ふたりの出会い
序章〜「積極的にアタックするのが吉(はぁと)」
SAM's part
「占いなんか信じるんじゃなかったよ…」
2000年5月。春も終わり梅雨を迎えるころ。
真夜中の自分の部屋の布団の上で、私は何度も何度も溜息まじりに呟いては、真っ暗な天井を見つめていました。
久しぶりに好きなコができたんです。そしてある日、彼女をお茶に誘い、いっしょに映画に行く約束を取り付けたんです。ここまでは、まあ順調だったのかもしれません。
だったら大人しく休日まで待てば良いものを、すっかり浮かれた私は、何だかんだと彼女にコンタクトを取りました。もともと一直線なタイプですが、たまたま見た雑誌の占いに「ラブ運=積極的にアタックするのが吉(はぁと)」とあったものだから、余計に猛攻撃に出ていました(笑)。
そしてデートの前日、22時くらいでしたか。彼女から携帯に電話が…。言いにくそうに言葉を選びながら、一生懸命に彼女は話していました。要約すると「積極的すぎて、ちょっと引いた」ということらしいです(涙)。
かくして数週間で失恋。なんだかとっても落ち込んでしまい、「なーんもする気力がねーや」って感じで日々を過ごしていましたね。
仕事を辞めては見たけれど…
YOME's part
1999年。
4年間働いていた仕事を辞めた。
精神的にも肉体的にも疲れており、「ちょっと自分を見つめなおそうかなぁ」と思ったからだ。
私のしていた仕事はショッピングモール内にあるお肉屋さん。
だいたい8時間労働なのだが、人手が足りないときはサービス残業は当たり前。
でもって週休1日で有休なんて形だけのもの。
休んだりすると、翌日の職場の冷たい視線が痛いので、誰も取らない。
そんな会社ではあったが、いざ辞めてみると、徐々に不安と焦りが募りはじめる。
最初の1週間は楽しかったのだけど。(^^;
そういう状況を抜け出したければ、次の仕事を見つければ良い。
それは十分に分かっていた。
だけど私は、なぜだかまったく次の仕事に就く気になれなかった。
それ以上につらかったのが、段々と増幅していくどうしようもない寂しさ。
仕事を辞めた1人暮らしの私にとって、その寂しさと言ったらなかった。
携帯電話の向こう側
SAM's part
2000年6月。
積極的なアプローチが裏目に出てしまったのか、もともと脈がないのに自意識過剰に突っ走った当然の結果だったのか…。とにかく一度は掴んだチャンスを逃してしまった私。有頂天だっただけに反動が大きく、過去最大級のヘコみっぷりを見せていました。
そんなとき、男友達がメル友にハマっていたのを見て、私も何となくメル友探しを始めます。
ネゲット狙いではなかったので(失恋の痛手で、まだ前向き(?)にはなれず)、年齢性別一切不問で「単なるメル友」探し。ただ、メル友を募集する男の大多数はネゲット狙いなわけで、そんな彼らに男である私からメールを入れても無意味。必然的に相手は女性が多くなります。
そんなわけで、私のメル友はほとんどが女性。
関東在住の年上のお姉さま、関東在住のJUDY AND MARYファンの女のコ、サザエさん好きの女のコ、東北のガンダムおたく、四国在住の主婦、関西在住の女のコ…と全部で6人のメル友とメールしてました。
関東のお姉さまとは“恋愛談義”が多かったかな。
同じく関東在住のJAMファンとは、JAMの話ばっかしてました。
サザエさん好きの女のコは、偶然ハンドルネームが同じ「たま」だったというだけ。大して会話も弾まず、週に一度メールを往復する程度。
唯一の男性メル友である東北ガンヲタとは“身内の借金の尻拭き”というありがたくない共通点があって、いろいろ愚痴を言い合う仲に。
四国の主婦は、これまた不思議な一致というか、私の母と同じ病気を患っていたということで、体験談などを聞きました。
最後の関西娘は、オトコ漁りが目的だったらしく、すぐにメールが“チ○チンは大きい?”とかいう内容に。うわーん、怖いよぅ!(笑)
もしもーし。ちょっと皆さーん、もしかして引いてますか? まさか…、とか思ってますか?
