数の一斉調査を開始して、85年からは道内全域と東北地方に調査範囲

を広げた。98年2月の調査では、オジロワシとオオワシの合計が1,648羽(推定でオオワ

1,054羽)であった。オオワシの分布は、オジロワシに比べて、一カ所に極端に集中す

るという傾向が見られる。80年代は羅臼に総数の90%が集中していたが、90年頃からス

ケソウダラ漁の不振により分散し始め、自然遡上のサケや氷下漁の雑魚、水産加工場を

使用している。3年前くらいから、それまで調査していなかった斜里の山間部や白糠、阿

寒等の内陸で見られるようになってきている。これはエゾシカの死体に依存している状

況を示している。生息数は日本とロシアで7,000羽、繁殖つがい数は1,700程度と言われ

ている。

 

「オオワシの鉛中毒の現状について」黒沢信道(鉛中毒ネットワーク)

 野鳥の鉛中毒は、鉛散弾の摂取による水鳥の被害が古くから知られている。ワシにつ

いては、北アメリカのハクトウワシが200から300羽鉛中毒で死亡したことがわかってい

る。これは鉛中毒になった、あるいは鉛を被弾した水鳥を食べたために起こった中毒で

あった。

 日本での報告は、1996年2月に網走市で拾われたオオワシの死体が鉛中毒と判明した

のが最初で、この例では胃の中から鉛散弾が発見されたため、ハクトウワシでの鉛中毒と

同様なものと考えられていた。しかし97年から網走管内、釧路管内で相次いで死亡した

ワシが発見され、胃の中に不規則な形の鉛の破片が多数あるのがレントゲンで確認され

た。開いてみると、シカの毛も出てきて、この時点でエゾシカの死体と関係していると

確信した。95年に初発(確認は97年)した後、98年まで急増しているのもシカの捕獲数

の増加と一致する。またワシ本来の生息地ではない山間部で発生しているが、これらは

すべてエゾシカ猟や駆除の盛んな地域である。その後道庁の調査で、エゾシカ猟との因

果関係がはっきりした。現在、ワシの死亡数のうち鉛中毒の占める割合は8割程度にな

ると考えている。特に成鳥の被害が多いと感じており、今後早い時期に個体数の減少が

表れてくる可能性もある。

 

「エゾシカ猟との関連とその対策」大和田収(釧路支庁環境生活課自然環境係長)

 昨冬から春にかけてのワシ類の保護収容状況は、道内でオオワシ25羽、オジロワシ8羽

と道東地区を中心に急増している。97年から、血液や臓器のサンプルのあるものは鉛濃

度をチェックしており、それらのうち鉛中毒と明らかになったものが18羽と5羽(合計

23/33)となっている。古い死体などで検査できなかったものもあり、実際はこの割合を

上回るかもしれない。最近は報道などで良く知られたことから、発見や通報が増えた結

果とも考えられ、以前にはなかったとは言い切れない。ワシの保護といえば従来は幼鳥

や亞成鳥の収容が多かったが、近年は成鳥が多い。

 この春、有害駆除したシカを用いて体内に鉛が残留しているかどうかを調べた。それ

以前はハンターも役所も、ライフル弾は貫通するので鉛の残留はほとんどないと考えて

いた。しかし銃創を良く調べたところ、50体のうち約1割は弾が貫通せず、体内に残っ

ていた。弾が貫通したものでは、銃創周囲に先端部の鉛が飛び散って残留しているのが確

認され、レントゲンをかけたすべての例で金属片を検出した。これでエゾシカ猟とワシ

の鉛中毒の因果関係が明らかになり、猟期に向けて対策を開始した。道庁内に検討会を

設置し、シカの管理計画においても銃を使わない方法の検討も始めた。また猟友会各支

部の会合に出向き、ハンターに対して普及啓発を行っている。ハンターも初めは半信半

疑だったが、説明すると何らかの対策をしなければという意識になっている。

 実際の対策は二つ有り、ひとつは鉛の残留しない弾への移行のお願いである。鉛を含

まない、あるいは鉛の露出しないライフル弾がすでにあり、これらへの移行を順次進め

ていくことを考えている。もうひとつは現場に残される残滓の処理の徹底である。阿寒

町、白糠町と十勝管内の足寄町では、残滓を受け入れる無人ステーションを設置する予

定。弾の変更は今年からはまず無理で、将来の目標と考えている。どれも関係者の協力

を得ながら進めていくことである。

 

