『週刊新潮』が連載で大新聞各社の大タブー「押し紙」問題に斬りこんだ。
新聞、テレビは現在、部数や視聴率の落ち込みに加え、経常的な広告の受注減により凋落が進んでいる。
インターネットの台頭や、不況という要素が絡まった面は確かにそこにはある。しかし、底流にあり、またこれからも彼ら大メディアを押し流す最も大きな要素は、彼ら大メディア自らが抱える構造的なものの中にあると思われる。
そのうちの一つでもある「押し紙」問題は、彼らに最後の“引導を渡す”役割を果たすかもしれないとも思う。
非正規社員の事実上の「解雇」に加え、正規社員さえ斬って捨てようという今の大企業にとって、巨額の広告費の「費用対効果」が大きな問題、関心事であることは当たり前なことである。これまでのように丼勘定的な対応では済まされなくなっている。
その巨費を投ずる広告の費用が、メディアの発行部数で左右されるという性質のものである以上、発行部数の偽造の「押し紙」が問題にならないわけがないのだ。
また、市場の商品の値段には、その広告費が「上乗せ」されている以上、消費者にとっても他人事ではないのは勿論だ。
ともあれ、「社会の木鐸」を自称する彼らが実は「社会のボッタクリ」であった事実をこの「押し紙」問題は語っている…。
…福岡県広川町で『YC広川』を経営する真村久三さん(59)の場合、読売に対して地位保全を争った訴訟で06年に1審勝訴し、続けて勝訴した翌年の控訴審では、福岡高裁が“押し紙”を厳しく断罪しているのだ。
<読売は、一方では定数と実配数が異なることを知りながら、あえて定数と実配数を一致させることをせず、定数だけをABC協会に報告して広告料計算の基礎にしている>
<自らの利益のためには定数と実配数の齟齬をある程度容認するかのような姿勢である>
<読売の利益優先の態度>
<身勝手のそしりを免れない>(高裁判決文より)
それでも読売は諦めきれず最高裁に上告するも、同年12月、棄却。ここに“押し紙”の存在は最高裁で“確定”されたのだが、その後、読売は真村さんの店に対して新聞供給を中止するという暴挙に出る。
「明らかに報復だし、他店への見せしめです。裁判所の地位保全命令にも従わないとは、いったいどういう認識なのか」(真村氏)
現在も、読売は供給中止の制裁として裁判所が定めた「間接強制金」を1日3万円、真村さんに支払い続けている。が、要は、兵糧攻めで真村さんが音を上げて“自廃”するのが狙いとしか見えず、あまりにも姑息ではないか。
広告料金の“詐取”
読者に届けられないまま闇から闇に葬られている“押し紙”が、折込チラシの広告主に対する重大な背信行為であることは、連載中に一度ならず指摘した。
が、同様に、新聞紙面に掲載される広告の料金についても、部数の水増しは“サギ的行為”である。
注目すべきは、先に触れた福岡高裁判決の、
<定数だけをABC協会に報告して広告料計算の基礎にしている>
という“認定”だ。
(『週刊新潮』2009年7月2日号より)
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(『週刊新潮』 2009年06月18日号に掲載のグラビア。クリックすると大きな画像ページになります)
『週刊新潮』2009年6月11日号
「新聞業界」最大のタブー
「押し紙」を斬る!
第1回
ひた隠しにされた『部数水増し』衝撃の調査データ
販売店の倉庫には山積みされだ“押し紙”が……
いつまで頬かむりを続けるのか(左から読売、朝日、毎日、産経)
押し売りされる新聞、押し紙──。部数を水増しすることで広告料金を吊り上げるという“サギ的商法”を、新聞業界は長年続けてきた。深い闇に包まれてきた最大のタブー「押し紙」を斬る集中連載。第1回は、ジャーナリストの黒薮哲哉氏がその実態を抉り出す。
食品偽装や偽装請負など、このところ“偽装”がキーワードである。が、新聞ビジネスの偽装についてはほとんど知られていない。手口の巧妙さでは群を抜いているが、巨大メディアの恥部だけにこれまで厚いベールに包まれてきた。
その知られざる新聞の“闇”を、読売新聞販売店(YC)の元店主である藤澤邦夫氏(72)が明かす。
「わたしは今年3月まで、滋賀県で2店のYCを経営していました。配達していた朝刊は約7000部。しかし、読売新聞社は一方的に毎朝8750部もの新聞を搬入し続けていました。当然、1750部は配達されないから販売収入もありませんが、その分も卸代金を請求されていたのです」
余った新聞は、梱包を解かれることもなくそのまま倉庫に山積みされることになる。そして週に1度、古紙業者の4トントラックが倉庫に横付けされる。膨大な新聞束を積みこむ作業は、優に1時間を超えたという。新品の“古紙”の大半は、再生紙の原料として次々と海を渡って中国へ運ばれる。膨大な紙資源の浪費──。グリーンピースの活動家が眉をひそめそうな光景である。
配達先がなく、こうして闇から闇へと消えていく新聞を、業界では“押し紙”と呼ぶ。販売店に押し売りされる新聞紙、というニュアンスである。
“押し紙”を増やせば、新聞社は販売店からより多くの販売収入を得ることができる。加えて、新聞の発行部数がかさあげされるので、紙面広告の媒体価値が高くなる。
“押し紙”による販売収入と広告収入の不正取得。これこそが、新聞社による偽装の実態である。まさに、新聞業界最大のタブーにほかならない。
新聞、雑誌などの発行部数を調査する(社)日本ABC協会の統計によれば、日本全国にある約2万軒の新聞販売店に毎朝搬入される朝刊の部数は、約4500万部。このうちのかなりの部数が。押し紙”と言われてきたが、その全容はこれまで深い闇に包まれていた。個々の販売店における偽装部数であれば、改廃(廃業)をめぐる販売店と新聞社との訴訟などを機に発覚したケースはあるが、新聞各社が一定の広域地域において、どの程度の“押し紙”を行っているかを証明するデータは存在しなかった。
ところがこの5月、滋賀県で各新聞社の“押し紙”の規模を示す有効なデータが初めて公表されたのだ。
調査の発端となったのは、前出の藤滓氏らが2年前に『滋賀クロスメディア』という会社を立ち上げたことである。ポスティング事業(チラシの戸別配布)の会社だが、藤澤氏らは営業活動を展開するにあたり、ライバルとなる新聞社が発行する日刊紙についての実態調査を行ったのである。
その結果、広域地域における新聞社ごとの“本当の販売部数”と“押し紙”の規模が、初めて明るみに出たのだ。
調査対象は、琵琶湖周辺の大津、草津、守山、栗東、野洲の5市。人口は63万9532人、世帯数だと24万9436である。
