イカルスの飛翔
Le Vol d'Icare 1974年 (スイス)
NO IMAGE
スタッフ/キャスト
監督: ジョルジュ・シュヴィツゲベル
音楽: (フランシス・クープラン)







3分
レビュー
 スイス出身のアニメーション作家、ジョルジュ・シュヴィツゲベル最初期の短編作品。グァッシュ(水彩絵の具の一種)を用いたセルアニメーションで、等間隔に並んだ点の明滅によって、さながら電光表示板のような映像を作り出しています。
 音楽はバロックの名匠クープラン。音楽に合わせて明滅する光の点が、ギリシャ神話に登場する「イカルス」の物語を紡ぎ出します。

 イカロスって言うと、つまり・・・

 昔ギリシャのイカロスはろうで固めた鳥の羽根〜♪


 そう、みなさんご存知のあの歌に登場するイカロスです。イカルスとも訳しますが、同じ人です。あの歌、みなさんも小学生の時に歌わされたでしょ?
 参考までに歌詞載せますね。

1.昔ギリシアのイカロスは
  ろうで固めた鳥の羽根
  両手に持って飛び立った
  雲より高くまだ遠く
  勇気一つを友にして


2.おかはぐんぐん遠ざかり
  下に広がる青い海
  両手の羽根をはばたかせ
  太陽めざし飛んでいく
  勇気一つを友にして
3.赤く燃えたつ太陽に
  ろうで固めた鳥の羽根
  みるみるとけて舞い散った
  つばさうばわれイカロスは
  落ちて命を失った


4.だけどぼくらはイカロスの
  鉄の勇気を受けついで
  明日へ向かい飛び立った
  ぼくらは強く生きていく
  勇気一つを友にして

 冷静に考えると変な歌ですよね。「勇気一つを友にして〜♪」という部分がクサくて、歌うのが憚られてしまうのですが、それでも状況描写中心の3番までは耐えられます。でも、途端に押し付けがましくなる4番は論外ですよね。
 「ぼくらはイカロスの鉄の勇気を受け継いで〜♪」って、勝手に決めるなっつーの! 3番までで語られてきたお話に対してどういう感想を抱こうが個人の自由でしょ。勝手なテーマを引き出すんじゃなくて、そこんところはこれを歌う子供たちに委ねなよ。3番で終わりにしとけばいいものを・・・
 て言うか、そもそも小学生にギリシャ神話ってどうなのよ? 他にもっと小学生向けの歌があるんじゃないの? なんだかインテリのおっさんたちの自己満足って感じ。

 え〜と、この歌詞を読んでも、そしてこの映画を見ても、イカロスの物語はよく分からないと思うので、かいつまんで説明させていただきますね。
<イカロス神話>
 青年イカロスは、名工である父ダイダロスと共に、ミノス王治下のクレタ島を訪れた。しかし二人は王の怒りを買い、ミノス王ご自慢の迷宮に幽閉されてしまう。迷宮から抜け出すためには空を飛ぶしかない!
 ダイダロスは鳥の羽を集めて二組の翼を作り上げると、それを蝋を使って背中に貼り付けて、迷宮からの脱出を図る。空高く舞い上がるイカロスとダイダロス。
 脱出は大成功! でも調子に乗ったイカロスは、父が止めるのも聞かず、どんどん高く昇っていく。すると太陽の熱で蝋が溶けてしまい、イカロスは高所から海へ落下して、命を落とした・・・。だいたいこんな感じです。


 意外にも例の歌とシュヴィツゲベルの映画には共通点があって、どちらでも「父ダイダロス」の存在が省略されているんです。もう一つ補足すると、ミノス王の「迷宮」も登場しません。いや、この『イカルスの飛翔』の方には、一応迷宮らしき建物が登場するのですが、ほんの一瞬ですし、“飛翔”前の場面でも、イカロスは普通に走り回ったりしているので、幽閉されているという感覚は乏しいです。まあ、誰でも知ってるような有名なお話なので、「そのくらいのことは事前に知っとけ」っていうことなのかも知れませんが・・・
 でも、イカロスが助走をつけては跳躍を繰り返し、必死になって鳥を捕まえようとしているのを見ていると、この映画が、鳥に憧れ、純粋に飛ぶことを希求した男を描いた物語のように思えてきます。鳥たちは、もう少しで捕まえられそうというところで、彼の手の内からすり抜けていきます。
 飛翔するイカロスの姿に「羽ばたく鳥」の映像がフラッシュバックするのを見るにつけ、この印象が間違っていなかったことを確信できます。
 余分な登場人物、余分な設定を削ぎ落とし、物語を単純化して、「飛ぶことを希求した男の物語」として焼き直す。あの歌とこの映画の間には、そのコンセプトからして似通ったものがあったんですね。でも、4番の内容と「勇気一つを友にして〜♪」という歌詞を抜かした「イカロス」ですよ(笑)。

 テーマ性や感傷は徹底して排除されています。点の明滅によって表現される電光表示のような映像は、シンプルに過ぎて、もはや“必要最低限以下”の要素しか賄っていません。イカロスの墜落シーンなんて、注意していなければ見落としてしまいなそうなほど・・・。青い背景に散らばるまばらな黒い点だけが、その顛末を物語ります。神話上の有名な人物を扱いながら、シュヴィツゲベルは、ジャパニメーション的キャラクターアニメの対極にある、究極のリミテッドアニメ表現を実践しているのです。
 しかし、このシンプルさは、逆説的に大いなる豊かさを体現してもいます。同監督の代表作『フランケンシュタインの恍惚』とも通じる方法論ですが、シンプルであるが故に、その中に立ち現れる小さな差異は、結果的に大きなアクセントとして機能するのです。

 「神話」を電光表示に置き換えるという手法からは、脱神話的、脱構築的な意図が読み取れ、なにかシニカルな作風を想像してしまうところですが、この映画は寧ろ純粋なスペクタクルを実践しています。まあ、とやかく言わないで、気軽に楽しむのが吉ですね。
 ハープシコードで奏でられるクープランの楽曲に耳を傾け、明滅する光の点を見やっていれば、それだけで気持ち良くなってしまうはずですよ(^^)
映画の印象
/
降水確率20%
「ところによっては雲も出ますが、
全国的には気持ちのいい天気になるでしょう。」
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 DVDはジェネオン エンタテインメントから発売されました。1995年にダゲレオ出版から「ジョルジュ・S作品集」というタイトルでVHSも発売されていましたが、今回のDVDには新作5本を加えた計13本が収録されています。画像もキレイなDVDなので、迷わず購入可ですよ。

<収録作品>
・イカロスの飛翔
・遠近法
・オフサイド
・フランケンシュタインの恍惚
・78回転
・ナクーニン
・絵画の主題
・破滅への歩み
・鹿の一年
・ジグザグ
・フーガ
・少女と雲
・影のない男


 特典はポスターギャラリー。これは上記収録作のポスターではなくて、グラフィックアーティストとしても活動していたシュヴィツゲベルが手掛けた、映画祭やコンサートのポスターです。23点ほど見られますよ。

 ちなみに本DVDでは各作品の冒頭に本編開始までの「カウントダウン映像」が収録されていますが、以前発売されていた作品集にはこういった映像は一切ないので、DVD化に際して新録したものなのかも知れません。よって厳密に考えれば作品本体とは別物として考えた方がいいのかも知れませんが、それぞれの作品の雰囲気に合わせた映像になっているので、それなりに見物ではあります。

(2005/08/03)

関連作をチェック!

関連作品
ジョルジュ・シュヴィツゲベル監督作品をチェック! フランケンシュタインの恍惚


トップページを表示