ノロイ
2005年 日本
スタッフ/キャスト
製作: 一瀬隆重
監督: 白石晃士
 
出演: 松本まりか
アンガールズ
高樹マリア







115分
ストーリー
 2004年4月、怪奇実話作家小林雅文の自宅が謎の火災によって全焼した。焼け跡からは彼の妻恵子の遺体が収容されたが、小林の死体は発見されなかった。彼の消息は未だ不明である。

 ここに『ノロイ』と題された一本のビデオテープがある。近年は怪奇事件を取材したビデオ作品を発表していた小林は、2003年末からこの『ノロイ』の撮影をしていた。奇妙な赤ん坊の泣き声に悩まされているという家族への取材、放送禁止になった心霊スポット探訪番組に収められていた謎の影、「霊体ミミズ」なるものの脅威を風潮する自称霊能者の男の奇行、テレビ特番の超能力特集に出演した少女の失踪・・・。一見したところなんの繋がりもないこれらの事件には奇妙な符号の一致があった。
「真実を知りたい たとえそれが、おぞましいことであっても ―小林雅文」
 あなたには真実を知る勇気があるか?
レビュー
 キャッチコピーは「呪いは実在する」。怪奇実話作家小林雅文が制作したドキュメンタリー作品であり、全編がカメラの主観から成った映画です。全ては真実の記録です。あなたはこの驚愕の事実に耐えられるか!?
*ネタばれ注意!
 ・・・とまあ、ハッタリをカマしたわけですが、実は全てがでっち上げ、フィクションなんですよね。小林雅文なんていう怪奇実話作家も実在しません。まあ21世紀を迎えたこのご時世に、こんな映画を真に受ける人もいないと思いますが。ジャンル的に言えば「擬似ドキュメンタリー」というヤツです。近年では『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が記憶に新しいですね。
 そう、ご推察の通り、この映画は『ブレア〜』のパクリなんです。後半の森の中のシーンなんてソックリですよ。でも、これだけ聞いて「ああ、そういう類の紛い物か」と早合点しないで下さい。これが意外な拾い物。いや、寧ろ『ブレア〜』よりも面白い痛快作なのです。

 この映画について、「ドキュメンタリーにしては出来過ぎてて嘘っぽい」と文句を言う人もいます。確かにその通りです。例えば映画中に登場する超能力特集のテレビ番組。透視とか、そういう曖昧なものならよくありますが、封をしたフラスコの中に水が湧いてくるというのは行き過ぎでしょう。「物質化現象」とか言うらしいですが、こんなのは手品でもない限りテレビではお目にかかったことがありません。心霊ビデオよろしく画面に幽霊が映り込む時にフレーミングが決まり過ぎてるのもどうかなあ? ・・・でも、どんな形であれ、幽霊を、“この世のものならざる存在”を画面に登場させようとした心意気は買ってもいいと思います。この“見せる”というスタンスが、『ブレア〜』との決定的な違いですね。
 そりゃあ何も見せないようにすれば立派な印象にはなりますよ。馬脚を晒さないで済みますから。人知を超えた存在を映し出すにはそれなりの想像力というものが必要です。『ブレア〜』が“見せない”ことによって評価を獲得したことも分かりますが、だからと言ってあの映画が“見せない”という点においてロバート・ワイズ監督の『たたり』(1963年アメリカ)ほどにも成功しているとは思いませんし、個人的には“見せない”『ブレア〜』よりも“見せる”『ノロイ』の方が好きですね。

 物語的にも作り過ぎで、結末に向けて事件が集約されていく作りになっているので、いかにも「お話」っぽいのですが、これは映画的なカタルシスを優先した結果なんだと思います。擬似ドキュンタリーとしての体裁を崩さずにこれだけ映画的なクライマックスを盛り込んだ手腕は寧ろ賞賛に値するでしょう。
 パクリと言えばこの点もパクリで、音楽がまんま『遊星からの物体X』なんですが、そんなジョン・カーペンター・チックな音楽が流れる中で登場人物たちが恐ろしい怪異に立ち向かうために結束して事件の発端の地へ向かう場面なんて否応がなしに盛り上がりますよ。主人公小林雅文役のさえないオッサンがだんだんとカート・ラッセルばりのハードボイルド・ヒーローに見えてきちゃったりして(笑)。

 そもそも擬似ドキュメンタリーというものは、観客を本気で騙そうとはしていないものです。ジャンルの代表的存在である『食人族』(1981年イタリア、ルッジェロ・デオダート監督)からしてそうです。ドキュメンタリーを装うのではなく、あくまでもドキュメンタリーの設定を借りたフィクションとして見せようとしていました。まあ、こんなことで観客を騙せると思うほど観客をナメてないってことですね。
 この『ノロイ』も意図的に、それが嘘であることを表明しているのだと思います。ホラー映画ファンには馴染みが深いであろう『仄暗い水の底から』(2001年日本、中田秀夫監督)に出演していた少女を重要な役柄で起用していることからもその意図が窺えます。「まさかとは思うけど真に受けないでね。ほらね? 映画でしょう」と、彼女の登場によって暗に示しているのでしょう。本気で騙すつもりなら無名の新人を起用してるはずです。しかしこの映画は、どうせ嘘なんだからと開き直って設定を破綻させるようなことはせず、最後まで擬似ドキュメンタリーとしてのスタイルを貫いています。この点がポイント高いですね。
 冗談を言う人がクスクスと吹き出しそうになってたらシラけてしまうでしょう。冗談は大真面目な顔をして言うからこそ笑えるんです。言うなれば演劇です。全ては舞台という虚構の場で展開されます。役者たちの感情表現を真に受ける人間はいませんが、それでも、それが真に迫っていれば、観客は感極まって涙を流す場合があるのです。・・・いや、もっと的確な喩えがありました。私たち日本人にとっては特に分かり易いであろう喩え。日本映画のお家芸「怪獣映画」、『ゴジラ』や『ガメラ』に登場するニュース番組がそれです。
 怪獣が実在するなんて誰も信じていません。でも、それでいて観客は映画の中に登場するニュース映像のリアリティーを楽しみます。嘘を嘘と認めた上で貫き通すことはフィクションの一つの文法であり、また嘘を嘘と分かった上で楽しむことは観客のたしなみでもあるんですよね。

