シェルブールの雨傘
Les Parapluies de Cherbourg 1963年 フランス
スタッフ/キャスト
製作: マグ・ボダール
監督: ジャック・ドゥミ
脚本: ジャック・ドゥミ
撮影: ジャン・ラビエ
作詞: ノーマン・ギンベル
音楽: ミシェル・ルグラン
 
出演: カトリーヌ・ドヌーヴ
ニーノ・カステルヌオーヴォ
マルク・ミシェル
エレン・ファルナー
アンヌ・ヴェルノン
91分
ストーリー
 シェルブールの街に住むギイとジュヌヴィエーブは仲睦まじい恋人同士。互いに将来を約束し合った仲だ。でも、ジュヌヴィエーブの母は、低賃金労働者のギイのことを快く思っていない。「きっともっといい人が現れるわよ」と言って結婚に同意しない。そんな頃、ギイの元に召集令状が届けられる。
 戦地へ送られたら帰ってこれる保証はない。「あなたのことをずっと待ってるわ」、「生きてる限りきみのことを愛し続ける」。最後の夜を共に過ごした二人は、再会を誓い合い、哀しい別れを迎えるのであった・・・

 一人シェルブールに残されたジュヌヴィエーブ。ギイからの手紙が届かなくなって、彼女は不安に囚われ始める。「何かあったのかも知れないわ!」と心配するジュヌヴィエーブの様子を見て、彼女の母は「大丈夫、きっと帰ってくるわよ」なんて優しい言葉はかけないで(笑)、これ幸いにとばかりに「あなたのことなんて忘れたのよ!」と追い打ちをかける。思わず卒倒してしまうジュヌヴィエーブ!
 ジュヌヴィエーブの体は変調をきたしていた。そう、彼女は妊娠していたのだ! 父無し子を生ませるわけにはいかないと慌てたジュヌヴィエーブの母は、ジュヌヴィエーブに好意を寄せていた宝石商カサールとの縁談を進めようとする。カサールの純粋な思いを知ったジュヌヴィエーブの心は大きく揺れるのだが・・・
レビュー
 セリフが全部歌になっていて、最初っから最後まで全編ずっと歌いっぱなしという異色のミュージカル映画。この奇抜なアイデアを実行に移したのは、当時新進気鋭の映画監督だったジャック・ドゥミ。本作は1964年のカンヌ映画祭でパルムドール大賞を受賞。ドゥミの名声と主演のカトリーヌ・ドヌーヴの人気を決定付けた、ロマンス映画の名作です。


 ・・・というわけで『シェルブールの雨傘』なんですが、言わずと知れた名作ですよね。40年以上前の映画ですし、もう大体語り尽くされちゃってて、今更通り一辺倒の解説なんていらないと思うので、ここはちょっと私個人のプライベートな話から始めさせてもらいます。
 この映画を初めて見たのは、もうかれこれ10年くらい前の高校生の時。フランス映画にハマり始めた頃です。当然通る道ですよね。肩書きは充分な映画ですし、結構期待して見ました。・・・でも、正直言って、その時はあんまりノレなかったんです。悪いとは思わなかったけど、パッとしない印象・・・。その後見た『ロシュフォールの恋人たち』(←ドゥミが3年後に手掛けた作品。こちらもミュージカルで、ドヌーヴが出演)は気に入ったんですけどね。ハリウッド製ミュージカルへのオマージュなどがあって、バラエティーが豊かでしたし。LDもこちらだけ買いました。
 そんなわけで、再見することも無いまま十年が過ぎていたのですが、最近CSの映画チャンネル、シネフィル・イマジカで放送していたのを横目に見たら、なんだか妙に引き込まれた。カサールがジュヌヴィエーブの母に身の上を語る場面と、その後の、カサールに求婚されたジュヌヴィエーブが困ってしまう場面だったのですが、もう先が見たくてたまらなくなりました。先がどうなるかなんて分かっているはずなんですけどね(笑)。で、途中から見るのでは失礼なので、DVDを引っ張り出してきて(←気に入ってたわけじゃないのにDVDを買ってあるというがマニアですな(^^;)、襟を正して見直したわけです。そしたら、もう・・・・・
 もう、涙を抑えられません! どうしたんだろう!? 前半からずっと泣き通し。「前半からって、そりゃあいくらなんでも涙腺ユル過ぎだろう」と言われそうですが、そうじゃありません。たぶん結末を分かって見たからです。40年も前の映画ですし、今更隠す必要も無いですね。そう、二人は結ばれないのです。二人は別々の人生を歩みます。それが分かっているからこそ、愛を語り合う二人の姿が哀しいのです。愛し合う二人の姿が哀しいのです。全ての愛おしい場面が、哀しい場面へと変わります。
 変わる・・・、そう私自身もこの十年の間に変わったのだと思います。年寄りクサいのであまりこういうことは言いたくないのですが、十年前の私は、この映画の伝えていることを充分に汲むことができていなかったのだと思う。大した人生経験を積んだわけじゃありませんが、やっぱり人は変わっていく・・・。こういうことがあるから、一度あまり面白くないと思った映画でも見直す必要があるんですよね。そのために、どんどんビデオを録って、どんどんDVDを買って・・・って、これじゃあマニアのいいわけだわな(^^;