「ワシ類保護上の課題」植田睦之(日本野鳥の会研究センター)

 日本とロシアの共同プロジェクトで、オオワシに関する調査とデータ集積を行ってい

る。オオワシの生息数は、従来言われていた7,000羽より少ない4,000〜5,000羽と最近

では推定されている。このうち冬季日本に飛来するオオワシは約2000羽である。

 鉛中毒の発生場所は本来の生息環境でない山の中であるため、個体群の中で特殊なも

のが被害にあっているという見方もできる。ところが1995年に海岸部で捕獲して発信器

をつけたオオワシの移動を衛星追跡を使って調べたところ、7羽のうち3羽が、春になっ

て内陸に移動してシカの死体を食べていたと考えられた。つまり通常海岸部にいるワシ

の多くのものがシカの死体を食べており、日本で越冬するオオワシ全体に鉛中毒が広が

っている可能性がある。

 また、現在わかっている年齢構成や繁殖成績などから今後の個体群の推移をコンピュ

ータで予測すると、個体数がほぼ横這いか、わずかに減少傾向にあると言う結果が出た。

今回鉛中毒によって18羽の死亡が確認された。これは全数の約1%にあたるので、死亡

率が現在より1%増えるとして同様に計算すると、30年後にほぼ半減してしまう。

発見される死体は氷山の一角とも考えられるので、試しに5%として計算すると、急激

に減少し50年で絶滅するという結果になった。これは鉛中毒によって死亡する数から計

算しているだけなので、これに繁殖率の低下が加わると事態はさらに深刻になるだろう。

ロシアの研究者によれば、この1〜2年で繁殖つがい数が減少気味であると言うことであ

る、これが鉛中毒の影響でなければいいのだが。

 

「鉛中毒防止における海外の取り組み」齊藤慶輔((社)北海道野生生物保護公社)

 海外では鉛散弾による野鳥の鉛中毒が広く知られており、その対策として、すでに多

くの国と地域において水鳥猟での鉛散弾の使用が禁止され、スチール弾などの代替弾に

移行している。しかし今回のオオワシ・オジロワシの鉛中毒のように、ライフル弾が原

因となった例はほとんどない。わずかにアメリカのカリフォルニアコンドルの増殖放鳥

地で2羽の死亡報告があり(原因はライフル弾とは断定されていない)、ここでは鉛製

ライフル弾の使用が禁止された。

 8月に南アメリカで開かれた世界猛禽類生物学会で今回の集団発生を報告したが、各

国の研究者から多くの反応があった。さっそく鉛を含まないライフル弾のサンプルや情

報を送ってくれたり、迅速な診断器具を紹介してくれるなど、非常に協力的である。銅

製のバーンズ弾は全く鉛を含まない。また当たっても鉛の露出しない弾もあり、それぞ

れいろいろな大きさや種類が揃っている。銅も無毒とは言い切れないが、溶けにくく、

いずれペリットとして吐き出されると思う。価格は従来の鉛弾の1.2〜1.5倍で、殺傷力

の面ではエルクやムースにも十分対応できる。ポータブルの鉛濃度測定器は、人間用に

開発されたもので、血液から3分間で鉛中毒を判定できる。

 ワシ類の大量死の報告は、多くの労力をかけてオジロワシの増殖と放鳥をしている研

究者には、大変なショックだったようだ。また関心を集めていたのは、日本ではシカの

死体をどうして放置しているのかという点だった。諸外国では理解できないことらしい。

オオワシは渡り鳥であり、国際問題となる恐れもあると思う。

 

総合討論と声明の採択

 報告を受けて参加者全員による討論が行われた。狩猟に限らず、鉛は環境中に放出し

ない方向が世界的な流れであること、鉛中毒はワシだけでなく他の生物にも及ぶ可能性

があると複数の方々から発言があった。また中毒死にいたらないレベルでも、どんな影

響があるのかが不明という点で、今後の心配が示された。一方、鉛弾が禁止されてもシ

カの死体回収がなされないと、放置死体のために生物相に変化が起こるといった別の問

題も提起された。

 その後声明についての検討がなされた。現状認識には異論がないものの、対策につい

ては鉛弾から無害弾への移行を前面に出している原案に対し、エゾシカ死体の処理の徹

底や義務づけの要求を強く出すべきだと言う意見と、あまりはっきり書くと現場が動き

づらいのではないかという意見、行政も処理対策に向けて動き出していることをふまえ

て欲しいなど議論が盛り上がり、結局昼食の休憩時間を使って再度調整され、別記の

阿寒声明」が全会一意で採択された。

 