具体的な調査方法は、まず、専門業者に依頼した電話調査と戸別訪問による聞き取り調査を重ねた。それでも購読紙が判明しなかった場合は、スタッフが直接ポストをチェックして購読紙を調べた。それらの調査には、人件費だけで1700万円を注ぎ込んだという。その結果、すさまじい“押し紙”の実態が浮かびあがったのである。
4割以上が“押し紙”
調査では、最終的に購読紙が不明のままだった世帯については、全体に占める各紙の購読者占有率を割り出し、それに応じて部数を割り当てた。そして、ABC部数(公称部数)と調査結果による“本当の配達部数”を比較することで“押し紙率”を割り出した。
この調査結果の妥当性、信頼性について、日本統計協会会長も務める東大名誉教授(統計学)の竹内啓氏はこう言う。
「その手法は、統計調査として非常にまともだと思います。電話、戸別訪問、そしてポストの確認と、かなり綿密な調査ができている。購読判明件数も14万件と多いですし、購読不明の件数が多い点は懸念材料ではありますが、信頼性は非常に高いと思います」
結果の詳細は次頁の表をご覧いただくとして、判明した“押し紙率”を見てみると、大手4紙については読売18%、朝日34%、毎日57%、産経57%だった。4紙の平均でも、公称部数の実に4割以上が“押し紙”だったのである。
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ちなみに、読売の18%は、他社に比べてずば抜けて低いが、その背景には、特殊な事情がある。実は80年代から“押し紙”問題などに熱心に取り組んできた滋賀県新聞販売労組(滋賀販労)中心メンバーの大半がYCの関係者だったことが大きく影響している。
滋賀販労の沢田治元委員長(74)は、81年、関係者の間で『北田資料』と呼ばれる奈良県の読売新聞鶴舞直配所の“押し紙”に関する内部資料などを発掘し、国会へ持ち込んだ。これを受けて共産、社会、公明の国会議員らが、5年間で15回にも亘って新聞の闇を追及したのである。
沢田氏が回想する。
「読売の鶴舞直配所では、3割から4割が“押し紙”でした。店主の北田敬一さんは公正取引委員会にも“押し紙”の実態を告発しましたが、聞き入れてもらえませんでした。わたしは北田さんの叫びを忘れることができません。国会質問では常に記者席が満杯でしたが、新聞は1行も報じず、完全に黙殺したのです」
要するに、当時の沢田氏らの活動もあって、以後、滋賀県のYCでは全国的にも珍しく“押し紙”を拒否しやすい空気があったようだ。
しかし、読売新聞の場合、全国レベルでは30%から40%ぐらいの“押し紙”があると筆者は見ている。実際、久留米市のYC経営者と読売新聞との訴訟で明らかになったケースでは約50%だった。読売新聞が豪語する“1000万部”は、かなり怪しい。
その他の新聞社の“押し紙率”は、妥当な数字と言えそうだ。筆者の手元にある個々の販売店の内部資料から割り出した“押し紙率”とほぼ一致している。
たとえば、朝日の販売店である宮崎市の『ASA宮崎大塚』のヶース。08年5月の朝刊の搬入部数は、1日で4770部だった。一方、読者に対して発行された領収書の枚数は、3195枚。両者の差異にあたる1575部が、ほぼ“押し紙”と考えうる。率にすると33%である。『滋賀クロスメディア』の調査結果に極めて近い。
また、毎日の蛍ヶ池販売所と豊中販売所(ともに大阪府豊中市)では、約70%が“押し紙”になっていた。
年1440億円の“不正”収入
では、今回の調査データをもとに主要紙の“本当の販売部数”を推測してみる。まず、各紙のABC調査による朝刊の“公称部数”は、
読売……1002万部
朝日……803万部
毎日……383万部
産経……213万部
これをもとに、先述の“押し紙率”から実際の配達部数を算出すると、
読売……818万部
朝日……527万部
毎日……164万部
産経…… 91万部
これら4紙の“押し紙部数”は、801万部。新聞の販売収入は概ね新聞社と販売店が折半であるから、毎月の購読料を1部3000円と仮定すると、新聞社の収入は1500円。これに“押し紙部数”を掛けると約120億円になる。年間では1440億円。単純に4等分しても、1社平均で実に360億円が“不正な”収入ということになるのだ。無論、さらに“押し紙”の分だけ紙面広告の価格も吊り上げられているはずだが、その実態は明らかでない。
が、読者はこんな疑問を持たないだろうか。“押し紙”で莫大な金銭負担を強いられていながら、販売店はなぜ倒産しないのかと。
販売店に搬入される折込チラシの枚数は、原則として新聞の公称部数と同一である。そのため、広告主がチラシの発注枚数を減らさない限り、“押し紙”分の配達されないチラシ料金を“不正に”得られるのだ。
ちなみに、“押し紙”の損害を販売店が折込チラシの収入で相殺し切れない時は、新聞社が補助金を投入する。合理的に考えれば、“押し紙”を減らして補助金を支給しない方が無駄がないのに、新聞社はあえてこの方法を採用しない。先述した通り、“押し紙”で公称部数をかさ上げし、広告媒体としての価値を高値で維持する狙いがあるからだ。
それにしても、なぜ販売店は“押し紙”を断れないのだろうか。それは、販売政策に異議を唱えると、店主としての地位があやうくなるからだ。
「新聞社は店主を交代させたいときは、補助金をカットします。そうすると、たいていの場合、“押し紙”の損害が相殺できなくなって廃業へ追い込まれます。ですから“押し紙”制度の下では、店主の顔が気にくわないだけでも、店主交代ができるのです」(前出の沢田氏)
チラシ破棄の光景には、ブラックユーモアが漂う。
「チラシが余りすぎて、包装を解かないまま捨てることもありましたよ」(元新聞奨学生)
「段ボールにチラシを入れて捨てていました。東京地検特捜部が強制捜査の際に使うような段ボールが社から支給されていました。中には県の広報紙『晴れの国おかやま』や自民党、民主党のチラシも含まれていました」(山陽新聞の元店主)
こうした“新聞の闇”が暴かれ始めた背景には、ポスティング業者の台頭がある。彼らにとっては、新聞社の偽装工作を広告主に知らせることが、クライアントを奪い取る戦略になるからだ。であるからこそ、『滋賀クロスメディア』は大規模な“押し紙”調査に踏み切ったのだ。
危機の根底に部数偽装
チラシ市場をポスティング業者に奪われたら、販売店は“押し紙”で生じる損害を相殺できなくなる。それが販売網の破綻に繋がることは言うまでもない。
今後、インターネットの普及によるチラシ市場の縮小とポスティング業者の台頭が新聞ビジネスに揺さぶりをかける可能性も否定できない。特に新聞社の競争相手であるホスティング業者の動きは活発だ。たとえば、リクルート社は昨年から神奈川県の相模原市などで、希望する住民にチラシを提供する事業を展開している。5月からは、それを東京都の一部へと拡大した。