 さて、ヨタ話はこのくらいにして、少しは内容についても触れておきましょう。

 この映画は大きく三つのパートに別れています。第一章「出発」では、シェルブールの町に住む恋人同士、ギイとジュヌヴィエーブの人となりや人間関係、そしてその別離までが描かれます。別離の原因は、ギイの元に届いた召集令状。アルジェリア戦争が暗く影を落としています。
 第二章「不在」では、シェルブールに残されたジュヌヴィエーブの姿が描かれます。タイトル通り、この章をギイの完全なる不在の内に描いているところが巧いですね。今時の映画ならギイの物語も同時進行させて観客をハラハラさせようとするところでしょうが、それでは感情移入はできません。観客たちもジュヌヴィエーブと一緒に取り残されて、共に孤独に打ちひしがれなければならないのです。
 第三章「帰還」では、ジュヌヴィエーブのいないシェルブールに戻ってきたギイの姿が描かれます。残酷な事実に打ちのめされ、自暴自棄になるギイ。そして再出発。
 タイトルこそ冠されていませんが、あとここにエピローグとなる短い章が加わります。題するなら「再会」。遅過ぎた再会です・・・。二人はそれぞれ家庭を持ち、別々の人生を歩んでしまっています。「元気にしてる?」、「ああ元気だよ」。素っ気無い言葉を交わして別れる二人・・・。幕。

 ムダの無い見事な構成ですが、この映画を特徴付ける要素は、やっぱりセリフが全部歌になっているということでしょう。それも「いかにも歌!」っていう感じのカッコつけた詞じゃなくて、ありふれた話言葉で歌っていること。「ガソリンは何にします? スーパー? それとも普通の?」なんて普通歌にはしません(笑)。別離の場面での「モナムール!」、「ジュテーム!」の繰り返しなんて、はっきり言ってバカバカしいですよ。でも、このバカバカしさは、登場人物の必死さを表現してもいます。逆説的ですが、歌われることによって、本来歌にならないようなクダらない台詞の内にある感情が際立ってくるのです。だからこの映画は、ミュージカルであるにもかかわらず、非常にリアルです。絵空事、綺麗事ではありません。真に迫っています。
 この映画を見ていて、まず一番に衝撃を受けるのは、ジュヌヴィエーブが母親に妊娠を告白する場面です。「妊娠」という言葉が、これまでミュージカル映画の中で口にされたことがあったでしょうか! それはあまりにも生々しい・・・。ファンタジーの世界にはそぐいません。これは後に、大きく膨らんだお腹という形で、映像でも提示され、観客を動揺させます。この点でも、ミュージカルであるということが、逆説的にリアリティーの認識を助ける役目を果たしていることが分かります。「セリフが全部歌」というのは、単なる技法面での挑戦ではないのです。手法は主題を含みます。歌われ奏でられる“テーマ”は、映画のテーマと調和しています。キザな言い方をすると、“愛の物語”は、ただ話されたりするよりも、“歌われる”のが相応しいということですね(#^.^#)。

 最後の別れの場面での二人のやりとりを見て、「愛し合った同士でも、まあ時が経てばこんなものだよね」と醒めた感想を言ってる人がいました。記憶が曖昧だったので、私もそんな映画なんだろうと思っていました。個人的にはそういう観客を突き放すような映画も好きなので、たっぷり人間不信を味わわせてもらうつもりで今回テレビに向かいました。でも、実際は違いました。二人の愛は冷めてはいません。二人は未だに相手のことを思い続けていたのです。
 ジュヌヴィエーブがシェルブールに立ち寄ったのがただの偶然とは思えません。もちろん、わざとギイに会おうとしたわけではないでしょうが、なんらかの感慨に囚われていたであろうことは推測できます。そしてギイ。彼は妻とガソリンスタンドを営み、クリスマスツリーを囲んでいますが、これは彼がジュヌヴィエーブと夢見ていた未来なのです。何よりも二人の子供の名前・・・
 二人には既に守るべき家庭があります。守るべき幸せがあります。二人共、相手には自分の気持ちを悟られまいとして、努めて素っ気無く振舞います。しかし、その思いは音楽が語っているのです。ここで聴こえてくるのは、二人の逢引の場面でも流れた、あの印象的な「愛のテーマ」なのです。「元気にしてる?」、「ああ元気だよ」。これが精一杯の気遣い。精一杯の思い。ああ、なんて感動的な詞なんだ!
 この映画のテーマを、「時代に引き裂かれた愛」とか「戦争に奪われた青春」とか言う人がいます。もちろん、それもあるでしょう。でも、一番根幹にあるのは、もっと単純なメッセージ、「人は哀しみを背負って生きていくしかない」というものだと私は思います。そしてまた、「<哀しみを背負って生きる>ということは、<不幸な人生を送る>ことではない」とも伝えていると思います。ジュヌヴィエーブもギイも不幸になったわけではありません。決して消えることのない哀しみを抱えていますが、新たな人生に確かな一歩を踏み出しているのです。
 映画の最後を締め括るのはエモーショナルなファンファーレ。ちょっと大げさ過ぎる気もするのですが、二人の門出を祝福するにはこのくらいでちょうど良かったのかも知れませんね。お二方とも、お幸せに・・・(*'‐'*)
映画の印象
/
降水確率0%
「快晴、でも心はいっぱいの涙に濡れるでしょう。」
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 DVDはソニー・ピクチャーズエンタテインメントより発売されました。1998年というDVD黎明期の商品なので、クオリティーはあまり高くありません。マスターはたぶんLDの使い回しですね。映像特典も無し。字幕もOFFにできません。でも、絶望的に悪いマスターというわけではないので、購入しても後悔はしないと思います。何よりも、映画自体は素晴らしいので。涙に目が曇ってしまえば画質なんて重要ではありませんよね(笑)。オリジナル劇場予告編などの映像特典を収録したニューマスター仕様の商品の発売を望みたいとは思いますが・・・

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