アクションプランの策定

 

 アクションプランについては、鉛中毒ネットワークが提出した具体案に沿って細部が

検討された。この案には今後行うべき課題が列挙されており、すぐに実行可能なものか

ら実現まで期間を要すると思われるものまで含まれている。

 冒頭、北海道猟友会釧路支部阿寒湖畔部会長の佐々木氏より、ハンターの立場からの

発言があった。氏はすでに銅製のバーンズ弾を使用しているが、国内の在庫数が不足で

すぐに移行はできない、輸入を促進して欲しい、詰め替えの労力があれば早い時期に切

り替えることは可能であるとのこと。また使用に当たっては、従来の弾に比べ半矢で逃

がす率が少し高いと思われるとのことであった。また残滓の持ち帰りについては、非常

に大きいので実現は難しいと考えること、逆に鉛を含むと思われる銃創周辺を切り取っ

て持ち帰るほうが現実的であるとの意見があった。

 鉛ライフル弾の法的な規制については、行政の方より北海道レベルで規制はできない

と言う説明があった(これについては後日、都道府県で猟法についての規定ができると

の法解釈も報じられている)。残滓回収については、行政や猟友会のみならず、鉛中毒

ネットワークなどのボランティア活動の可能性も示された。

 ワシ鉛中毒についての調査関連では、被害鳥の回収ルートの確立と、情報集約の一元

化ができていないことが問題点としてあげられ、行政と民間の協力が必要とされた。情

報集約と過去の追加調査、ワシ類以外の汚染状況に関しては、行政で難しければ、当面

鉛中毒ネットワークで行なっても良いと提案された。またワシの生息状況については、

従来行われてきた合同調査グループの調査を拡充する形で行うことが提案された。繁殖

状況については今後とも、国内と国外について調査と情報収集をおこなっていくことに

なった。

 被害鳥の救護については、道が事業委託している北海道獣医師会ならびに4動物園で

行うことになっており、治療情報などについて鉛中毒ネットワークが情報提供すること

ができる。

 また今後の具体的な活動に当たっては、鉛中毒ネットワークからも関係者に連絡を差

し上げることになると思うが、よろしくお願いしたい。また当面手弁当の活動なので、

よろしくご理解願いたいとのネットワーク事務局からの表明があった。

 

閉会挨拶(黒沢信道)

 予想以上の参加者を迎え、感謝するとともにこの問題の重要性をあらためて感じてい

る。関係者すべてがワシ類の鉛中毒について共通認識を持つことと、これから行うべき

事項を確認し、行政・民間でできることを話し合うという当初の目的にそったワークシ

ョップになり、意義ある機会であったと思う。これからさらに広い範囲に呼びかけて、

ワシ類の鉛中毒被害の低減を目指していきたい。個人的にはこのような会合が早く不要

になることを祈っている。今後ともいろいろな連携をとりつつ行動していくことになる

ので、ご理解とご協力をお願いしたい。今日はありがとうございました。

 

 

発症状況の報告(一例)

野生動物救護研究会フォーラム97(10月25〜26日、帯広市)事例報告

     道東地区におけるワシ類の鉛中毒について

                             黒沢信道・齋藤慶輔

 

 環境中に飛散した狩猟用の鉛散弾を経口的に摂取することにより発症する鉛中毒は、

特に水鳥で多発しており、ハクチョウ、ガン類をはじめタンチョウでも発生が報告さ

れるなど、深刻な問題となっている。

 一方アメリカのハクトウワシで見られたようなワシ類の鉛中毒は、国内では96年

2月に初めて確認された。すでにこの年には、釧路市動物園で鉛中毒を疑うに十分な

オオワシ、オジロワシ複数羽の収容があった。また次の冬、97年の1月から4月に

かけて6件の鉛中毒が発生し、ワシ類に鉛中毒が広く発生していることが推察された。

 