そう、そのまさかなのです、サムとヨメはいわゆるメル友から始まったのです。なんと非常識な! と怒られるかもしれませんが、事実なんだから仕方ありませぬ。
というわけで、この6人の中の誰かがヨメさんなのです。さて誰でしょう(笑)。
初めてのメル友
YOME's part
仕事をしてないので焦る。暇。寂しい。
そんな分かり切った事で、ウジウジ悩む自分が嫌になっていた。
そんなウジウジから脱却するべく、「まずは今しかできない事をしよう!」と、
前から思い描いていた1人旅を計画した。
しかし、何から手をつけて良いのか分からない。
その当時、我が家にはパソコンなんて物はなく、調べると言えば本屋ぐらい。
本屋に行って旅本を立ち読みしたりするが、イマイチ実態がつかめない。
「誰か旅に詳しい人いてへんかなぁ」
と思い、何気なくいつも見ていた携帯のメル友募集サイトをのぞく。
小心者の私は、いつも他人のコメントやプロフィールを見るだけだったが、
「あっ!ここで旅に詳しい人を募集すればええやん!」
と思い、初めてメル友を募集してみた。
生まれて初めてできたメル友は、東京に住む旅好きの30代の男性。
旅の計画など、何かと相談に乗ってくれた。
私が計画したのは、北海道の札幌から宗谷岬までの海沿いを(ロードレース用の)自転車で走り、宗谷岬から利尻・礼文島へというものだった。
ハラハラドキドキの1人旅だったが、色んな仲間に出会えた。
この旅を経て、私はメル友のありがたさを知った。
例のメル友が、何かと気にかけてくれたりアドバイスしてくれたりと、旅の途中でも大変な支えになってくれたからだ。
「こんなメル友ならもっといてもいいなぁ」
と思い、同じ携帯サイトで新しくメル友を募集してみた。
ハンドルネームは「たま」。
サザエさん家のしあわせそうな猫の名前から頂戴した。
キリンジを探せ!
SAM's part
6人のメル友とのメール。
赤の他人、現実世界で触れ合うことのない他人だからこそ、家族や友だちには相談できないことまで話せちゃいます。その不思議なコミュニケーション形態は、シリアスな内容でもイージーに語れるという点において、非常に魅力的でした。
そんなあるとき、例の「サザエさん好きのたまちゃん」と音楽の話になりまして。当時たまくん(=私)は、大好きな「JUDY AND MARY」が活動休止したり再開したりと迷走中だったので、新しく傾倒できるアーティストを探していたころでした。
ちなみに「たま」というハンドルネーム。
彼女はサザエさん家の愛猫「タマ」から取ったとのことですが、私はというと「凝ったハンドルネームを携帯で入力するのが面倒だから」というふざけた理由でして。
例えば、ハンドルネームが「まりっく」だったりすると、「7」×1回、「9」×2回、「4」×6回、「2」×3回…と全部で12回もキー入力が必要です(分かりにくい方は、携帯のキーを見ながら確認してみてください)。その点「たま」なら「4」×1回「7」×1回…の2回で済んじゃいますから。
余談はさておき、たまちゃんのオススメ・アーティストは「キリンジ」だとか。はっきりいって「誰それ?
相撲取り?」みたいな感じでしたが、せっかくなので一応ひととおり近所のCD屋を探し回りました。
もともと、マイナーなアーティストは望むところなのです。好きな音楽が「JUDY AND MARY」なんていうと、ミーハー野郎と思われがちですが、私の場合、売れる前のデビュー当時からのJAMファン。そんな私ですから、JAMが解散したからといって別のメジャー系アーティストに走る気は、毛頭なかったのです。
ところが「キリンジ」が無い。どこにも無い。まったく無い。
「一体どんだけマイナーなのよ…」と諦めかけていたところ、見かねた(?)たまちゃんから救いのメールがきたのです。
CD貸そか?
