ワシ類の鉛中毒根絶をめざして W
ワシ類鉛中毒ネットワーク2001年度活動報告書ダイジェスト
ワシ類鉛中毒ネットワークは、オオワシ、オジロワシを始めとする大型猛禽類に発生する鉛中毒を防止する目的で活動している民間の団体です。事務局は北海道東部の釧路市にあり、主に北海道を中心に、ワシ類の生息状況や鉛中毒の実態調査、鉛中毒防止に関する啓蒙活動など、鉛中毒を防止するための活動を行なっています。
2001年度は、ワシ類の鉛中毒問題を語る上で大きな節目の年でした。なぜなら、この年よりエゾシカ猟ではいかなる種類の鉛銃弾も、その使用が禁止となったからです。
現在まで日本で報告されているワシ類の鉛中毒は、わずかな例外を除いて、ほとんど全てのものがシカ(エゾシカ)猟に使用された鉛銃弾を原因としています。したがって原因はその年に発生したシカの死骸(残滓)由来であり、その影響は年を越えて及ぶことは原則としてありません。つまり、鉛中毒の発生はその年における鉛銃弾の使用を反映するものです。
以上のことから、使用禁止が遵守されることによって2001年度にはワシの鉛中毒の根絶が期待されていました。
T. 2001年度のワシ類鉛中毒発生状況
鉛中毒死の根絶はできず
2001年12月から2002年6月上旬までに報告・確認されたオオワシとオジロワシの死亡総数は、北海道全域で16羽でした。これらは全て鉛中毒かどうかの検査がなされ、このうち11羽(オオワシ8羽、オジロワシ3羽)が鉛中毒死と診断されました。
これらの胃内容物を調べたところ、4例からは鉛ライフル弾の破片が、2例からは鉛弾は検出されなかったもののシカの体毛が見つかりました。その他は原因物が見つからなかったり既に内臓が消失していたものでしたが、この傾向はこれまでと同様で、ほとんどがエゾシカ猟の鉛弾由来と推測できました。
鉛中毒死の数はこれまで、最高だった1998年度の26羽から徐々に減少傾向を示してきました(図1)。これは鉛中毒防止に関する取り組みの効果と考えられます。しかし鉛弾使用禁止後も、11羽もの鉛中毒死が確認されたことは遺憾です。狩猟の現場では、まだ相当数のハンターが鉛弾を使用していることが判明したと言えましょう。

鉛中毒死の比率も減少せず
また、鉛中毒死の数が減少していると言っても、届け出られた全体の死亡数も減少しています。全体の死亡数のうちに鉛中毒死が占める割合を見ると2001年度は69%(11例/16例)であり、過去3年間(78%,56%,63%)と比べると、実に1998年度に次ぐ高さでした(図2)。
このことは、冬期間や春先に山へ入る人の減少によって、ワシの死骸自体が発見されにくくなった、あるいは死骸があっても関係機関に届け出られなくなっている疑いを示すものです。一方でワシの個体数が次第に減少している可能性も否定できず、いずれにしても鉛汚染が改善しつつあるという楽観的な見方はできないと言えましょう。

西へ拡大する発生地域
今シーズンの新たな傾向として、鉛中毒の発生地域に変化がみられました。
これまでは道東地域、特に釧路管内での鉛中毒発生が多数を占めていましたが、今回は釧路地域で減少傾向にあるのと裏腹に、今まで鉛中毒が報告されていなかった上川地域(旭川市)、胆振地域(白老町、壮瞥町)、道南地域(八雲町)で新たに発生が確認されました。
これは、シカの分布拡大に伴って北海道の西側でもエゾシカ猟が盛んになってきていることを反映しているものと思われます。しかし、道東地域ではすでに地元ハンターの鉛汚染に対する意識が高く、地元自治体でもシカの残滓回収が積極的に行なわれているのに比べて、それ以外の地域ではこれらの対策があまり進んでいないという理由も考えられます。
隠れている鉛中毒はまだまだ多い
見つかった死体の中には、鉛中毒死の他にも、中毒死には至らないが明らかに鉛汚染を受けていることが判明したケースがありました。白糠町にて事故死したオジロワシと、音別町にて循環器不全で死亡したオオワシです。検査の結果鉛汚染を受けていないとわかったものは、16例のうちわずか3例しかありませんでした。
また、これまで鉛中毒死したワシの発見数に注目してきましたが、これらは実際には「中毒死したワシのうち、たまたま発見され収容されたワシ」に限っての数字に過ぎません。実際は報告された数の何倍ものワシが被害にあっているのではないかと以前から言われていました。
今シーズンの当ネットワークの現地調査では、厚岸町、釧路町、標津町、浜中町などで弱ったワシが見つかっています。これらはみな運動失調の症状を示していたことから、鉛中毒が疑われます。また釧路市の山中でもエゾシカ猟に来ていたハンターがワシの死骸を発見、日高管内でもエゾシカ猟の盛んな地区で衰弱したオジロワシが見られています。これらはその後行方不明になっていますので、鉛中毒確認の数には入っていません。
これら数字に現われない鉛中毒や、汚染レベルの低い潜在的な鉛汚染は確実に広がっており、オオワシ、オジロワシの野生個体群を脅かしていることが推測されます。
U. ワシの飛来状況
ワシ類鉛中毒ネットワークでは、鉛中毒被害が山間部で集中的に発生していることから、これらの地域でのワシ類の生息状況を把握するために、1998年度より独自の調査を行なってきました。近年は山間部以外の地域における調査も行なったり、既存調査の記録提供も受けられるようになり、北海道におけるワシ類の冬期生息状況が次第に明らかになってきました。
今シーズンは、2001年10月から2002年5月まで独自の現地調査を行ないました。またオジロワシ・オオワシ合同調査グループ(事務局・斜里町)による調査結果、北海道環境科学研究センター道東野生生物室の行なったワシ類に関する調査のデータ、羅臼ビジターセンターによるワシ類カウントの結果、厚岸水鳥観察館による別寒辺牛川河口のワシ観察記録を総合して集計し、これらのデータを解析してワシ類の生息状況について検討を行ないました。
調査した地域一帯のデータからは、ワシの移動に関して推測が可能となりました。越冬期の前半には河川周辺で遡上するサケなどを餌としている個体が多く、1月頃より道東の太平洋岸で増加、エゾシカ猟の終猟間近の1月後半から山間部に進出し、2月後半にピークを迎えています。一方羅臼海岸では2月から3月前半にかけて生息数が多くなります。いずれも4月には渡去しています(図3)。
山間部に生息するワシ類はシカの残滓を主要な餌としているため、未だに鉛弾が使用されている現状では、全ての個体に鉛汚染の危険があります。鉛汚染を受ける可能性のある個体数は、山間部にいるものだけで最低200羽です。道東海岸部に生息する個体も、容易にシカ残滓を食べに行くことができ、その数はおよそ200羽。さらに今回調査できなかった根室・風蓮湖周辺から、春の北上期に山間部に立ち寄るものがあることが証明されており(日本野鳥の会1995)、これらを加えるとおそらく500羽以上のワシが、シカ猟によって鉛汚染を受ける可能性があると考えられました。