 その後、97年から98年にかけての冬では新たに19羽の中毒死が確認された。い

ずれも発見者の善意により検査機関に送付され、適切な検査が行われたことによって

はじめて解明された。発見されていない死亡個体、死に至らずとも高濃度の汚染を受

けているもの、繁殖地のロシアまたは渡りの途中に死亡したもの、繁殖行動等に悪影

響を受けているものなどの数は計り知れず、現在までに中毒死と確定診断された個体

は氷山の一角に過ぎないと思われる。(齊藤追記)

 

 オジロワシとオオワシは、冬期に道東地方を中心に飛来し越冬する。その数は12

00〜2200羽である。通常は海岸沿いに多く生息し、水鳥や魚類を主食とする。

一時羅臼町沖でスケソウダラ漁が盛んだった頃には羅臼周辺に集中していたが、10

年ほど前よりスケソウダラが不漁となり、ワシ類は食物を求めて、各地に分散する傾

向が見られた。このころより阿寒湖周辺などに群れで飛来するのがごく普通に観察さ

れ始めたが、これは交通事故や狩猟によるシカの死体を目当てに集まってきたもので

あり、山中で死体に群がっているワシ類も頻繁に観察されている。一方でシカは、個

体数の増加につれて交通事故の発生も増加している。さらに96年より雌ジカも期間

限定で解禁となったことから、銃弾を受けながら回収されずに放置されるシカの死体

も当然増加していると考えられる。これらに引かれてワシ類が集まってきているのは

明らかである。

 水鳥の鉛中毒症は、環境にある鉛散弾を摂取して、筋胃のなかに貯えることで発生

する。しかし今回発生したワシ類の鉛中毒には、細かく分けると3種類の鉛摂取ルー

トが考えられる。ひとつは、水鳥猟により水辺にばらまかれた鉛散弾を摂取したカモ

などの水鳥(これらはすでに鉛中毒に陥っている可能性が高いので、死体であったり

捕獲が容易であることが十分考えられる)をワシが食べ、その体内にある鉛を摂取し

てしまうルートである。この場合、胃内の未溶解の鉛散弾を摂取することもあるが、

すでに水鳥の臓器に吸収された形で摂取することもあるだろう。つまりワシ自身の体

内には当初より鉛粒がない、という鉛中毒も存在することを、考慮に入れておくべき

である。

 ふたつめは、鉛散弾を被弾した水鳥を捕食し、筋肉内に存在した未溶解の鉛散弾を

摂取してしまうケースである。この場合、水鳥は被弾による外傷があるだけで、鉛中

毒の症状は呈していない。

 みっつめは、ふたつめの水鳥がシカに置き替わったもので、ライフル弾やシカ狩り

用の大粒の鉛散弾を被弾したまま死亡しているシカを食べることによって、その体内

に含まれる鉛片を摂取するケースである。諸外国では水鳥からの二次発生はよく知ら

れていたが、シカ狩り用のライフル弾からの発生は世界的にみても報告例がないと思

る。

 

 表1に、現在までに報告された道東地域でのワシ類の鉛中毒例を列挙する。原因は

散弾によるもの、ライフル弾によるもの、不明のものがあるが、シカ猟の盛んな阿寒、

白糠方面の山林で発生したものは、ほとんどシカ猟のライフル弾または大粒散弾が原

因になっているのではないかと考えられる。遠軽町の例では、被弾もしていた。救護

されたワシ類については、密猟ならびに鉛中毒の可能性を探るために、X線撮影が必

須である。

 発生時期は毎年1月から5月はじめまでであり、このことも狩猟による未回収個体

を食べることによって発生することを示唆している。

 

 表1 今までに道東地方で報告されているワシ類の鉛中毒例

 

95. 4.24 網走管内  今回の増田氏報告例を参照

96. 2. 5 網走市   オオワシ 胃内鉛散弾

97. 1.27 遠軽町   オジロワシ 散弾被弾、胃内にも鉛片

97. 2.11 清里町   オオワシ ライフルの破片、シカの毛(知床博物館、北大)

97. 2.14 弟子屈町  オオワシ 水鳥用鉛散弾(道衛研)

97. 4. 6 音別町   オオワシ 鉛破片

97. 4.12 阿寒町鹿の沢   オオワシ

97. 4.16 阿寒町ヘルプナイ オオワシ

97. 5. 7 白糠町二股 オジロワシ(死体、胃内に鉛塊1ケ、道衛研にて確定)

97. 5. 9 白糠町庶路 オジロワシ(保護後死亡、鉛片5ケ、道衛研にて確定)

