エルゾンビ/落武者のえじき
La Noche del terror ciego / Tombs of the Blind Dead / Crypt of the Blind Dead 1971年 スペイン
スタッフ/キャスト
製作: Jose Antonio Perez Giner
Salvadore Romero
監督: アマンド・デ・オッソリオ
脚本: アマンド・デ・オッソリオ
Jesus Navarro Carrion
撮影: Pablo Ripoll
音楽: Anton Garcia Abril
出演: ローン・フレミング
チェサー・バーナー
ヘレン・ハープ(Maria Elena Arpon)
Joseph Thelman
Rufino Ingles
Veronica Llimera
オリジナル版 97分
アメリカ公開版 83分
ストーリー
 女学校でルームメイトだったベティーとヴァージニアは、ポルトガルのリゾート地で偶然の再会を果たした。二人は甘酸っぱい思い出を共有するレズ友達だったが、今のヴァージニアにはきちんとカレシもいた。カレシのロジャーにベティーを紹介するヴァージニア。しかし、これが間違いだった。結構なナンパ男だったロジャーは、ベティーに色目を使い出す。
 ロジャーに誘われるままに郊外への列車旅行に同行することになったベティー。彼女はロジャーとだんだんいいムードに。なんだかややっこしい三角関係に突入してしまった一行だったが、二人のイチャイチャした様子を見るに見かねたヴァージニアが突如として列車から飛び降りてしまう! それに気付いたロジャーは慌てて急停止を伝える呼び鈴を引いたが、運転手はその呼びかけを無視する。「ここで列車を止めてはいけない!」。彼は何かに怯えているようだ。
 二人の呼びかけにも応じず、遠くに見えた建物へと向かったヴァージアだったが、彼女が村だと思った場所は、人っ子一人いない寂れた遺跡だった。近くに人の住む場所はない。野宿よりはマシだとそこに泊まることにしたヴァージニアだったが、その夜、恐るべき怪異が彼女を襲う!
 地の底から這い上がってくる髑髏騎士団! 死霊たちは目は見えないが、音を頼りに迫り来る! なんとか逃げ出したヴァージニアだったが、馬を駆る“ブラインドデッド(盲目の死者)”たちに追い詰められる! 夜のしじまにこだまする女性の悲鳴・・・
 数日後、ヴァージニアが帰らないことに不安を覚えたベティーとロジャーは、ホテルで馬を借りると例の遺跡へと向かったが、そこで出会った刑事からヴァージニアの死を告げられる。彼女の体には禍々しい咬み傷が残されていた! 一体何者の仕業なのだ!?
 独自に調査を開始した二人は、呪われた騎士団に関する不気味な伝説を耳にする。黒魔術に通じ、悪逆の限りを尽くしていたテンプル騎士団。彼らは王の命によって処刑され、カラスに目をくり貫かれて絶命したが、夜な夜な地の底から這い出すと、いけにえを求めて馬を駆るのだという。そう、あの遺跡はテンプル騎士団の居城であり、彼らが埋葬された呪われた場所だったのだ!
 今、13世紀の恐ろしい伝説が現代社会に現出しようとしていた!!
レビュー
 日本では劇場公開されず、『エルゾンビ/落武者のえじき』なんていう心ないタイトルで一度ビデオが発売されただけの『La Noche del terror ciego(英題:Tombs of the Blind Dead)』ですが、海外ではカルト的な人気を博していて、スパニッシュホラーの金字塔と言われる映画です。馬に乗って疾駆する“盲目の髑髏騎士団”=「ブラインドデッド」は、スパニッシュホラーのイコンの一つとなっています。
 『ロード・オブ・ザ・リング』に登場した黒衣の騎士のイメージも、この「ブラインドデッド」を元にしているんですよ。馬を駆って逃げようとする女性が黒騎士に追い詰められる場面なんてホントそっくり。製作、監督を務めたピ−ター・ジャクソンのB級ホラーに対する嗜好がよく顕れていました。

 スペイン産のホラー映画と言うと、ミスター狼男ことポール・ナッシーや、稀代の山師ジェス・フランコのZ級作品が有名なので、節操のないパクリ路線を想像してしまうと思いますが、本作の監督アマンド・デ・オッソリオは、何よりもオリジナリティーを大切にする人です。彼は敢えて時代錯誤的とも言える古典的な題材に取り組み、闇の騎士たちが馬に乗って闊歩する幻想譚を描きました。
 いやいや、殺された女性がゾンビになって甦ってくる場面など、モダンホラーの帝王ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の影響が見え隠れする部分もあるんですよ。マリオ・バーヴァ風のサイケな照明もあったりして、はっきり言えば浮いてます。なんだか別の映画みたい。でも、そういうところもまた、この映画の魅力になってるんですよね。その特異な世界観は、目の肥えた映画ファンをも唸らせます。“モダン”と“クラシック”の融合こそがオッソリオの意図するところだったのでしょう。