06年に『ASA清瀬西部』(東京都)の経営を断念し、埼玉県内でホスティング会社を経営している井前隆志氏(47)は、創業から3年で2億円の年商が見込めるまでに事業を拡大した。クライアントは130社を超えた。
井前氏が言う。
「正直なところ、“押し紙”問題を知っている広告主はまだ限られています。しかし、チラシ破棄の実態を話すと皆さんびっくりなさいます。折込チラシ代理店に対する損害賠償訴訟をロにする広告主もいますよ」
現在、新聞各社が経営危機に立たされている背景には、新聞離れの加速もさることながら、根底には部数偽装問題があるのだ。折込チラシの獲得競争になったとき、偽装は致命傷になる。広告主の怒りをかう。
しかし、これだけ危機の原因が明らかなのに、新聞社は“押し紙”の存在を認めていない。恐らく、広告主から損害賠償訴訟を起こされることを警戒しているからだ。今回、滋賀県で明らかになったデータも、否定せざるを得ないだろう。
実際、各社にデータを示して見解を問うたが、
「黒薮哲哉氏とは裁判で係争中であり、コメントしません」(読売新聞東京本社広報部)
「調査について、弊社は内容を承知しておりません」(朝日新聞広報部)
「調査を把握しておりませんので、特に見解はありません」(毎日新聞社長室広報担当)
「他社などの調査に対してコメントする立場にありません」(産経新聞広報部)
と、いずれも判で押したような回答だった。こんな調子では、突如として“急死”することにもなりかねない。
“押し紙”の廃止──。新聞社の再生には、それをおいて外に道はない。
『週刊新潮』2009年6月18日号
「新聞業界」最大のタブー
「押し紙」を斬る!
第2回
今朝も販売店から配られずに棄てられた
「部数水増し」の動かぬ証拠
新聞社が“実売”だと言い張る部数のうちかなりの割合が、実際には読者に配られないまま棄てられている「押し紙」問題。連載第1回に対し、大手新聞各社は猛烈な抗議文を送りつけてきた。ならばお見せしよう。これが「部数水増し」の動かぬ証拠である。
読売…… 1002万部
朝日…… 803万部
毎日…… 383万部
これは新聞、雑誌などの発行部数を調査する(社)日本ABC協会が、新聞各社の報告にもとづいて発表している部数である(08年下半期平均)。前号の連載第1回では、新聞各社がこの部数を“実売”であるとしているが、現実には、このうち相当な部数が読者に配達されないまま廃棄されている現状を指摘したのだった。
が、記事に対して読売、朝日、毎日各社は即座に抗議文を送りつけてきた。その内容は概ね、本誌が摘示した調査データは信用できないもので、配達されずに棄てられていたという記述は事実と異なっている、というものである。要するに、各社とも“押し紙”など存在しないと言い張っているも同然なわけだが、ならば今回は、以下に。動かぬ証拠”をとくとご覧に入れて進ぜよう。
まずは「読売新聞」。東京都文京区内のある販売店のケースだ。同店には毎日、おおよそ午前2時すぎに印刷したての朝刊が搬入される。その部数は、70部前後をビニールで梱包した束が1日に三十数束(約2500部)。
ところが、例えば昨年7月10日(木)。搬入からわずか4時間ほどの午前6時30分。同店前に1台の青い3トントラックが横付けされた。すると運転席から男が降り、荷台から台車を取り出し、店内に入る。数分後、その台車にビニールを解いた新聞束を山積みにして現れ、次々に荷台に放り込む。それを3、4回繰り返し、走り去っていった。その後も定点取材を続けると、同じ光景は14日(月)、17日(木)にも確認された。積み込まれたのは、41束と47束である。詳細は略すが、確認した夕刊の束も合わせて概算すると、同店では搬入されたうち実に3割が配達されず、運び出されていた。後に詳しく触れるが、それらは古紙として直接、リサイクル業者に持ち込まれていたのだ。つまり、棄てられたのである。
次に「朝日新聞」の渋谷区内にある販売店。ここにも毎日、朝刊で三十数束が搬入されていたが、同じく昨年7月11日(金)の午前6時すぎ。青い車体の3トントラックが横付けされ、男が降りてきた。車のナンバーを確認すると、何と、前日に「読売新聞」販売店に現れた車と同じではないか。そして14日(月)、18日(金)にも同じトラックが現れ、54束、36束を積み込んでいった。ちなみに、「読売新聞」販売店では搬入時の梱包ビニールは解かれていたが、この「朝日新聞」販売店では、搬入時と同じビニール梱包のまま積み込まれているものも少なくなかった。そしてこちらも夕刊分を合わせると、棄てられたのは約3割たった。
続けて今度は「毎日新聞」の文京区内某販売店。ここには毎日、朝刊45束が搬入。
7月10日(木)の午前6時すぎ、またもや同じトラックが登場。この日は24束を積込んで去っていったが、16日(水)の午前5時ごろ。今度は緑色の2トントラックが現れ、運転席からは別の男が、助手席からは少年のような若い男が降り、2人で80束を積み込む。さらに翌17日(木)には再び青色トラックの男が30束を運び去った。これまた夕刊分含めて概算すると、約3割。しかもこの「毎日新聞」でも、やはりビニール梱包のままで積み込まれた数が少なくなかった。もちろん、いずれも最後はリサイクル業者に持ち込まれているのを確認している。
ついでながら、「読売新聞」については同時期、江東区内の販売店でも確認したが、こちらは白い2トントラックに乗った別の男が、束にされていない新聞を無造作に荷台に放り込んでいた。荷台の容積から換算すると、ここも約3割が棄てられていたことになる。これこそまさに“押し紙”であり、“部数水増し”の現場なのだ(次頁写真を参照)。
荷台は“押し紙”で満杯
もっとも、念のために断っておけば、各販売店とも、扱っているのは単一の新聞ばかりではない。例えば読売ならばスポーツ報知など、朝日なら日刊スポーツやヘラルド朝日など、そして毎日ならスポニチなど、複数紙を取り扱っているケースも多い。そのため、棄てられた“押し紙”が各紙約3割という割合については、必ずしも正確ではない。
が、棄てられた“押し紙”の中に読売、朝日、毎日が相当部数含まれていたことは確認できており、紛れもなく大手紙の“押し紙”は存在するのだ。
それでも、大手紙各社はあくまで“押し紙”はないと強弁するかもしれない。ならば重ねてもう少々、ごく直近の“動かぬ証拠”も突きつけよう。