 

 そのほか、鉛中毒と確定したという報告はないが、以下の報告がある。

96. 2 月 釧路管内より釧路動物園にオオワシとオジロワシ4羽搬入。全て極度に削痩

しており、全て死亡した。

 

※この表には、当初演者が準備していた症例のほか、増田氏、武田氏の提供してくださっ

た症例も含んでいる。

(本報告後、97年から98年の冬にかけて新たに19羽の中毒死が確認された。)

 

 

 環境庁の釧路湿原ワイルドライフセンターに収容された5例のオオワシについて、詳し

い検視結果をまとめた。表2には発生地、一般的な外貌所見と、X線による鉛像の有無を

示した。

 オオワシの標準体重は6〜8kgであり、いずれの症例にも軽度〜極度の体重減少が見

られる。その程度は、発症してからの時間の経過によるものと思われる。水鳥の鉛中毒で

も見られる緑色下痢は、すべての例で見られた。先に述べたように、鉛を粒として飲み込

まない鉛中毒もあるし、すでに溶けてしまっているものもあるので、胃内の鉛の量は、必

ずしも中毒の程度とは一致しない。しかし治療する場合には、胃内に鉛が存在するかどう

かは重要なポイントとなる。

 

 表2 オオワシ5例の一般検査、X線における特徴

 

症例 日付   発生地      体重  緑色下痢 X線での鉛像

@ 1996.2. 5  網走市美崎    3600g  あり   胃内に水鳥猟用鉛散弾2個

A 1997.2.14  弟子屈町和琴   5150g  顕著   なし

B 1997.4. 6  音別町霧里川   3400g  顕著   胃内に1〜5mmの破片多数

C 1997.4.12  阿寒町鹿の沢温泉 3700g  あり   胃内に砂粒状のもの多数

D 1997.4.16  阿寒町ヘルプナイ 4500g  顕著   なし

 

 

 表3に、解剖所見の主なものを示した。肝臓の異常、胆嚢の膨満が重要な共通所見である。

また栄養状態を反映する胸筋も、もちろん著しく退縮する。

 

 表3 特徴的な解剖所見

 

症例 肝臓     胆嚢             胸筋

@  萎縮、脆弱化 著しく膨満          著しく退縮

A  萎縮、脆弱化 著しく膨満          著しく退縮

B  萎縮、脆弱化 著しく膨満          著しく退縮

C  萎縮、脆弱化 不整形硬結、胆泥と砂粒状結晶 著しく退縮

D  萎縮、脆弱化 破裂             著しく退縮

 

 臓器に含まれる鉛濃度により、最終的な確定診断が下される。正常値についての詳しいデータ

は揃っていないが、通常どの動物種にあってもバックグラウンド値は0.1ppm以下ということにな

っている。(今回の測定においては、定量限界は 0.01ppmであった)しかし0.1ppmではすでに酵

素阻害が起こっていると言われており、正常値が0.1ppmであるということではない。

 表4に示したように、今回の5例の検査材料の鉛濃度は、どれもバックグラウンド値をはるか

に超えており、この結果からこれらの症例は鉛中毒であることが確定した。各種の臓器を全て調

べなくとも、診断は下せる可能性が高い。またこれらの値は、ハクチョウやマガンで報告された

鉛中毒の症例の数値と似通っている。

 

 表4 臓器中の鉛濃度 ppm(mg/kg湿重量)

 

症例 肝臓  腎臓  胆汁  血液

@  31.9  14.1   6.2  19.0

A  41.3  10.7   4.1   5.8

B  16.4   −   5.9   −

C  36.1  12.1   −   −

D  21.1   3.3   5.1   −

※北海道立衛生研究所の分析による)

 

 以上、道東におけるワシ類の鉛中毒の発生状況を報告したが、これ以外にもたくさんの症例が埋

もれているものと考えられる。最近においてはワシ類の死亡・収容の原因として鉛中毒はごく普通

のものになっている感さえあり、事態は放置できないのではないかと感じている。

 このような憂慮すべき事態を改善するためには、従来から取り組まれている水鳥猟における鉛散

弾の使用禁止という対策に加え、ライフル弾の問題、またシカ猟がワシ類の鉛中毒の大きな原因と

なっていることについて、積極的なアピールと、規制に向けての働き掛けが必要なのではないか。

研究会の会員の方々にも、こういう意識を持って、鉛中毒の症例を摘発してほしい。

 特につい先日、シカの生息数を6万頭から3万頭に減らすという管理計画が出されたが、もしこ

のような大削減を従来のように銃猟によって行なおうとすれば、ワシ類の鉛中毒は一層深刻になる

ことは間違いない。今後の対応についても議論するべきであろう。

 

