| 戦場でワルツを (2008年イスラエル/仏/独/米) | |
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| Vals Im Bashir / Waltz with Bashir | |
| アリ・フォルマン監督・脚本 | |
| 結構話題になった映画だけど、イスラエル発のアニメーション映画ということで、色々と偏見を抱いて見なかった人もいるかも知れないので、念のため御紹介を。だって、この映画、近年では稀に見る傑作ですもん! 見逃してしまっては惜しい! アカデミー外国語映画賞は『おくりびと』に持っていかれたけど、内容にビビった選考委員が政治的配慮をしたとしか思えない(←それは偏見)。アカデミー賞でアニメーション部門以外でノミネートされたことからも分かるように、普段アニメを見ない大人の映画ファンにもオススメできる一級の“映画”作品です 本作は一応「ドキュメンタリー」と謳われていて、主人公はイスラエル人である監督自身、二十数年前の「レバノン侵攻」の悪夢に悩まされる戦友から相談を受けた主人公が、自身の記憶の中から“あの戦争”がすっぽりと抜け落ちていることに気がつき、その穴を埋めるために関係者をインタビューして回るという構成になってます。まあ、いわゆる「自分探しの旅」ですね。でも、そこいらに溢れてる甘っちょろい映画とは違いますよ。なんたって、これは、「国家の罪」、そして「自分自身の罪」と向き合うための旅なのですから・・・ 元兵士たちが語る体験談に喚起されて、だんだんと主人公の記憶の糸も手繰り寄せられていく・・・。ミステリー仕立てと言えばそうだけど、そもそも史実を題材にしている以上、オチは大体予測できちゃいますよね。イスラエルの人が見たら尚更でしょ。でも、だからと言って退屈かと言えば、全然違うの。もの凄く引き込まれる。「ミステリー仕立て」は、あくまでもスパイス程度で、個人的な問題を出発点に据えることで、観客の感情移入、物語への導入を促しているんですね。オチが分かった話をこれだけ夢中に見させるなんて、監督の手腕は相当なものですよ。 まあ、映像と音楽が単純にカッコイイんですよね。当時の流行歌をバックに映し出されるのは、グラフィックノベルのような陰影の濃い映像。監督は日本アニメへのリスペクトも口にしていましたが、それ以外にも世界中のアニメーションやコミックをよく研究しているのが分かります。イスラエルで作られたアニメーション映画はこれが2本目だそうですが、まさかそうとは信じられない! こんなものを作られちゃったら、アニメ大国日本の立場はない? まあ、それは冗談としても、軍事マニアの人たちが嬉々として作ってる“戦争ごっこ”の映画は居場所をなくしますね。本当に、これは、かつてないほどリアルに“戦争の感覚”を描いた映画。まあ、実際に従軍していた人が作ったんだから、それはそうでしょうが、この衝撃度は、視点の斬新さがあってこそ。主人公の初出動のシーンからして、もう普通じゃない。 「命令を」 「撃て」 「何を?」 「とにかく撃て」 間断なく掃射される機関銃・・・・、視線の先は、黒一色に塗りつぶされた漆黒の闇。機械的なリズムだけが支配する無感情な空間を前に、単なる恐怖とは別種の、得体の知れない戦慄が走ります。「あなたが虚無を見つめる時、虚無もまたあなたを見つめている」とでも言うか・・・(←ニーチェのパロディー) 敵も味方も分からなければ、戦う意味さえも分からない。現に、当時戦場に駆り出されたイスラエルの若者たちの多くは、戦う理由をよく分かっていなかったそうですが、そうした心理的状況をも瞬時に覚らせてくれます。グラフィックノベルのような陰影の濃い映象は、単なる「カッコつけ」ではないのです。その影はスクリーンに刻印を残し、若者たちの苦悩を浮き彫りにしていきます。 そう、多くの優れた戦争映画がそうであるように、この映画もまた、優れた青春映画でもあるんですよね。仲間との友情(というか他愛のない日常)あり、恋人との別離あり・・・、誰にでも訪れたことがあるような青春の1ページ1ページを丹念に綴っているので、遠く離れた国、遠く隔たった状況に生きる人間でも、物語の世界にスンナリと入っていくことができます。でも、もちろん、この映画は、それだけの“物語り”で終わってしまうわけではありません。 言うまでもないことですが、この映画の真価は、監督が若き日に体験した出来事を、単なる青春の回想の「ドラマ」としてではなく、「ドキュメンタリー」として制作した点にこそあります。そうすることによって、当時監督が直接には面識を持たなかった人々、別の場所で別の任務に従事していた兵士たち、戦場で取材をしていたジャーナリストの証言も取り込んで、事件をより多角的な視点から描くことを可能にしています。 一兵士の視点では、現場の指揮官がポルノビデオを見ながらラリった様子で命令を下す姿を描くのが精一杯。もちろん、これはこれで相当痛烈ですが、ジャーナリストが明かす秘密の電話の内容にはとても敵わない。