前述の通り、昨年、青い3トントラックの男が読売、朝日、毎日いずれの販売店からも“押し紙”を回収していた。そこで今月3日(水)から6日(土)まで、逆にそのトラックを追跡してみたところ、果たせるかな、今でも同じ販売店を回っていたどころか、それ以外にも相当数の販売店から“押し紙”を引き受けていたのである。
結果、まず3日。午前4時20分ごろ、港区内にある「日経新聞」販売店に到着。まだ夜明け前の薄暗い中、黙々と積み込む。続けて5時30分ごろには、新宿区内の「読売新聞」販売店へ。そして今度は7時10分ごろ、墨田区内の「読売新聞」販売店に移動。さらにその後、同じ墨田区内の「毎日新聞」販売店に向かい、そこで荷台は。押し紙万で満杯状態になり、そのまま遠く埼玉県内のリサイクル業者に運んでいった。
翌4日は、午前4時10分ごろ、新宿区内の「毎日新聞」販売店からスタート。ここではビニール梱包のままの束が35。続けて同区内の「日経新聞」販売店では46束を積み込み、お次は中野区の「産経新聞」販売店へ。さらに同区内の「毎日新聞」販売店では50束を積み、今度はかなり移動して文京区内で「毎日新聞」「読売新聞」を続けて回り、それぞれ20束以上を放り込み、その時点ですでに荷台は満杯。というか、もはやルームミラーで後方が見えないほど、うずたかく積み上げられている。積載制限は大丈夫なのかと心配になるほどだ。が、さらに「毎日新聞」をもう1店回り、ようやく前日と同じリサイクル業者へ。
そして5日。この日は午前3時50分ごろに足立区の「朝日新聞」販売店が最初。ここでは実に1時間ほどかけて45束をゲット。続けて新宿区、中野区、渋谷区、新宿区、墨田区で「読売新聞」「産経新聞」「朝日新聞」「東京新聞」「読売新聞」の順に回り、8時すぎに積み込み終了。新聞紙とはいえ1束の重さは馬鹿にできず、見ていても相当の重労働だ。実際、かなりの汗だくである。
さらに最終日の6日は、午前4時20分ごろに港区の「日経新聞」販売店から開始。その後、新宿区、中野区、墨田区で「毎日新聞」「産経新聞」「読売新聞」と流し、この日はその4店で満杯になり、同じリサイクル業者の工場へ“棄て”に行ったのだった。以上の現場も、次頁の写真でご覧いただける通りである。
要するに、新聞各紙の“押し紙”は今も間違いなく続いており、“今朝も”販売店から読者に配られず、そのまま棄てられているのだ。
「きちんと裁かれるべき」
では、当事者たちは、この“押し紙”の動かぬ証拠にどう反応するか。
まずは、件の青いトラックの人物に聞いてみると、
「うーん、それはノーコメントだな。ダメだよ、言えるわけないだろ」
と取材を拒否しつつも、
「(前号の)記事は読んだよ。書かれてあることは、オレたちにとっては死活問題だし、新聞社にとってもそう。確かに棄ててる分量は、見ての通り。オレは個人でやってるけど、オレらみたいな商売は“残紙屋”と言われてる。これは本当は大変な問題なんだ」
と意味ありげに答える。
が、実際に“押し紙”を処理しているリサイクル業者はこう断言するのだ。
「確かに、うちに持ち込まれる残紙(押し紙)は、まだ梱包を解いていない新品の新聞が大半ですよ。平均すると、1週間で10トンくらいかな。今そこにあるのなんか、今日運ばれてきたものです」
と言いつつ倉庫も見せてくれたのだが、そこにはまさに“今朝の”「朝日新聞」(6月8日朝刊)が束になって山積みされているではないか。
ならば販売店はどうか。今回、追跡取材した中の「毎日新聞」など主要紙を複数扱っている販売店主がこう証言する。
「今はみんな“押し紙”とは言わず、新聞本社の人は“お願い部数”と言ってます。“今度のお願い部数はこのくらいで”と言ってきて、こちらは断れないから、それで了解してると思われる。でも、販売店としては文句を言えないんです。言えば“じやあ取引を止める”となる。そうやってよその販売店に(契約を)回され、結局やめちやった店もあります。最近は購読者がどんどん減っています。でも、本社に(押し紙の)部数を減らしてほしいと相談しても聞いてくれないから、やはり同じ部数を引き受けるしかない。だから、新聞が売れなくなればなるほど、販売店は苦しくなるんです」
別の販売店主もこう漏らす。
「確かに(押し紙は)あります。私の前の店主のときもあったし、私は以前、よそでも販売店をやってましたが、そのときもあった。部数は言えないですがね。本当は(押し紙を)切りたいと思ってますよ。でも、そんなことしたら(店を)やめさせられてしまいます。私にだって生活があるし、従業員だっているんですから……」
さらに、読売、朝日、毎日など多数の主要紙を扱っている販売店の従業員は、
「うちは合併店でオーナーが複数だから、新聞社も無理を言いにくく、意外と“押し紙”は少ない。それでも、読売の場合は実配より1割ほど多く押し付けてくるし、朝日は実配より1割以上多く毎日に至っては実配より5割も多く押し付ける。うちは割合が低いからまだいい方だけど、たくさん押し付けられるところは大変ですよ」
と明かすし、「毎日新聞」の販売店主はこう憤る。
「配達されない新聞が大量にあるため、紙面広告や折込チラシを出す企業は、実害を被っている。これは紛れもない事実だから、私はきちんと裁かれるべきだと思う。実害を被っている人がたくさんいるという事実に思いが至らない認識の低い人が新聞本社にいることこそ、一番の問題でしょう。私の実感では、“押し紙”をやって得してるのは、折込チラシの単価が高い読売や朝日だけ。だから“押し紙”が正常化されるには、この2紙が率先して動かなければダメなんです。そもそも、各新聞本社と販売店との契約書には、ちゃんと“押し紙はしない”と明確に謳ってあるんですから。販売店主は誰でも“押し紙”なんてなくしてほしいと願っているんです」
こうした“動かぬ証拠”と数々の証言を、新聞各社はどう受け止めるか。
「週刊新潮の記事の正確性について抗議しているところであり、お答えしません」(読売新聞東京本社広報部)
「いわゆる“押し紙”というようなことは一切ありません。弊社の取引先である新聞販売店は、必要な部数を注文され、弊社はそれに基づく部数をお送りしています。弊社が注文部数を超えてお送りすることはありません」(朝日新聞広報部)
「本社は販売店からの注文部数に応じて新聞を送っていますので、取材依頼書に書かれているようなことはありません」(毎日新聞社長室広報担当)
「新聞社から販売店に届けている新聞は、販売店からの注文部数に基づいており、“押し紙”との認識はありません」(産経新聞広報部)
独占禁止法第19条にもとづく公正取引委員会の告示によって、“押し紙”は明確に禁じられている。そのことを、新聞各社は肝に銘じるべきなのだ。
『週刊新潮』2009年6月25日号
「新聞業界」最大のタブー
「押し紙」を斬る!