 森の中でまだ死んで間もない犬の死体を見付けるところが怖い。何か得体の知れない恐ろしいものが辺りに潜んでいることを想像させます・・・。そんでもって犬の死体が点々と続いていった後に、ドカンと積まれた犬の死体の山が現れるところが面白い(笑)。明らかにやり過ぎですが、ここまでやってくれるとほとんど「やり過ぎの美学」の域にまで達しています。森の中で気味の悪い呪物を見付けるというのも、やはり『ブレア〜』のパクリなんでしょうが、核心的な映像は一切見せないまま終わった『ブレア〜』と違ってきちんとショック・シーンを用意しているところが偉いと思います。しかも実を言えば、犬の死体の山なんて、この映画にとっては全然核心的な映像じゃないんですよ。この後、本当の恐怖映像が・・・!?
 モッタイぶって「出るぞ、出るぞ!」と盛り上げに盛り上げてから画面に登場させるところも凄いですね。これは勇気がいることですよ! 「今からスッゴイ面白い話をします!」と宣言してから小話を始めるようなものです。
 そしてこの映画は、ある程度、その“見せる”ことにも成功してると思います。何を怖いと思うかは人の主観によるので、あくまでも個人的な見解しか語れませんが、広げた大判風呂敷に似合うだけのものは用意してくれていると言えるでしょう。

 難点としては、監督がTVやOVを中心に活動している人であるためか、演出が映画的に洗練されたものではなく、極めてテレビ的である点が挙げられます。とにかくクドい! 一回で済むことを何回も繰り返します。幽霊が映り込んでいる映像など、見せ場のカットがあるわけですが、一度目だけでも充分見せ過ぎなくらい見せているのに、必ず後でリプレイします。それもご丁寧にスローモーションにしてみたりして。
 みかんを食べながらとかパソコンをやりながらとか、「〜ながら」で見るテレビの場合と違って、映画の観客はずっと集中してるんだから、こういう繰り返しは不要ですよね。特にこういう種類の映画の場合は、「あそこに幽霊映ってたよね?」、「え!? うそ!」とかって盛り上がる趣向もありますから、見えるか見えないかの曖昧なところで止めておくのも芸の内でしょう。そうすれば確認のために足を運ぶリピーターが増えるかも知れませんし。
 でも、この映画は、実はこうした批判も回避するように作られているんです。だってこの映画、怪奇実話作家小林雅文が制作したビデオ作品ということになっているんですから。咎は全て小林雅文さんが被ってくれます(笑)。安っぽいところがあっても、「そういう設定だから」と言い訳できてしまうんです。これは卑怯ですよね(笑)。恐らくこの映画のスタッフは、自分たちの領分をわきまえ、テレビ的技法のみで映画を作る方法を考えた結果こういう設定を採用したのでしょう。だからこの映画が面白いからと言って、この映画の監督、スッタフの次回作に期待できるかと言えばそうでもない。受けたからと言って同じことをやってもさすがに観客は付いてこない。だからと言って映画的に洗練され、緻密に構築された世界観を展開できるかと言われればアヤしい。なんにしても一発ネタなわけですが、こういう映画もたまにはあったっていいと思います。現に結構面白いですからね。みんながみんなこんなことをやり出したら堪りませんが・・・(^^;

 内容的なこともあって、あえて大々的な宣伝を展開しなかったのでしょうが、一部マニアの間で好評を博しただけで、『リング』や『呪怨』ほど話題にならないう内に劇場公開も終わってしまった『ノロイ』ですが、個人的にはこれらビッグネームに連なる傑作だと思います。完成度の高い『リング』には負けるだろうけど、大味な『呪怨』よりは良く出来てますよ。この映画を見る人は、この嘘っぽさ、このやり過ぎの感覚を半分笑って見るでしょうが、もう半分では本気で怖がってしまうはずです。
 本編中で「かぐたば」と呼ばれる得体の知れない存在には、H・P・ラブクラフトのクトルフ神話に通じるような闇の深淵が感じられます。事件に一端決着がついて(←ここで終わっても充分面白い)から挿入される、ダメ押しのエピローグも最高です。ザッツ・ホラー映画! キワモノのようでいて、押さえるところはしっかり押さえたイッパシの娯楽作ですよ。
映画の印象
/
降水確率10%
「少し雲は出ますが雨の恐れはほとんどなく、
気持ちのいい晴天に恵まれるでしょう。」
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 DVDは2006年1月にジェネオン・エンタテインメントより発売されました。「ノロイ プレミアム・エディション」という商品がそれです。初回生産分はアウターケースとブックレット付き。本編ディスクには予告篇集を収録。特典ディスクには以下の映像特典が収録されています。
・未公開シーン集(29分)
・「緊急レポート! かぐたばの真相を追え!!」(36分)
・「呪いから身を守る方法―呪い殺されないための10か条―」(14分)

(2006/2/7)

関連作をチェック!

関連作品


トップページを表示