 対になる要素の融合という点に関して言えば、正統派を思わせるロマンティズムの一方に、俗っぽい猥雑さを配しているところも特徴的です。アメリカ公開版ではことごとくカットされてしまいましたが、当時としてはきわどいヌードやセックス描写が展開されます。主人公がレズビアンだというのも珍しいですね。誰一人として救われない悲劇的な結末を迎えることから、主人公を含め、登場人物たちを“罪深い人間”、つまりキリスト教的道徳の規範からは外れた人間にする必要があったのでしょう。
 セックスをしていたカップルが事の後で殺されるというのは、『13日の金曜日』に代表されるようなスラッシャー・ムービーの定石ではありますが、本作の場合は、殊更にキリスト教的道徳からの逸脱として強調されています。主人公のベティーが友人のヴァージニアと背徳の愛を交わす場面では、壁に飾られた十字架のキリスト像と聖母マリアの肖像が印象的にフレームに収められていました。テンプル騎士団が十字軍遠征に参加した騎士たちによって結成された結社であり、ある意味でキリスト教の庇護者であったという事実を踏まえて見れば、主人公たちを襲った悲劇が一種の制裁として描かれていたことを了解できます。

 キリスト教の教えにおいては「同性愛」も「姦淫」も大罪で、死罪に値すると考えられていました(います?)。とすると、背徳的な主人公たちよりも、寧ろ「ブラインドデッド」たちの方が、キリスト教的には正しい立場にあるんじゃないかと思わせるところがミソ。確かに、馬に跨り剣を振るうその姿からは、ヒロイズムさえ感じることができました。馬を駆る姿がスローモーションになるところがカッコいいんだわ、これがまた!
 だからと言って、これを単純に「道徳的に退廃した現代社会に対する警鐘」と解釈してしまってはツマラナイ。処女をいけにえに捧げて生血をすするようなテンプル騎士団は、やっぱり悪者です。つまり、この映画に描かれている世界観って、紋切り型の「善対悪」の構図に収まるようなものじゃなくって、もっとドロドロしたものなんですよね。裁く側も、裁かれる側も罪深い。なんとも救いがないですし、悪趣味と言えば悪趣味ですが、これがオッソリオの哲学なのでしょう。その姿勢は、続編である『Return of the Blind Dead』にも受け継がれています。

 そうこう言いつつも、この辺までは、全ての悲劇は自業自得の原則にのっとって語られていて、一応は道徳に適った物語だと言えますよね。でも、この映画は、最後の最後で強烈なパンチを喰わせてくれます。遺跡から逃げてきた主人公が列車に乗り込むと、追いかけてきたブラインドデッドたちも列車に乗り込み、乗り合わせていた乗客たちを、強者弱者の区別なく、女子供も容赦なく斬殺していくのです。
 なんという非情さ! なんという理不尽でしょう! でも、ここに描かれているような大量虐殺は、紛れもなく現実のものでもありますよね。活劇的な要素を排した静かなトーンが無常観を際立たせています。ガタン、ゴトンと鳴り響く列車の音と、淡々と映し出される線路の映像が印象的です。
 誇大解釈をさせていただけば、この線路の映像は、時の流れ、時代の変遷というものを表現しているのだと思います。理不尽な殺戮はいつの時代にも繰り返され、罪なき人々の命を奪い続けるのです。中世の伝説に語られていた幻想譚が、列車に揺られて都市へと運ばれ、その恐怖を現代に表出させるところで映画は幕を迎えます。
 一見したところの古典的な風貌から、王道復古を目指した古風な作品と思われがちな『ブラインドデッド』ですが、その実、真にモダニズムを実践していた映画だということが分かりますね。

