ワシ類鉛中毒ネットワークの概要

 

 ワシ類鉛中毒ネットワークは、オオワシ、オジロワシを始めとする大型猛禽類に発生する鉛中毒を防止するために活動している民間の団体です。事務局は北海道東部の釧路市にあり、主に北海道を中心に、ワシ類の生息状況や鉛中毒の実態調査、鉛中毒防止に関する啓蒙活動など、鉛中毒を防止するための各種の活動を行なっています。

 

【ワシ類の鉛中毒とは】

 鉛は比重が重く、加工しやすい上に価格の安い、便利な金属です。昔からいろいろな用途に使われてきましたが、毒性も強いことがわかったため、近年は次第に代用金属に代えられる傾向があります。今では無鉛ガソリンが普通となり、家電製品にも「はんだ」が使用されなくなってきています。

 しかし現在でも鉛が多量に使われているのは、狩猟等の銃弾と、釣りの重りです。これらの鉛は自然界に撒き散らされ、それを口にした鳥類が鉛中毒にかかり、大量に死亡することがあります。ハクチョウやカモなどの水鳥は、もっとも被害を受けている種類です。

 北海道では1996年頃から、オオワシとオジロワシで鉛中毒死するものが急増し、この主な原因が、エゾシカ猟に使われた鉛ライフル弾であると解明されました。シカ猟で射止められたシカは、現地で解体されることが多く、銃弾の当たった部分は食用にならないため放置されます。その残骸(残滓と呼びます)には銃弾の鉛破片が残っており、これをワシが肉と共に食べて、中毒にかかります。始めは神経が冒されて運動能力が低下し、餌がとれなくなって最後には衰弱して死亡するに至ります。

 

【ワシ類に鉛中毒が増えた理由】

 北海道では近年、エゾシカの数が増加し、農林業に被害を与えるようになりました。そのため生息数をコントロールしようと、狩猟の規制が緩められ、ここ数年間のうちに狩猟数、有害駆除数とも急激に増加しました。そのため放置される残滓も、それをねらって山間部に飛来するワシの数も急激に増え、ワシ類の鉛中毒が急増することになったと考えられます。

 

【鉛中毒の被害状況】

 それでは、鉛中毒による死亡数は、どのように推移してきているでしょうか。これまで確認されている鉛中毒死したワシの数を見てみましょう。データは北海道庁およびワシ類鉛中毒ネットワークの調査によるもので、オオワシとオジロワシを合計した数です。カッコ内は、オオワシとオジロワシそれぞれの数を示しています。

1994年度:1羽(1,0)

1995年度:2羽(2,0)

1996年度:8羽(5,3)

1997年度:21羽(18,3)

1998年度:26羽(16,10)

1999年度:14羽(10,4)

2000年度:17羽(13,4)

 1995年度から98年度にかけて、エゾシカの狩猟規制が順次緩められています。それまで禁猟だった雌ジカが、1996年1月に解禁となり、狩猟期間も年ごとに延長、狩猟してよい区域も拡大されてきました。それと平行して、ワシ類の鉛中毒が増加してきたのがわかります。

 またこの数は、山中で発見され、届け出られたものだけですので、実際に山中でどれほどのワシが死んでいるかは分かりません。おそらくこの10倍、20倍といった数ではないかと考えられています。ちなみに、もっとも被害の大きかった年には、北海道内で拾得されたすべてのワシの死体のうち、約8割が鉛中毒であったとわかっています。鉛中毒がワシ類に与えている影響の大きさがわかる数字です。

 また現在まで、被害にあったことがわかっているのはオオワシとオジロワシだけですが、私たちの調査ではこれらのほかに、イヌワシやクマタカ、シマフクロウも残滓を食べていることが観察されています。鉛汚染は、稀少猛禽類の間に広がっている可能性があるのです。

 

【防止対策と効果】

 この重大問題を解決するために、行政と、狩猟団体や私たちなどの民間団体が、既に対策を始めています。鉛中毒の発生理由は単純ですので、対策も決まっています。ひとつは鉛の銃弾を使わないこと、これが根本的な解決策です。もうひとつの補助的な手段は、山中に残滓の放置をしないことです。

 1999年度から、北海道庁により鉛弾の使用自粛が呼びかけられると同時に、市町村によって各地に残滓の回収ボックスが設置されました。これにより鉛中毒の被害は確かに減少しました。2000年には、法律によりエゾシカ猟での鉛ライフル弾使用が禁止され、これでほとんど鉛中毒がなくなるのではないかと期待されましたが、残念ながらかえって増加するという結果に終わりました。

 最近になって、環境省が残滓の放置を禁止する法律を作る動きを見せています。結構なことですが、すべての死体が回収されるわけではなく、やはり根本的な解決は、鉛銃弾を使用しないことです。

 

【鉛中毒根絶のために必要なこと】

 北海道では2001年度から、エゾシカ猟において鉛ライフル弾を含めたすべての鉛弾が使用禁止になりました。しかしこの冬も、すでに鉛弾による鉛中毒死が報告されています。これは、使用禁止の取り決めが現場では守られてないことを示しています。一部のハンターは、禁止されている事を知りながらまだ鉛弾を使っているのです。たしかに狩猟の現場で銃弾の種類を取り締まることは実際上非常に困難なことです。

 規則で決めても守られないとするならば、今後は鉛弾が手に入らないように、流通段階での規制をかけなくてはならなくなると考えられます。

 また、北海道には本州方面からも多くのハンターがエゾシカ猟にやってきます。しかし北海道以外ではいまだに鉛弾が主流であり、これらのハンターは銅弾等に切り替えているのか疑問もあります。本州などではこれまで、鉛中毒は発生していないと言われていますが、これはワシ類が少ないために発見されてないだけではないかと思われます。発生している可能性は既にあるのです。

 被害にあっているのは、すでに絶滅が危惧されるリストに載っている、希少な猛禽類です。鉛中毒の被害の大きさを考えれば、日本全土で鉛弾を禁止にすることに何の支障があるのでしょうか。私たちは全国での鉛弾使用規制と、鉛弾の流通ストップを求めています。

 

【ワシ類鉛中毒ネットワークの活動】

 ワシ類鉛中毒ネットワークは、1997年に発足しました。これまで行ってきた活動は、以下のようなものです。

1)ワシ類の生息状況調査

2)収容されたワシ類の死因解明と、鉛汚染に関する調査

3)野外で生活しているワシ類の鉛汚染度調査

4)山中での自主的な残滓の回収

5)鉛ライフル弾に代わる、銅弾等の性能テスト

6)銅弾への変更のため、狩猟団体に対する必要器材の貸与

7)シンポジウムや報告書、ホームページを通しての啓蒙

 

 ワシ類鉛中毒ネットワークは、趣旨に賛同下さる個人からの寄付と、趣旨を理解下さっている基金等からの助成をいただきながら、会員のボランティアで活動しています。ワシ類の鉛中毒が根絶される日まで、地道な活動を続けていく覚悟です。皆様のご支援をお願い申し上げます。