第3回
実名告発!
新聞販売店主たちはこうして
「水増し部数」を負わされた
販売部数を“水増し”することで自らの広告価値を不当に高めている新聞各社。そのサギ的商法「押し紙」の実態は前回の証拠写真でも明白だが、それでも各社は知らぬ存ぜぬと言い張る。ならば聞くがよい。全国の販売店主らによる、悲痛な怨嵯の実名告発を──。
「昨年9月、私は折込チラシの代理店に未払金286万円を請求するため、広島地裁に提訴しました。ところが、読売新聞の大阪本社は、その未払分に仮差し押さえをかけてきたばかりか、翌月には、うちが新聞仕入代金295万円を未払いだと、逆に大阪地裁に提訴してきた。でも、これまで私は読売に“押し紙”分の代金を支払い続けてきました。それは読売にとって公序良俗に反した“不当利得”なのですから、私には支払う義務などない。徹底的に戦い抜きます」
憤懣やるかたない面持ちで告発するのは、広島県福山市内で昨年4月まで読売新聞の専売店『YC水のみ呑』を経営していた門田由美子さん(59)である。
店は51年前、父親が開業した。それを97年6月に門田さんのご主人が引き継いだが、病身の夫に代わって、門田さんが経営を切り盛りしてきた。
その、父親から経営を引き継いだ経緯が凄まじい。
「父の頃から“押し紙”はありました。担当地域は人口が減少傾向でしたから、配達部数は減る一方なのに、読売は逆にどんどん“押し付け”てくる。その仕入代金を支払うため、父は骨董品を売り捌き、最後は先祖伝来の家屋敷さえ売らざるをえませんでした。そして97年5月、ついに限界がきた。父は意を決して大阪本社の販売局に行き、部長と担当者に“押し紙”をやめてくれるよう直訴したのです。あの時は私も主人も同行しましたから、よく覚えています。向こうは当初、“あんたのとこだけそういうことをするわけにはいかない”と言い張っていましたが、結局は“押し紙”を止めてもらえました。それで父は経営から退き、私たちが引き継いだのです」
当時、実際の配達部数(実配部数)は約1710部。が、読売からは約2440部が送り付けられていた。つまり、約730部が“押し紙”だったのだ。率にして、実に30・3%である。
とはいえ、ここで“押し紙”は切れた。あとは読者を獲得すれば、経営は健全化するはずだった。
ところが、しばらくして読売は再び実配より多く送り付けてくるようになったのだ。それは徐々に増え、01年1月には“押し紙”率が約22%になっていた。
「父がクビを賭けて切った“押し紙”が、わずか4年弱でほとんど元に戻ってしまったのです。でもその間、私は読売に“押し紙を切って”と言えなかった。父の例を知っていたから、怖くて言えなかったのです。実際、知人の販売店主も“じやあ、仕入れを全部切りましょか”と脅された。当時、うちは銀行などから大金を借りていて、改廃させられると借金を返せなくなる。それで泣く泣く我慢を続けていたんです」
が、借金は3500万円に膨らみ、昨年4月、銀行からの融資もストップし、ついに経営を断念。その時点で実配約1500部に対し、“押し紙”は約700部。何と約32%にまで膨れ上がっていたのである。
「うちの店には、読売の販売担当者が毎月1回は来ていて、梱包したままの“押し紙”を山積みしてある現場も見ています。なのに、見て見ぬふり。社会正義を売り物にしている新聞が、一方で“押し紙”という不当利益で潤っている。悔しくて堪りません」
口封じのために
昨年5月、朝日新聞西部本社から契約解除を通告された北川朋広さん(43)は、95年10月から宮崎市内で専売店『ASA宮崎大塚』を経営していた。父親もかつて宮崎市内で別の朝日専売店を経営しており、子供の頃から配達の手伝いをして育ったのだという。
「最初は実配700部で、残紙(押し紙)はほんの10部くらい。本来的な予備紙程度だったんですが……」
と北川さんが振り返るところによれば、販売担当者の指導によって近隣の専売店を次々に吸収し、04年頃には実配で4000部を超える規模にまで拡大していた。
「ところが、吸収した店に“押し紙”が多かった。ある店など、当初は200部と聞いていたのに、買収してみると300部もあった。それで担当者に“残を切って”と願い出たのですが、“それはできない。これは社の方針ですから”と拒絶されたんです。それらで“押し紙”の量が一挙に増え、700部くらいになってしまいました」
率にすると、17・5%。
「同時期から契約部数も頭打ちになり、05年からは赤字の月も出始め、翌年からは年単位で赤字。それでも朝日は送り付ける部数を減らすどころか、逆に毎年50部くらいは増やしてくる。実配は減る一方ですから“押し紙”だけがどんどん増えたのです」
実際、05年1月は仕入れが4700部なのに実配は4121部だったため、“押し紙”は579部で約12%。それが3年後には、実配が3782部と減ったのに仕入れは4770部と増やされたため、“押し紙”は約21%と倍近くにまで膨れ上がっている。
北川さんの場合、こうした数値を毎月表にし、販売担当者にも提出している。要は、朝日本社も重々承知していたのである(前頁の写真)。
「ついに経営が立ち行かなくなり、去年の4月、販売担当から辞めろと言われました。それを拒否すると東京本社のセンター長に呼び出され、“君のことはよく考えているから、すべてまかせてくれ”と言われ、その際、西部本社の販売局長、部長宛に一筆書かされました。私もそれで事態が変わるならと思い、止むなく書いたのですが……」
その文書が、次頁の写真である。
<黒薮との関係は一切絶ちます> ──。
黒薮とは、長年“押し紙”問題を追及し、本連載第1回で執筆したジャーナリストの黒薮哲哉氏だ。
「要するに、私か内情を暴露しないよう、ロ封じをしようとしたんです。でも結局、翌月には契約解除を言い渡されました。子供の頃から朝日新聞を配ってきて本当に長い関係だったのに、こんな形で切り捨てられるなんて……」
と無念の思いを吐露する北川さんは、目下、朝日に対する損害賠償請求訴訟を提起すべく、弁護士と協議中だという。
同じく、去年の7月まで宮崎県内で朝日の専売店を経営していた男性(65)も、現在、訴訟準備中だ。同店の場合、“押し紙”増加のパターンは北川さんと同様だが、最終的には仕入れが1560部で、残紙が560部。実に約36%もが“押し紙”だった。