 さてさて、あんまり誉めて過剰に期待させちゃってもマズいので断っておきますが、この映画はあくまでもローバジェットのプログラムピクチャーですよ。俳優の質もプロダクションバリューも低い低い。それでいて演出のテンションも低いので、「手に汗握る!」とか「ハラハラドキドキ」とかいうのも無し。でも、どこか優雅な嗜好品を思わせるような気品もあって、ついつい惹かれてしまう(笑)。なんでもかんでも詰め込んだ見世物主義的な映画でありながら、雑多な印象になってしまうギリギリのところで踏みとどまって、正統派ゴシックロマンとしても成立しているのです。
 正統から最も離れた正統、悪にして善、モダンにしてクラシック、そして退屈で面白い(笑)。カルトの名に恥じない傑作! 『ブラインドデッド』は永久に不滅です。今夜も呪われた騎士たちが重たい墓石をもたげます。
<アメリカ公開版との違い>
 アメリカ公開版は、オリジナルのスペイン版より上映時間が14分も短いです。当時のアメリカの倫理規制はヨーロッパよりずっと厳しかったので、現在の基準からすればどうということのないレベルなのですが、残酷シーンやヌード、女性同士のキスシーンなどがカットされてしまいました。でも、それだけで15分も稼いでいるわけじゃありませんよ。せいぜい5分ぐらい。あとはストーリーの理解に支障がない程度にところどころが削られてます。主にドラマ部分ですが、呪われた遺跡に到着した女性が辺りを探索する描写なども削られていて、ブラインドデッド登場までの間合いも短くなっています。でも、元々がテンションの低いマッタリとした映画なだけに、テンポが良くなったら面白くなるというわけでもありませんよね。寧ろ、味わいが損なわれてます。一見無駄に思えるああいう描写が、映画に深み(←大した深みではないが・・・)を与えていたんですね。

 あと、大きな違いとしては、オリジナル版では歴史学者の解説という形で映画の中盤に挿入されていた「テンプル騎士団の伝説」を伝える映像が冒頭に持ってきてあることが挙げられます。つまり、アメリカ公開版では、怪異の正体がしょっぱなからいきなり明かされてしまうわけです。これはツマンナイなー。得体が知れないからこそ面白いんでしょ。オープニングで映し出される遺跡の映像なんか、異様な迫力があって雰囲気満点だったけど、先に説明を入れちゃってるアメリカ版だと印象薄。
 総じて、アメリカ版にはカルト映画としての風格がないですね。軍配は完全にオリジナル版の方に上がります。
映画の印象
/
降水確率15%
「ところによって雲も出ますが、
全国的には気持ちのいい快晴に恵まれるでしょう」
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 2005年10月現在、日本ではDVD化の予定はありません。VHSもとっくに廃盤になっているので、レンタル店で探すのもキツいでしょうねー。アメリカではホラー映画ファンに定評のあるAnchor Bayが、続編の『Return of the Blind Dead』とセットにしたDVD(両面焼き)を発売していましたが、それもしばらく前に廃盤に・・・。ホラー映画ファンは、みんな値の張る中古盤に手を出していたのですが・・・
 みなさん、御喜び下さい! 2005年9月、Blue Undergroundから決定版とも言える商品が発売されました。
The Blind Dead Collection(5-Disc Limited Edition)!!!
・『ブラインドデッド』シリーズ、全4作をニューマスターで収録!
・1作目と2作目は、アメリカ公開版とオリジナル・スペイン版、両バージョンを収録!!
・オッソリオ監督のインタビューやブラインドデッド誕生の経緯に迫るドキュメンタリーを収録した特典ディスク付!

・置き場所に困る棺おけBOX入り!!
 定価$99.95ですが、それなりに値引きしているお店も多いので、気になった方は購入を検討してみて下さい。リュージョン1ディスクのため、日本国内向けプレイヤーでは再生できないので注意!

 ちなみに、今回紹介した『Tombs of the Blind Dead』のディスクの仕様は以下の通り。
・アメリカ公開版『Tombs of the Blind Dead』とオリジナル・スペイン版『La Noche del terror ciego』を両方収録
 英語音声で収録されているアメリカ公開版には字幕はありませんが、オリジナルのスペイン版の方は英語字幕ON/OFF可の仕様です。
 特典は以下の通り。
・英語圏版予告編
・ポスター、スチルギャラリー集
・『Revenge Of The Planet Ape』版オープニング映像
 『Revenge Of The Planet Ape』版オープニングとはなんなのか、気になった方もいるでしょう。「The Planet Ape」、「猿の惑星」って、え!? どういうこと?
 海外のサイトを調べたところによると、これってどこかの血迷った配給業者が、この『Tombs of the Blind Dead』を『猿の惑星』の続編として公開しようとして、強引にでっち上げたものなんだそうです。
 え? どうしてこれが『猿の惑星』になるのよ!? 言われたところでとても信じ難い話ですが、そう紹介されているので仕方ありません(^^; まあ、中身はどうあれ、タイトルだけで客を呼ぼうとしたんでしょうね。映画史の闇がまた一つ紐解かれました(笑)。

(2005/10/16)

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Coming Soon!


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