マーターズ
Martyrs 2008年 フランス/カナダ
スタッフ/キャスト
製作: リシャール・グランピエール
シモン・トロティエ
製作総指揮: フレデリック・ドニギアン
マルセル・ジルー
監督: パスカル・ロジェ
脚本: パスカル・ロジェ
撮影: ステファーヌ・マルタン
ナタリー・モリアフコ=ヴィゾツキー
編集: セバスティアン・プランジェール
音楽: アレックス・コルテス
ウィリー・コルテス
 
出演: モルジャーナ・アラウィ
ミレーヌ・ジャンパノイ
カトリーヌ・ベジャン
イザベル・シャス
エミリー・ミスクジャン
100分
レビュー
 最近すっかり“ホラー映画づいて”いるフランス映画界から、新たな話題作が登場。ユーロホラー、中でもフランスのホラー映画は「残酷」というイメージが定着してしまっているので(満更間違いじゃないけど・・・)、この映画も日本では「残酷ホラー映画が遂に到達した究極の新境地」、「これは本当に公開して良いものなのか!?」なんていうゲテモノ臭いキャッチコピーを付けられていて、思わず眉をひそめちゃうところなんだけど、こういうキャッチコピーがアテにならないのはいつものことなので、興味引かれるプロットと「先が読めない展開」という噂に期待して見てみたのですが・・・

 1971年、全身に傷を負った幼い少女が保護された。彼女の名前はリュシー。古びた倉庫に監禁され、見知らぬ大人から虐待を受けていたという。恐怖に囚われ、心を閉ざしてしまっていたリュシーだったが、収容先の施設で出会った同年代の少女アンナとは心を通わせるようになってゆく。常に何かに怯えているリュシーを献身的に支えるアンナ。二人の間には誰も入り込むことのできない固い絆が育っていった・・・
 15年後、ある家族の平和な日常が突然の銃声によって引き裂かれた! 謎の乱入者がショットガンで一家を皆殺しにしてしまったのだ! 乱入者の正体は、成長したリュシー。彼女はアンナに電話をかける。「“ヤツら”を見つけたの!」、リュシーは15年前の復讐を果たしたというのだ。
 慌てて駆けつけたアンナは、リュシーの尋常ならざる様子を見て疑念を抱く。彼女の言っていることは本当なのだろうか? 彼女は狂ってしまったのではないだろうか?

 なかなか引き込まれる導入部です。謎が謎を呼ぶところはもちろん、孤独な少女同士が絆を育んでいくところにも魅了されます。登場人物の行動が極端だから、単純な感情移入というのとは違うんだけど、一定の共感を伴った状態で話が進んでいくので、彼らの抱く恐怖、不安が、より身近なレベルで感じられます。つまり心に響いてくるってこと。ホラー映画はこうでなくっちゃ!
 見るからに『呪怨』を思わせるシチュエーションや映し方があったりして、ジャパニーズホラーの影響を受けていることは明らかなんですが、それが単なる人マネに終わってない。流れの中で必然性を持った使い方をしているから、演出としてしっかり機能してる。むしろ本家の『呪怨』より、しっかりしてる印象を受ける。本編視聴後にDVD特典の監督インタビューを見てみたら、「最近のホラー映画は因襲的だ」と批判を口にしていて、「第三者的な立場で映画を作りたくない」、「自分自身のホラー映画を作りたい」と言っていましたが、そうした真面目さ、真摯さが映画にもよく出ていたと思います(←「そう言うなら人マネなんかしないで全部オリジナルのアイディアでまとめろよ」とも言いたくなりますが、そこまで言ったら高望み過ぎかな?)。着想の奇抜さはなかなかのものですし、これくらいオリジナリティーを感じさせるホラー映画というのは稀に見ます。久々に凄い傑作に出会ってしまったのではないかと、期待を膨らませながら見ていたのですが・・・

 終盤、テンションが落ちてきます。お話がひたすらに暴力的になっていくので、それを見世物のようにはしたくないという考えから、あえて演出を抑えようとしているのは分かるのですが、それに伴って映像の力まで落ちてきてしまっては・・・。単にストーリーを消化しているだけの、説明的な映像という感じ。もっと徹底的に無味乾燥にして、例えばミヒャエル・ハネケの映画ぐらい淡々と描いてたら、それはそれで効果を上げてたと思うけど、多少キドって撮っているから逆に悪い。顔のアップの多用や主人公の容姿などから、『裁かるるジャンヌ』をやろうとしていることは一目瞭然なのですが(ちなみにタイトルの『Martyrs』は「殉教者」という意味)、あの映画の持っている映像の力とは比べるべくもなく・・・
 物語がこういう構造をしている以上、映画が尻すぼみに見えるのは、ある程度しょうがないことだとも思うんですけどね。序盤から中盤にかけては、観客に“想像させる”面白さがあるでしょ。リュシーを監禁した犯人の動機は? 一体どんな拷問が行われたのか? 時々現れる気味の悪い女の正体は? 提示される情報が限定的だからこそ、むしろ色々と想像してしまう。そこに、さながら底なしの闇を覗き見るような怖さがある。それに対し終盤は、犯人の動機を早々に示してしまった上で、拷問の詳細も見せていくものだから、実際に見えている以上には闇が深まってこない。
 う〜む、序盤から中盤にかけては、ほとんど完璧な映画なんですけどね。サスペンス、スリラー映画としては文句なしの合格点。だけど、さすがに『裁かるるジャンヌ』は荷が重かった。最後もしっかりオチをつけると言うより、いわゆる「思わせぶり」な終わらせ方にしてるんだけど、あまり余韻を引きません。具体的なものをはっきり見せる時は冴えてるんだけど、観念的なものを表現しようとすると、途端にぼわ〜っとしてきてしまう感じ。まあ普通のホラー映画とは違う、一段高いものを目指した結果こうなったんだから、そんなに悪い気はしないけど。

 ここ数年、鳴り物入りで公開されたフレンチ・ホラーを色々と見てきたんですが、どうにも違和感を禁じ得なかった。やっぱり「フランス映画ならでは」って言うか、ありふれたホラー映画とは違うものを期待しちゃうんだけど、実際にはアメリカのホラー映画のパロディーみたいな作品がほとんど。だいたいみんな若い世代の監督が、自分たちが子供の頃に熱中したアメリカのホラー映画を無批判にリスペクトして、その再現を試みているのだから無理もない。そんな中、本作でパスカル・ロジェ監督が示したオリジナリティーは際立ってます。新世代のホラー映画監督の中では期待の注目株。現にハリウッドの方からも声がかかっているみたい。次回作を楽しみに待ちたいと思います(^^)
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 DVDは2010年にキングレコードから発売されました。画質も音質もしっかりしており、監督と主演女優へのインタビュー、メイキングの他、オリジナル劇場予告編などの特典も収録されているので、安心してご購入いただける商品だと思います。

(2010/1/12)

関連作をチェック!

関連作品


トップページを表示