それは、イスラエルの指導者たちが、レバノン軍団によるパレスチナ人難民虐殺を容認していたという事実です。 よくもまあ、ここまで正面切って政府を批判する映画を作れたものですね。たぶん、既に公になっている過去の出来事、旧政権時代の政策だと言って了解を取り付けたのでしょうが、この映画が、二十数年前の事件を映画化するということを方便にしながら、時代を超越した告発を行っていることは明らかです。そのことは、来日時の記者会見で、監督自身が、映画制作中に行われた「第二次レバノン侵攻」、及び映画の公開キャンペーン中に始まった「ガザ侵攻」に話が及んだ折に、「同じことが繰り返されている」、「過去から何も学んでいない」と嘆いていた様子からも見て取れましたが、映画の中では、もっと遥かに辛辣な批判も行われているのです。ネタばれになってしまうので詳しくは書きませんが、それこそ民族のアイデンティティーさえ揺るがしかねない重大な問題を提起しているのです。 「戦争の全容が描かれていない」と、この映画を批判する人もいますが、2時間の映画の中で描くことのできる内容には限りがあるのですから、それは、ある程度しょうがないことでしょう。大系的且つ正確な情報を得たいのなら、膨大な資料に目を通すほかありません。そもそも「アニメーションによるドキュメンタリー」という発想自体が二律背反的な危うさの上にあり、フォルマン監督の意図が、客観性の重視よりも、「主観」と「客観」の融合の方にあったことは明らかです。映画というものが、“ある視点”を提供する一つの「作品」である以上、こういう方向性も、これはこれでアリだと思います。キワドイけれど、充分に興味深いアプローチです。ただし、純粋に技術的なレベルで、いくつか気になる点も見られましたが・・・ 映像と音楽の合わせ方がユーリ・ノルシュテイン監督の『話の話』ソックリになるところは微笑ましく見れないこともなかったけど、映画オリジナルの音楽が「フィリップ・グラス」の臆面もないパクリだったところには正直幻滅(←映像に合ってはいるけど)。所々で入るミュージック・クリップ調の演出も、いささか軽薄のように思えたし、ラストの締め方も含めて、演出が狙い過ぎと言うか、アザトク見えてしまった。 う〜む、「アニメーションによるドキュメンタリー」という異色の企画であるために資金集めが難航して、出資を募るためにラッシュ映像を持って世界中を飛び回ったそうだけど、少々「ウケ狙い」のところがあるように見えてしまうのはそのせいかな? まあ、なんと言っても、イスラエルで2本目のアニメーション映画で、フォルマン監督にとっても手探り状態で作った実質的なデビュー作なのだから、「洗練」や「完成」は次回作への課題として、今回のところは、多少の雑多さには目をつむってもいいんじゃない? なんやかんや言って、欠点より美点の方が多く目に付く映画なんだから。(←上から目線で偉そうに!) ・・・・いや、むしろ、私は、この“雑多さ”の方に惹かれているのかも? これって「デビュー作」に特有の魅力じゃない? 「これも入れたい」、「あれも入れたい」とやっているうちに、どんどん構想が膨らんで、いささか散漫なほどに豊饒になっている感じ。ジャン・コクトーだって「多過ぎるぐらいがちょうどいい」って言ってますよ。 記憶の捏造の話、失恋の話、死にゆく動物の目を通して世界を見つめる話・・・。語りたいことが多過ぎて、テーマも錯綜としてきてしまっていますが、その混乱の中にこそ、一人の人間の真実の姿が映し出されているのだと思う。「神の視座」ではなく、これは、あくまでも一人の人間の目線から捉えられた映像。それだからこそ生まれてくる共感があると思う。 映画のラスト、個人の視点から出発した物語が、一旦マクロ的な広がりを見せた後で、再び個人の視点に集約されて終わる時、湧き上がってくる涙を抑えられなってしまいます。個人が、一人では背負い切れないほどの哀しみを身に受けることの悲劇。私たちもまた、その哀しみの担い手なのです。
*先日WOWOWで放送されていた時、ついつい面白くなって見入っていたら、上で紹介した「ポルノビデオの場面」で違和感が・・・!? なんかアッサリしてる?・・・て言うか、完全に短くカットされてる! WOWOWも一応テレビだから、無修正で発売されてる映画にも自主規制でモザイクを入れたりしてるのは知ってたけど、まさか映像それ自体のカットまでするとは! 子供が見るかも知れないアニメだからこその配慮だとは思うけど、ポルノじゃない一般映画にこの仕打ちはないでしょ。デフォルメされてて全然リアルじゃないし、不快なだけでエッチじゃないんだから、わざわざカットまですることないと思うんだけど・・・。もしかして、こういうバージョンの商品も出回ってるの? 少なくとも私の買ったブルーレイではこうじゃなかった。WOWOWで録画して満足してる人たちもブルーレイを買いましょ! あのシーン、一見無駄に長いように思えるけど、それだからこそ伝わってくる不快感があります・・・ |