YOME's part
あらたにメル友を募集した私に、返信が何通かあった。
でも、あまり多くの人とのメールは面倒なので1人だけに返信した。
その返信相手は、同じハンドルネームの「たまくん」だった。
たまくんとは、例の旅行指南役のメル友に比べると、ずいぶん当たり障りのない会話ばかりしていた。
好きな映画の話で、私は「ショーシャンクの空に」が好きと答えた。
たまくんは
「
スゥイートホーム」
と答えた。
故・伊丹十三さん製作総指揮の作品で、ノッコも出演した駄作も駄作のB級映画だ。
「この人、センス悪るぅ!!」と、思ったのを覚えている。
好きな音楽の話では、たまくんは「JAM」と答えた。
もちろん私もJUDY AND MARYなら知っていたが、略して「JAM」になるとは知らず、
てっきり外国のミュージシャンと勘違いしたりして…。
私はというと、その当時一番ハマっていた「キリンジ」が好きだと答えた。
すると意外な事に、たまくんは「キリンジ」に食いついてきた。
「どんな感じ?」とか聞かれたが、表現するのは難しい。
適当に、高音が少し似ているので「スピッツかなぁ」と答えた。
その後、どうやらたまくんは相当「キリンジのCD」を探した様子。
「キリンジのCD探してるけど見つかれへん」というメールが届いた。
私は、普段の友達と会話するかのように、あまり深く考えずに返信した。
「そんなに探してるんやったら、
CD貸そか?」
たまくんとたまちゃん、出会う
SAM&YOME
それまでは、お互いのことをろくに知らなかったたまとたま。それが、まさか実際に会うことになろうとは…。
しかも驚いたことに、ふたりの生活圏はめちゃめちゃ近所でした。お互いの住まいから電車で1時間もかかりません。
「こんな近くに住んでるなんて、すんごい偶然やな〜」と驚きつつも、とりあえずメールで待ち合わせ場所を相談します。結局、ふたりの生活圏がクロスする某駅のプラットホーム内をチョイス。日時は何となく8月1日の18:00ということに決定。
CDの貸し借りするだけなのに、居酒屋だのレストランだのに行く必要はないですからね。どうです、いたって健全なふたりでしょ?(笑)
で、当日8月1日。
なんとか早めに仕事を終えたたまくんは、電車に乗って待ち合わせ場所の某駅へ。ちょっと時間に遅れていたので、ホームへ降り立つと同時に周囲をキョロキョロ。
あらかじめメールで訊いておいた「白いTシャツにジーパン」という情報を元に、まだ見ぬたまちゃんの姿を探します。ちなみにたまくんの服装も「グレーのTシャツにジーパン」と伝えてあります。なので、お互いがお互いを探してキョロキョロしてるはず。
刑事じゃあるまいし、ホームで人探しなんてやってると、意外と目立つもんです。すぐに、「もしかして、たまちゃん?」「あー、たまくんですか?」と、それらしき姿格好のふたりが、お互いを指差しながらハンドルネームで確認。
はたして、たまちゃんは、フツーの女のコでした。とりたてて美人というわけでもない、十人並みの容姿の女のコ。どうせ文字だけの付き合いなんだし…と、メル友のルックスなんざ微塵も想像したことがなかったたまくんにとっては、違和感も何もなく。ただ単に「やや、どうもどうも」って感じでしたね。
ただ、たまちゃんが着ていた白地にブルース・リーの飛び蹴りモーションがプリントされたTシャツはいかがなものかと…。違う意味で勝負服ですぜ、お嬢さん。
一応、今日は男性とのファーストコンタクトなわけですよ。女性たるもの、いくらなんでも、もう少し頑張った格好してきても良いんじゃないかと…。
まあ、たまくんも人のこと言えたもんじゃなかったようで。このときのたまくんを見て、たまちゃんは「うわ、Tシャツよれよれやん。貧乏くさっ!」と思ったそうな。うーむ、一瞬にして「貧乏」を見抜くとは恐るべき眼力であります。
とりあえず、混雑したプラットフォームでは何なので、どこかで落ち着こうということに。「どうせなら改札を出なくても済むところに」と、同じプラットホーム内のマクドナルドへ場所を移します。いざ。
ハッピーセットと不細工マンドリル
SAM&YOME
たまくんが「CD借してもらうんやし、これくらいは奢るよ?」と勧めても、たまちゃんは「おなか減ってへんし、いらないです」の一点張り。結局、彼女は自腹でドリンク単品だけオーダー。
ずいぶん後になって彼女にこのときのことを聞いたら、「ここで奢ってもらったら、もし嫌な誘いがあっても断りにくくなるぞ」と思ったらしいです。しかも所持金が全然なくて、本当はすごくお腹が減っていたけど我慢したんだそうな(笑)。
一方のたまくん。彼はお腹がペコペコだったので、遠慮なく何か食べることにします(なにしろ、たまちゃんも本当はお腹が減ってるなんて知らなかったですから)。うじうじとメニューで悩むのが面倒なので、適当にメニューにでかでかと載っていた「ハッピーセット」をオーダーしました。
あまり女性と話すのが得意でないたまくんは、初対面ということもありテンパっていたのかもしれません。また慢性的な金欠病に深く蝕まれていたため(涙)、マクドといえども外食はほとんどしていなかったのです。
そう、彼は知らなかったのです。ハッピーセットにオモチャが付いてくるということを。
「オモチャはどれになさいますかぁ?」
こちらの狼狽などお構いなしに、店員の女のコが明るくハイテンションで訊いてきます。
さすがはスマイル0円のマクドナルドですね。OK,Good job! 君は悪くない。
かくしてたまくんは、いい歳をしてディズニー・キャラクターのぬいぐるみを選ぶはめに。
そんな間抜けな彼の横で、たまちゃんは「アハハ!」と面白そうに笑っていました。つられてたまくんも笑いながら、一番不細工なマンドリルをチョイス。
空いたテーブルに座っても、トレーに鎮座している不細工マンドリルが場違いで…。たまちゃんは「なんでハッピーセットなんか頼んだんですか?」と、まだ面白そうに笑っていました。
そういえば、このときの彼女は初々しく「です・ます」でしゃべってたんですね。
マシンガントーク炸裂
SAM&YOME
とりあえず不細工マンドリルのおかげで、お互いの緊張が少しだけ和らいだふたり。それだけでも、ハッピーセットを頼んだ甲斐があったというもんですよ(笑)。
ハッピーセット・ショックが収まったところで、さっそく
キリンジのアルバムCDを2枚あずかります。
実はこのとき、
たまちゃんのバッグには「CDをダビングしたカセットテープ」が入っていました。カンの鋭い方はどうしてだか分かりますね? そう。もしも、
たまくんが女性にとってヤバそうな人だった場合には、CDでなくてテープを渡すつもりだったのです。そうすれば返してもらう必要がないので、これっきりにできるというわけ。賢い!