「契約書には、ちゃんと必要な部数しか送らないと書いてある。あんたらがやってることはサギじゃないか。あんたら朝日の社員は高給もらって左団扇かもしれんが、こっちは死活問題なんだ、と販売担当に怒ったこともありますが、ムダでした。こちらがいくら経営の苦しさを訴えても、じゃあ従業員を何人かクビにしろ、と抜け抜けと言うだけ。許せません」
“天文学的”な押し紙率
読売、朝日の実態も酷いが、毎日の“押し紙”率は際立っている。
例えば、昨年12月まで32年間、大阪府箕面市で毎日新聞の『箕面販売所』を経営していた杉生守弘さん(72)の場合、開業当初からべらぼうな量を押し付けられた。
「実配は830部ほどなのに、仕入れが1200部もあった。3割以上という“押し紙”の多さにビックリしましたが、よくよく聞くと前の店主の時は1700部も仕入れがあり、5割以上が“押し紙”でした。引き継ぐ時に販売担当から“1200部までしか切れない”と言われたんです」
無論、その後も必死で購読契約を増やしつつ、本社には何度も“もっと切ってくれ”と要請した。が、逆に仕入れを2000部まで増やされる。
「挙句に“50万円で買い取ってやる”と言われ、補助金名目で貰いました。でも本社はズルい。その一方で他の補助金を削ったんです。経営は悪化してサラ金にも手を出し、89年には自宅マンションも売る羽目になりました」
膨大な“押し紙”の置き場にも苦労したという。
「何せ毎日900部ほどの“押し紙”がくるんです。台所から階段まで山積みにしていたため、床はボコボコになっていました。週に2回も回収業者に引き取りにきてもらっていました。さすがに折込チラシをそのまま棄てるのは気が引けたので、チラシだけは茶色の紙に包んで棄てていましたね」
“押し紙”のピークは96年頃で、約49%にまで達していた。
「もはや口頭で言ってもラチがあかないと思い、03年4月と翌年12月には書留文書で要望し、05年5月には弁護士名で内容証明も出した。そこまでしてようやく仕入れを900部まで下げてくれましたが、実配は700部台に減っていたので経営は厳しいまま。しかも本社は意趣返しか、補助金をゼロにしてきたのです」 結果、一昨年5月に大阪地裁で損害賠償の訴えを起こし、現在も係属中である さらに、一昨年7月まで大阪府豊中市で『豊中』『蛍池』の毎日販売所を経営していた高屋肇さん(85)のケースは、もはや“サギ的”などという表現すら生易しすぎるほどだ。
「私が最初に販売所を始めたのは49年前。以来、他紙の引き抜きを断り、毎日新聞一筋でやってきた。だから毎日の紙面は今も好きです。でも、販売は反吐が出るほど嫌い。潰しても殺しても足りないくらい、腹が立って仕方がないです」
何しろ、記録に残っているだけでも、6年前の“押し紙”率は少なくとも『蛍池』店で64・9%、『豊中』店に至っては71・4%である。
しかも、廃業した2年前には、それぞれ69・7%と74・5%という、ある意味“天文学的”な割合にまで増えていたというのだ。
昨年6月、残っている記録に基づいて、約1億円の損害賠償請求訴訟を大阪地裁で起こしたが、逆に毎日は約1200万円の仕入代金が未払いだと反訴してきたという。厚顔ここに極まれり、ではないか。
「普通の人は、新聞社は正義だと思ってるでしょう。でも実際には“サギ”の常習犯としか言いようがない。
一度、販売担当者に“こんなこと続けて、裁判になったらサギが認められるぞ”と言ったら、“裁判所だって我々を裁けない”と言い放ちました。おまえら治外法権のつもりか、と余計に腹が立ちましたよ」
チラシを減らす嫌がらせ
斯くの如く全国各地で“押し紙”の実態が露見しているにもかかわらず、新聞各社は前号でも紹介した通り、その存在そのものを頑として認めようとしない。が、
「もちろん、各社とも把握しているし、それどころか、この“押し紙”が今や経営上、非常に切迫した問題になっているんです」
と、主要紙の経営首脳のひとりがこう明かすのだ。
「そもそも“押し紙”の起源は、広告料の基準にある。戦後のある時期から、紙面の質ではなく発行部数によって広告料を決めるという基準を大手広告代理店が作ったため、以後、各社とも部数拡大に血道を上げる結果になった。実際、バブル期までは部数も広告の出稿量も右肩上がりだったから、他社よりも発行部数が多ければ、同じ広告でも高い料金を取れたわけです。その部数拡大で最も手っ取り早い手法が“押し紙”でした」 それを可能にしたのが、販売店にとっての折込チラシ収入だった。
「いい時には、1部あたりの折込収入が2000円以上なんてザラでした。販売店が本社に払う仕入代より折込収入が上回っていたから、販売店にとっても“押し紙”があるだけ儲けが増えるという時代が、確かにあったんです。それがバブル崩壊以後、折込が減少して販売店の経営が厳しくなる。同時に部数も減り、広告出稿も減ってきたから新聞社も苦しい。でも広告料は維持したいから、発行部数を減らせないので“押し紙”を強要する。そのための補助金が大きな負担になり、これに紙代の高騰も加わった。こうした“負の構図”を是正するには、やはり“押し紙”をなくすしかないんですが……」
部数減は、新聞販売と折込チラシの収入しかない販売店への影響の方がより深刻、甚大だったのだ。
「折込チラシの代理店には新聞社の資本が入っていた。だから、言うことを聞かない販売店にチラシを減らすなどの嫌がらせもあった」(前出の杉生さん)
こうした販売店主らの悲痛な告発を受けても、
「週刊新潮の記事や抗議文 ・質問書に対する回答には、明らかな事実誤認が少なからずあります。正確な報道を求めます」(読売新聞東京本社広報部)
「弊社の個々の取引先との契約内容等については、お答えしかねます。なお、取引先である新聞販売店は必要な部数を注文され、弊社はそれに基づく部数をお送りしています。弊社が注文部数を超えてお送りすることはありません」(朝日新聞広報部)
「両氏の一方的な主張については、訴訟の中で明確に反論していきます」(毎日新聞社長室広報担当)
と、各社とも痛痒の欠片すら感じていない。その傲岸さこそが自らの首を絞めていることに、一刻も早く気づくべきなのだ。
『週刊新潮』2009年7月2日号
「新聞業界」最大のタブー
「押し紙」を斬る!