V. その他の活動
ワシ類鉛中毒ネットワークでは、このほかにも鉛中毒防止に資するため、各種の活動を行ないました。
○鉛中毒罹患鳥の治療
○他機関に収容されたワシ類について、鉛中毒の診断と治療に関する協力
○野外で生活している「一見正常と思われるワシ」の鉛汚染を調べるための捕獲調査
○標識や発信機をつけたワシの追跡調査
○北海道以外からの鉛中毒に関する情報収集
○オジロワシ・オオワシ合同調査への協力
○サハリンにおけるオオワシの繁殖状況調査に参加
○広報・情報共有のための活動
・「ワシ類鉛中毒ネットワーク最新情報」の発信
・ネットワークニュースの発信
・インターネットホームページ上での情報公開
・帯広市でのワシ類シンポジウム開催への協力
・前田一歩園自然セミナーへの協力
W. 今後の展望と課題
現在地球上に生息するオオワシは4,000〜5,000羽と言われており、そのうち1,500〜2,000羽が北海道で越冬しています。北海道での鉛中毒は、オオワシの種の存続に重大な影響を及ぼします。北海道で多数死亡していることが明らかな上、一見健康でも鉛汚染による繁殖率低下が懸念されるからです。事実サハリンではここ数年、オオワシの繁殖数が著しく減少していると報告されています。
オジロワシについても状況は同様であり、国境を越えて渡りを行なう鳥類の保護は、今や国際的な責任でもあります。日本での鉛汚染防止は急務です。
しかし法的規制が設けられた後も鉛弾の使用が続いていることから、鉛中毒根絶のためには、もう一歩進んだ対策をとる必要に迫られています。
すでに代替弾に移行した多くの良識あるハンターがいる一方、現在も鉛弾を使用しているハンターは、禁止されていることを承知の上で使用していると思われます。鉛弾を使用しても摘発されないと考えているのではないでしょうか。実際に鉛弾が使用されているにも関わらず、今シーズンこの違反での検挙が皆無であったことを見るまでもなく、現状では猟場において違反使用を摘発することは、事実上不可能に近いと言えます。
この状況を許している要因は、「北海道のエゾシカ猟において」のみ鉛弾が禁止されていることにもあります。北海道内では現在も鉛ライフル弾が流通しており、エゾシカ猟以外という名目で入手可能です。また毎冬3,000人もの道外ハンターがエゾシカ猟に訪れると言われていますが、北海道以外では依然として鉛弾でシカ猟が行なわれています。これらのハンターはすべて代替弾に切り替えているのでしょうか。
また一部ハンターの間では「残滓はすべて回収するので、鉛弾を使用しても問題ない」という声も聞かれます。しかし狩猟において、半矢が全く出ないという意見は現実的ではありません。万一のために無害弾を使用することが、銃を持つ者の正しい考え方だと思います。
これらの問題点を整理すると、今後とるべき対策は以下の4点に絞られます。
1)鉛弾の流通量を調査し、エゾシカ猟用に鉛弾が購入されていないことを確認すること。エゾシカ猟用に購入されている疑いがある場合には、鉛弾の流通そのものを禁止する措置をとる必要がある。
2)ハンターが所有している鉛弾の残弾を、速やかに回収や処分する方法を検討すること。
3)日本全国において鉛弾の使用を禁止し、代替弾の流通を促進すること。
4)代替弾への移行をためらっているハンターがいると思われるので、代替弾でも今まで同様に狩猟ができることを伝え、代替弾の正しい使い方を告知する方策を実施すること。
これらのことを、行政、狩猟者団体、我々民間団体が協力して行ない、ワシ類の鉛中毒根絶に向けて活動しなければなりません。また、現在まで北海道以外でのワシ類鉛中毒の確実な報告はありませんが、本州の山間部ではすでに発生している恐れもあります。北海道のみならず日本全土での運動にしていきたいと考えます。
【謝 辞】
ワシ類鉛中毒ネットワークの2001年度活動の一部は、「セブン-イレブンみどりの基金」委員会の資金援助のもとに行ないました。同基金と委員会に対して、心よりのお礼を申し上げます。