「運命の人」のサンプルページです。
ロイのことは、上司としてはそれなりに信用している。
自分たちには良くしてくれていると思うし、どんな人柄なのかもわかっているつもりだ。
だけど、男性としての評価もそうかと言うと、まったくそんなことはない。
そう考えると、かけ離れた二つの評価が不思議だった。
ロイとは、本当は一体どんな人物なのだろうか。
もう何年も前から知っている人のはずなのに、そんな緊張感を持ってエドワードはロイの部屋のドアを叩いた。
「入れ」
聞こえてくる声も、聞きなれたものだ。
「こんちはっ」
戸惑いを隠して勢い良く扉を開くと、そこにいるのはやっぱり、見知った人物だった。
「報告書の提出に来ました〜」
どんな風にしたらいいのかわからなかったのでいつもの調子で言ってみたのだが、ロイは少し顔をしかめただけだった。
その顔に、少しぎくりとした。
エドワードの大嫌いな顔だったのだ。なんだか、その顔を見ていると、自分のすべてを拒絶されているような気になった。
「え、と・・・大佐?」
ロイの隣にはハボックが控えていたが、何も言わずに二人の様子を見守っていた。
ぎこちない室内の雰囲気に戸惑って、エドワードは少し顔をしかめた。
そっとロイに数歩近づく。
よく観察してみるとロイは頭に包帯を巻いていた。レンガに頭をぶつけたというから、怪我くらいしたのかもしれない。
それ以外は特にどこも悪そうには見えなかったが───少し顔色が悪いだろうか。
「なんか怪我とかしちゃったんだって?大丈夫なのかよ?」
一応訊いてみると、ロイはいっそう顔をしかめた。
「だらしねぇな、レンガに頭をぶつけるなんてさ。女性を助けたからなんだって?女性も助けて自分の身も守るってのが本当だろ?」
「───何故、君はこんなところにいる?」
「は?」
突然問いかけられてエドワードは口をつぐんだ。
どれが『何故』なのだろうか。訳がわからない。
それに少し面白くない。自分を好きだとか言っていたくせにあっさり忘れやがって。覚えていられても困ったくせに、エドワードはそのことは都合よく失念していた。
「ここは君のような者がいるような場所ではないだろう」
「・・・オレがどんなやつだって言うんだよ」
なんだか不吉な予感がして、エドワードは眉をしかめた。
もしかしてこいつ、何か自分に対しての禁句を言ったりするつもりなのかもしれない。
「その言葉遣いもやめたまえ」
ぴしりと言われて、少し背筋が寒くなる。
ロイは普段、よくエドワードを怒鳴ったり叱りつけたりしたが、いつもどこか、からかっている様子だった。こんな風に、厳しく言われたことはめったにない。
───少しだけ、怖い。
「・・・オレはいっつもこんなんで、あんたも何も言ったことなかったじゃないか」
言ってしまってから、記憶喪失だということを思い出した。
いつもとか、過去のこととか、もしかして禁句なのだろうか。
「私が?じゃあ、きっと我慢していたんだな」
本当の気持ちは別に在るようなことを言われて、エドワードはまた嫌な気分になった。
元々嫌なやつだと思っていたけれど、なんだかこいつ、もっと嫌なやつになっている気がする。
「我慢って何だよ。言いたいことがあるのなら、はっきり言えよな」
ロイとこんな会話をしたのは、初めてのことだ。
思い切って言ったエドワードに、ロイはふふん、と笑った。
「よかろう。では君、今すぐ帰りたまえ。君は私の部下のようだが、今この時をもって除隊にする。」
「───はぁ!?」
あまりの言葉に、エドワードは絶句した。
「なに、言って・・・」
「君みたいな少女を、自分の部下に置いておくような趣味は私にはない」
「───!」
絶句した。
「大佐、ちょっと待ってくださいよ」
やっとハボックが二人の間に割って入る。
「こいつチビだし、ちょっと綺麗な顔立ちしてますけどれっきとした生意気な小僧なんすよ」
「小僧?」
ロイが眉をしかめてエドワードをにらみつけた。
ちょっといろいろとむかつくことを言われたような気がするが、今の状況では不満を言いにくい。
「そーっすよ。女の子なんかじゃないですって」
今まで誰にだって、女だなんていわれたことはなかったのに。
それとももしかしてロイは、ずっと気がついていたのだろうか───いや、そんなことを黙っている男ではないだろう。
「どう見たって少女じゃないか。この、腰」
急にぐいっと腰を抱き寄せられて、エドワードは慌てた。
「な、にすンだ!」
男に腰なんて抱き寄せられたのは初めてだ。
あっけなくロイの胸の中におさまってしまって、どぎまぎとする。
けっこう、見かけよりも広くて、逞しい胸だ。───じゃなくって!
慌てて胸を押し返した。
「き、気持ち悪いことすんなよ!離せ!」
たいした拘束もなく、胸から開放される。
ほっとして数歩後ずさった。
「いやぁ、確かに少々発育途上ですけど、───」
「だーれが目にも入らないようなちっさい豆だって!?」
我慢しきれなくなって怒鳴ると、ハボックはうんざりと肩をすくめた。
「大将、話ややこしくなるからさ、ちょっと我慢しててくれよ」
「うぐっ・・・」
そう言われれば黙るしかない。
ロイは面白くなさそうにくるりとエドワードに背を向けた。
「こんな小娘に、護衛されるなんてごめんだ」
「護衛!?」
そんなの、聞いていない。
「ちょっと待てよ。オレが大佐の?」
「あー」
ぼりぼり、とハボックが困った様子で頭をかいた。
「大将にこれから頼もうと思ってたんだよ。大佐さ───」
「冗談じゃねぇ!そんな暇ない!」
自分と弟の体を取り戻すために旅をしているのだ。
無駄なことに割くような時間はまったくない。
「まあまあ、話聞いてくれよ。大佐がな、」
「断る!帰る!」
怒った勢いのまま、くるり、と踵を返した。
ドアに向けて一歩踏み出したその時───
「あ、た、大佐!」
どすん、とものすごい音が背後から聞こえた。
ハボックの叫び声に驚いて振り返る。
さっきまで人をにらみつけていたロイが、真っ青な顔で倒れていた。
「大佐、しっかりしてくださいっ」
ハボックが慌ててロイを助け起す。
肩に担ぎ上げても、ロイは意識がはっきりしないようだった。
「大将、悪い。ドア開けてくれ。医務室につれてくから」
「あ、う、うん」
戸惑ったまま、慌ててドアに駆け寄る。
連れて行かれるロイを見ながら、エドワードの胸に不安な気持ちがいっぱいに広がった。
ロイはいつだって、偉そうにふんぞり返っているいけ好かない大人だったのに───
倒れたりするなんて。
だから護衛が必要なのだろうか。
不安な気持ちのまま、ハボックの後を追って医務室へ向かった。
とっても定番と思われる記憶喪失ネタです。記憶を失ったロイをしばらくエド子が面倒を見てあげるお話です。一応ぬるめですがR18でお願いします。
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