ともあれ、
たまくんがヤバイ人種ではなさそうだと判断した、
たまちゃん。CDを渡したとたんに、ものすごい勢いでしゃべり倒します。
キリンジは男性デュオで、声がすごく綺麗だということ。
以前、お肉屋さんで働いていたこと。
三代目魚武濱田成夫(大塚ねねの元夫)に実際に会ったこと。
その際に店の極上肉をプレゼントしたこと(
プレゼントに生肉って…)。
お笑いが大好きで、芸人の出待ちをしたことがあるということ。
最近、観てみたいと思っている映画のこと。
とにかく、すごいマシンガントーク。
たまくんはもっぱら聞き役、笑い役でしたが、ふたりしてたくさん話してたくさん笑いました。
その一方で、
たまくんは頭の中でいろんなことを考えたりして。
(このコ笑った顔がホンマ無邪気やなぁ…)
(あれ、唇ちょっと色っぽい?)
(つーか、乳でかっ!)
…などと、
えろえろいろいろなことを思ったりもしたのだけれど、それって好きとか嫌いとかいう感情とは関係がありません。こういう「女性の肉体的な特徴」についてジロジロと見てしまうのは、いわば男性の浅ましさというか、哀しい性(さが)というか、まあ条件反射みたいなものですから。
とりあえず、「CDの返却で次に会うときには、たまちゃんが観たいって言うてた映画でも観よっか」と約束して、それぞれの家路につきました。
恋人になりたいとかエッチがしたいとか、妙な下心がないぶん、そういう意味では少しもドキドキしませんでしたね(笑)。もちろん、初対面ということでの緊張感はあったでしょうけど。
いろんな出逢いのカタチ
「サムとヨメはメル友だった」ということで、驚かれた方もいるかもしれません。なかには、私たち夫婦に対して幻滅した方もいるかもしれません。
確かに、私たちの出逢いはメールから始まりました。
でも、私たちは結婚披露宴の「馴れ初め紹介」においても、正直にメル友だったことを公表しています。年輩の親族も列席していましたが、躊躇いはありませんでした。
なぜなら、メル友として知り合ったことに対して、後ろめたさが無かったからです。
男女の出会いはいろいろあります。
日常生活で偶然出会う人もいるでしょう。共通の友だちを通じて知り合うこともあれば、お見合いや合コンがキッカケということもあります。あるいはナンパなんていうこともあるでしょう。
少なくとも、あの駅のあのマクドのあの席で出会ったたまちゃんとたまくんには、「恋人を見つける」あるいは「ヤれる相手を探す」という意識は皆無でした。その意味において、ナンパなどよりいくらかマシで、「無理して(探して)」異性と知り合ったという感覚がないのです。
もしもあのとき…
今こうやって、あの頃のことを思い出しながら、とりとめもなく考えていると、いろんな偶然の末に出会えたことが純粋に嬉しく思えるのです。
もしもあのとき…。
私が失恋していなかったなら。
ヨメさんが仕事をやめていなかったら。
私が「キリンジ」に興味を抱かなかったなら。
ヨメさんが私にCDではなくテープを渡していたなら。
そしてもし、ふたりが違うハンドルネームだったなら…。
私たちは無宗教ゆえに祈りを捧げる特定の神さまなんていませんが、それでも何かに感謝せずにはいられない気持ちになっちゃいますね。
以上が、さして面白くもないサムとヨメとの初めての出会いです。読んでくださったみなさん、長々と駄文乱文にお付き合いいただき本当にありがとうございました!
\(*^▽^*)/\(*^▽^*)/
それから、末筆ながら。
この企画(?)のきっかけを下さった、
たこまめさんに感謝。ありがとー♪