最終回
「環境保護」キャンペーンは奇麗事!!
「水増し部数」印刷で年間「東京ドーム1000個」の森が消えていく
『環境ルネサンス』『地球異変』『もったいない』──。読売、朝日、毎日各紙は長年、紙面で「環境保護」を高らかに謳い上げてきた。が、そのウラでは「水増し部数」印刷のため、毎年「東京ドーム」1000個分の森林が消えているのだ。これぞまさに綺麗事の極み!
その新聞各社の“偽善の仮面”を剥がす前に、本連載を読んで告発を思い立つたという“現役”の販売店主らの声を紹介しよう。
まずは、都内で現在も『毎日新聞販売所』を経営する所長の話だ。
「10年前の開所時から、実配900部に対し仕入れは1100部で、“押し紙”が200部もありました」
収支は、収入が販売代金と折込チラシ代合計で約450万円。ここから仕入れ代や固定経費などを差し引くと、毎月、140万円ほどの赤字だった。
「ただし、毎日本社から補助金として225万円ほど貰っていたので、何とか黒字でした。それが2年ほど前に突然、補助金は50万円以上減額され、購読契約も減って“押し紙”が500部以上にまで増えた。担当者に何度も“補助金を増やせないなら何とか押し紙を切ってくれ”と頼みましたが、ダメ。弁護士に依頼してようやく“押し紙”は切ってもらえたが、補助金がさらに100万円ほど減らされた。以後も契約は減り続け、また“押し紙”が増える。赤字が累積したので東京都労働委員会に調停の斡旋を依頼したが、本社は一切応じませんでした」
結局、今も販売所は続けているが、本社の一方的な仕打ちに怒りを感じ、今年4月に地位保全の仮処分申し立てを東京地裁に行った。すでに2回の審尋があったが、毎日側は“押し紙”など事実無根と主張するばかりだという。
「うちは朝日、産経、東京新聞の複合店ですが、実配は朝日が2500部と一番多く、その分“押し紙”も朝日だけで300部以上あります」
と明かすのは、都内の複合販売店従業員である。
「朝日の“押し紙”は、この4年ほどで3倍に増えました。でも、朝日本社は絶対に切らしてくれない。仕入れ部数をちょっとでも減らそうとすると、担当者が“減らせない。もっと増やせ”と言う。どうせ本社は“強制などしてない”と言うでしょうが、やってることは強制ですよ。一昨年、東京都ではビール券などの金券を拡販に使うことが禁止になったせいで、契約がガクンと減りました。おかげで拡販員たちは“金券がダメなら現物だ”と、自転車の荷台に発泡酒を積んで配ってますが、それでも部数は減る一方なんです」
さらに福岡県広川町で『YC広川』を経営する真村久三さん(59)の場合、読売に対して地位保全を争った訴訟で06年に1審勝訴し、続けて勝訴した翌年の控訴審では、福岡高裁が“押し紙”を厳しく断罪しているのだ。
<読売は、一方では定数と実配数が異なることを知りながら、あえて定数と実配数を一致させることをせず、定数だけをABC協会に報告して広告料計算の基礎にしている>
<自らの利益のためには定数と実配数の齟齬をある程度容認するかのような姿勢である>
<読売の利益優先の態度>
<身勝手のそしりを免れない>(高裁判決文より)
それでも読売は諦めきれず最高裁に上告するも、同年12月、棄却。ここに“押し紙”の存在は最高裁で“確定”されたのだが、その後、読売は真村さんの店に対して新聞供給を中止するという暴挙に出る。
「明らかに報復だし、他店への見せしめです。裁判所の地位保全命令にも従わないとは、いったいどういう認識なのか」(真村氏)
現在も、読売は供給中止の制裁として裁判所が定めた「間接強制金」を1日3万円、真村さんに支払い続けている。が、要は、兵糧攻めで真村さんが音を上げて“自廃”するのが狙いとしか見えず、あまりにも姑息ではないか。
広告料金の“詐取”
読者に届けられないまま闇から闇に葬られている“押し紙”が、折込チラシの広告主に対する重大な背信行為であることは、連載中に一度ならず指摘した。
が、同様に、新聞紙面に掲載される広告の料金についても、部数の水増しは“サギ的行為”である。
注目すべきは、先に触れた福岡高裁判決の、
<定数だけをABC協会に報告して広告料計算の基礎にしている>
という“認定”だ。
「そもそも我々が“押し紙”に手を染めるようになったキッカケは、大手広告代理店が、内容や基準ではなくとにかく部数が多い媒体ほど広告価値が高いという基準を作ってしまったこと。以来、各社とも部数拡大に血道を上げる結果になってしまった」(主要紙経営首脳) では、その広告料金はいったい幾らくらいなのか。
読売、朝日、毎日の大手3紙に限っても、例えば死亡や求人広告、あるいはコンサート等のイベント告知など、種類やスペース、または掲載面などによって、各社ごとに極めて細かく複雑な基準と計算式が設定されている。
その大まかな目安は各社ともホームページ上に掲示してあるため、それに従って、1面全体を使った場合(全面)とその3分の1(全5段)の場合を、それぞれモノクロとカラー2種類で試算してみる。
ちなみに、条件は「全国版」「朝刊」「掲載面は1面や社会面など以外」といった程度だが、まずは、全面のモノクロだと、
読売……約4900万円
朝日……約4100万円
毎日……約2600万円
これがカラーでは、
読売……約5800万円
朝日……約4900万円
毎日……約3300万円
となる。で、全5段のモノクロだと、
読売……約1800万円
朝日……約1500万円
毎日……約960万円
同様にカラーでは、
読売……約2600万円
朝日……約2300万円
毎日……約1500万円
といった具合だ。
もっとも、無論、これらはあくまでも試算上の“定価”であり、
「実際には、広告主との取引年数や出稿の頻度など、新聞社によって様々な条件が加味され、一般に定価よりも低い額になる」(広告代理店関係者)
というし、朝日新聞広告局幹部OBによれば、
「景気悪化のため新聞業界全体で広告収入が減っている。昨年度の数字でも業界全体で前年比87・5%だし、朝日は4年連続の前期割れで83%でした」