 

〈添付写真〉(本ホームページでは割愛)

@音別町のオオワシ死亡個体(黒沢)

A阿寒町鹿の沢の死亡個体(齋藤)

B筋胃内に見られる多数の鉛片(音別町の症例・黒沢)

C胸筋の著しい退縮(齋藤)

 

 

ワシ類鉛中毒釧路ワークショップ レポート

 

 今般、道東地区においてオオワシ・オジロワシの鉛中毒症が増加していることは

すでにご承知の通りです。またその原因の多くがエゾシカ猟に使用されるライフル弾に

あることが示され、今後の対応が迫られているところであります。行政ではすでにいろ

いろな対策が立てられ、猟友会の協力も得ながら進められる予定と聞いておりますが、

諸般の事情から直ちに抜本的な対応ができる状態ではないとも伝えられており、ここ数

年は被害が続くことも予想されます。

 私どもは、ワシ類保護の立場からこの問題を重大に受けとめており、鉛中毒の発生を

少しでも低減させるために、官民一体となった努力が必要であると考えております。そ

して微力ながら、できうる分野で協力申し上げたいと思っております。つきましては別

紙の通りワークショップを開催し、行政、狩猟者、および鳥類保護関係者等が一堂に会

してこの問題について話し合う場を作りたいと考えました。

 1998年10月18日、ワシ類の鉛中毒の主要な発生地の一つである阿寒町において、以下

の通り「ワシ類鉛中毒・釧路ワークショップ『ワシ類の鉛中毒防止に向けて』」を開催

し、約90名の参加者による官民一体となった活発な意見交換の末、ページ頭の大会決議

を採択するにいたりました。速やかにこの問題を解決できるよう、今後も諸活動を展開

して行く所存ですので、ご理解ご協力をお願い申し上げます。

 

 

  ワシ類鉛中毒・釧路ワークショップ「ワシ類の鉛中毒防止に向けて」開催要項

 

 

目的:ワシ類の鉛中毒の現状について関係者が共通の認識を持ち、被害軽減のためにこ

れから行うべき事項を再確認し、行政・民間それぞれでできることを話し合い、お互い

に協力しながら進めるための基礎を作る。

主催:ワシ類鉛中毒ネットワーク、北海道野生生物保護公社、日本野鳥の会、日本野鳥の会釧路支部

日時:1998年10月18日(日)9:00〜15:30

会場:阿寒町阿寒国際ツルセンター

後援:阿寒町、北海道獣医師会、北海道釧路支庁、白糠町

協力:オジロワシ・オオワシ合同調査グループ、日本雁を保護する会、

   野生動物救護研究会、野生動物医学会

 

プログラム

1)9:00開会挨拶(黒沢ネットワーク代表)

2)9:10趣旨説明

3)パネル報告(講演20分、質疑5分)

   座長:黒沢信道、竹下信雄(日本雁を保護する会)

 9:20〜9:45   演題1「オジロワシ・オオワシの現状について」

   中川元(オジロワシ・オオワシ合同調査グループ)・白木彩子(北大環境科学研究科)

 9:45〜10:10   演題2「ワシ類の鉛中毒の現状について」

   黒沢信道(ワシ類鉛中毒ネットワーク)

 10:10〜10:   演題3「エゾシカ猟との関連とその対策」

   大和田収(釧路支庁自然環境係長)

 10:35〜10:50 休憩

10:50〜11:15 演題4「ワシ類保護上の課題」

   植田睦之(日本野鳥の会研究センター)

 11:15〜11:40 演題5「鉛中毒防止における海外の取り組み」

   斎藤慶輔(北海道野生生物保護公社)

 11:40〜12:20 総合討論および声明の採択

   (昼食)

4)13:20アクションプランの策定

 (鉛中毒ネットワークより具体案の提示と検討、特に今季の対策)

  1, 鉛拡散を防止するための対策

  2, 鉛汚染状況と影響に関するモニタリング

  3, 被害鳥救護に対する体制の確立

5)15:30 閉会

 

HOME