という実情から、新聞社の側から、出稿してくれるなら大幅にダンピングするというケースもあれば、
「他紙に比べて朝日の読者は年収、学歴が高いというイメージがあるため、部数では読売よりも少ないのに、媒体価値で互角の勝負をしている」(同)
という面もあって、先の定価比較だけで一概には言えないが、広告料金が発行部数に準じているという傾向は見てとれる。
となると、やはり、高裁判決も指摘する通り、部数の水増しによってこれら広告料金の一部を“サギ的”に不当に得ていると言えるし、であるならば、
「少なくとも10年以上、広告の“定価”は変わっていない。やはり本来の実態に合わせた料金表に作り直すべきです」(同)
自画自賛の大喧伝
それ以上に見過ごしてならないのは、新聞各社の大いなる欺瞞である。
ご存じのムキも多かろうが、各紙とも以前から、紙面上で「環境保護」のキャンペーンを張ってきた。
読売では『環境ルネサンス』と題し、06年4月から「水危機」「脱炭素」「人を守る」「動物園」などのシリーズを続け、今年3月まで続いた「温暖化」では、C02削減に取り組む人々の活動を伝えていた。
朝日の場合は『地球異変』と題し、同じく温暖化をテーマに昨年1月から幾つかのシリーズをスタート。今年5月に終了した「マダガスカル」では、木の伐採で景観ばかりか生態系まで変化した現地で、もとの林に戻す“復林”活動をしているNGO団体を紹介している。
そして毎日は、社を挙げて取り組む『MOTTAINAI(もったいない)』運動の一環として、地域版ごとに各地の関連イベントの紹介記事を、今も断続的に掲載している。
それだけではない。各社のホームページを開くと、それぞれ大層ご立派な環境問題への取り組みを自画自賛している。
例えば読売。「社会貢献」なるページで「環境方針」を掲げ、
<環境への負荷を低減するため>
という基本理念に基づき、社内に推進委員会を組織したり環境管理システムを確立したりと、5項目の基本方針を示している。
同じく朝日でも01年に定めたという「環境憲章」に基本理念と方針を掲げているし、取り組みを紹介するページでは、
<地球環境に対する朝日新聞社の関心は高く>
<「新聞はリサイクルの優等生」といわれ>
と自慢し、「環境報告書」の中でも、
<普段から紙を大事に使うことを全社の環境行動計画の重点項目にして>
と謳い上げている。
さらに毎日など、京都議定書を持ち出して日本の取り組み不足を指摘してみせ、
<これまでに自前の取り組みで14万本。後援植樹も含めると38万本を植えています>
と、林野庁が主導する植林方式よりいかに自社の実績が素晴らしいかを大喧伝しているのだ。
こうしたキャンペーン、自画自賛がいかに綺麗事に過ぎず、欺瞞に満ちたものであるか。読者や広告主を欺く“押し紙”こそが、それを如実に証明する。
言うまでもなく、新聞の紙はパルプ材、すなわち木を原料にしている。ただし、近年は新聞などの古紙を原料としてリサイクルする割合が高まっているのは事実。実際、『(財)古紙再生促進センター』の統計によれば、82年は古紙の割合が約47%だったのが、07年には約87%にまで増えている。
しかし、古紙以外の原料は紛れもなく“樹木”なのだ。では、“押し紙”としてムダに棄てられている水増し分が、いかに森林伐採という“環境破壊”の罪を犯しているか示そう。
かねてよりこの問題に警鐘を鳴らしてきた、毎日新聞元常務で慶応大非常勤講師河内孝氏の試算はこうだ。
“保護”の裏で“破壊”
まず、NGO『熱帯林行動ネットワーク』によれば、日本の紙全体のために消費されたパルプ材(古紙以外の原料)の量は、03年で1874万トン。このうち、「製材残材」(建設などに使用された材木の残り)などを除いた、まさに切り倒された樹木の量は1405万トン。体積にして約2600万立方メートルとなり、これは杉の平均的直径、高さ、体積から換算すれば、約1億1000万本分に当たる。さらに経産省の「生産動態統計」によれば、紙生産量のうち新聞用紙の占める割合は約20%だから、約2200万本。そして“押し紙”の割合を低く見積もって1割とすれば、約220万本となる。
さらに、これまで明らかにしてきた実態から“押し紙”を3割と見れば、660万本にものぼるのだ。
この660万本を、新聞用紙の原料である針葉樹の森林面積に換算すると、
「1ヘクタールに約1500本」(森林組合連合会)
つまり、実に1年間で東京ドーム約1000個分の森林が伐採される量に該当するのである。
無論、古紙原料の含有量など条件設定によって導き出される数量は違うだろう。が、
「製紙会社は、木材の残りカス(残材)を使っているから森林を傷めていないと主張します。しかし、我々の現地調査では、直立でなかったり材木用に向かない原木を切り倒し、パルプ原料に使われていることを確認しています」(NGOの担当委員)
すなわち、正確な量の多寡はともかく、新聞各社が表面では「環境保護」を謳い、裏では長年その破壊を続けている事実は紛れもなく存在するのだ。
「昨年、大学の私の教え子が大手新聞に入社しましたが、面接で資源のムダ遣いについて議論した際、会社の面接官は“君は記者になりたいのか経営者になりたいのかハッキリしなさい”“新聞記者は普通、そういう問題は頭に置かないものだ”と言ったそうです。これが新聞社の環境問題に対する認識を象徴してますよ」(河内氏)
相も変わらず、各社は、
「読売新聞の環境報道を貶める記事に対しては断固抗議します」(読売新聞東京本社広報部)
「繰り返しお答えしていますが、弊社には貴誌が取り上げているようないわゆる“押し紙”はありません」(朝日新聞広報部)
「弊社と取引のある製紙会社の新聞用紙は、古紙配合率60〜100%と環境に配慮した製造方法をとっており、木材は計画的に植林・伐採されたものを使っています」(毎日新聞社長室広報担当)
としか答えない。この厚顔ぶりは、もはや“犯罪的”としか言いようがないほどだ。改めて言おう。“押し紙”は確実に存在する。自らそのタブーに斬り込めない新聞社が“社会の木鐸”たることなど、到底、不可能に違いないのだ。