| ゲームの規則 | |
| La Regle du jeu | 1939年 フランス |
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| 『ゲームの規則』・・・・・、公開禁止にされていた30年代から、空襲で失われていた4、50年代にかけての映画ファンのみならず、DVDが発売されて手軽に見られるようになる前の、90年代の映画ファンにとっても、このタイトルは、特別な響きをもって受け取られてきました。何か観念的で、形而上学的な意味を湛えているような、謎めいたタイトル。ヴィトゲンシュタインを経てきている私たちにとっては、尚更にそう感じられることでしょう。おそらく未見の人は、今でもそうした印象を受けるだろうと思います。しかし、実際に見てみると、なんてことはない。ここでいう「ゲーム」とは、男女の恋愛、・・・・・・友情の、人間関係の、人生のゲームのことだったのです。 ルノワールは言っています。「私は、純粋に、“楽しい悲劇”を目指した」と。言われてみれば、その通りで、物語は、古典的な戯曲、演劇のフォーマットに則って展開されています。身分違いの恋、妻や夫ある身の背徳の恋、そして三角関係。語り口は明晰で、謎めかすようなところなんて、これっぽっちもない。・・・しかし、いや、そうだからこそ、この映画は“謎”なのです。普通でありながら、普通でない。形容し難い異様な感覚・・・・。これは、神話に対する、「映画史」上の神話に対する、畏怖などではありません。この映画には、明らかに、化け物じみた何かが潜んでいます。果たして、その正体は? この映画を読み解く上で、ゴダールの『映画史』が、一つの参考になるかと思います。数々の映画、メディアからの引用によって成り立ったあの作品の中で、一際印象的に用いられているのが、この『ゲームの規則』なのです。そこでは、この「楽しい悲劇」の、「楽しい」側面が削ぎ落とされ、暗い闇が浮き彫りにされています。撃たれる兎、骸骨の舞踏・・・、鮮烈な“死”のイメージ。ゴダールは、それを常に、“戦争”というテーマと重ねて提示しています。まるで、この『ゲームの規則』が、戦争の悲劇を予期していたとでも言うかのように・・・ これは、なにも、ゴダール独自の解釈ではありません。1939年に公開された本作を、同年末に始まった第二次世界大戦と関連付けて語るのは、映画をそれが制作された時代背景から読み解こうとする傾向の強い映画評論家たちの好むところです。抗し難い誘惑でしょう。しかし、これは「神話」でもあります。映画が時代を映す鏡であるという意味において、戦争へと向かう、時代の不安な空気を映し出すということはあっても、それが未来を予言するなんてことはありません。少なくとも、映画の中で描かれている出来事を、未来に起こった個々の事象と関連付けて語るのは間違いでしょう。 ゴダールは、そんなことは、もちろん分かっています。彼が志向している「モンタージュ」とは、単純に事物を結びつけることではなく、そこから導き出される「イメージ」の探求です。私が思うに、大事なのは、事実として、ルノワールが戦争のことを意識していたか否かという点ではなく、この映画が、戦争を強く“イメージ”させるという事実の方。映画の終わり頃、ある人物が銃で撃たれて死ぬことになるのですが、その様子を描写した言葉に、観客はぞっとさせられるはずです。「彼は、撃たれた兎のように死んだ」。野原に累々と横たえられた、たくさんの兎の屍が、人間の死体に置き換わって見えたはずです。強烈なイメージの力・・・、それがこの映画の存在価値です。 あくまでも映画の世界の中に限った話をすれば、これは、ある時代のある場所、ある階級の生活を映し出している映画だと言えます。戦後の復元版では、「当時の風俗の正確な記録を自負するものではない」と遠慮がちな字幕が入れられていますが、ルノワールが、自分が属していた世界、「ブルジョワの世界」を、可能な限り正しく写し取ろうとしていたことは明白です。からくりオルゴールにコダワリを見せる侯爵、やたらとブロット(*注)をやりたがる婦人など、妙に細かいディテールは、それが、実際にルノワールの周囲にいた人物であることを想像させます。そして、この頽廃・・・、道徳的な頽廃も、現実のものなのだと意識させます。 私が特に辛辣に感じたのは、パーティーの主催者ラ・シュネイが、ご自慢の自動演奏機を披露する場面です。客たちの賞賛を前に、ラ・シュネイはご満悦の様子ですが、その頃、別室では、彼の妻が不貞を働こうとしているのです。もしかすると、彼もそのことに薄々感づいているのでは? なんて空虚な笑顔、なんて空虚な満足でしょう。自動演奏の無機質な音、からくり仕掛けで動く人造の動物が、視覚、聴覚両面から、空虚の感覚を叩きつけます。富の力では、この空虚は贖えない・・・、いや、寧ろ、富が空虚を増長しているように見える・・・ 批判されたのも尤もです。金持ちを鼻持ちならない嫌なヤツとして描くことが定着している現在からすると想像もできないことですが、貴族が映画のパトロンになることもあった30年代、芸術が、芸術の批評が、まだまだブルジョワのものであった30年代においては、この映画は、受け入れられざるものだったのです。ルノワールの態度は、ブルジョワに対する裏切りとして受け取られました。 しかし、ルノワールは、何か特定のものを一方的に断罪するような、独善的な態度を取っているわけではありません。それは恐らく、ルノワールが一番嫌ったもの・・・。映画の主要な登場人物であるオクターブの、「民衆と交わりたかった」という言葉は、自らオクターブを演じているルノワールの、自身の心情の吐露以外の何物にも聞こえませんが、彼は同時に、ブルジョワの世界に対する強い愛着ものぞかせています。侮蔑と愛着という相反する二つの感情が、同時に、フィルムに焼き付けられているのです。正に「楽しい悲劇」とは言い得て妙。それは恐らく、女に対する、男に対する、「人間」という存在に対する侮蔑と愛着でもあったのでしょう。 ルノワールの非凡さは、このような複雑な物語、いくらでも観念的に描けそうな題材を、さらりと軽快に描き切っている点にあります。凄いということを感じさせない凄さ、非凡ということを感じさせない非凡さです。誤解しないでもらいたいのですが、これは、即物的な描写を重視する、脱演出的な手法とは違います。ルノワールは、芝居がかった演技も、装飾的なカメラワークも拒んではいません。しかし、それらを、物語の中に、映画の中に、完全に溶け込ませることができるのです。ほとんで、その筆跡さえ読み取らせないほどに・・・ 多くの映画監督、自称映画作家たちが、芸術家として制作に臨み、自らの名前を、演出と言う筆致によって、作品の中に刻み込もうと躍起になっているのに対し、ルノワールは、まるで、一介の職人のように振舞っています。そして、家を建てるようにして映画を作っています。 映画とは、建築のようなものだと言われます。絵画や小説のように一人で創作するのではなく、大勢の人間が関わって、共同作業によって作られるからです。田舎にひっそりと佇む、質素な教会のような映画もあれば、豪華な大聖堂、超高層のビルディングのような映画もあるでしょう。もちろん、それは、建築家の意向によって、大胆に形を変えます。しかし、度を過ぎると、見た目には奇抜で面白くても、構造的には脆くなり、そして、居心地の悪い場所になってしまう・・・ ルノワールの「家」は、シンプルに、そして堅牢に作られています。それは戦火を耐え、今でも大勢の人を迎えています。私たちも、そこに招かれるのです。ラ・シュネイ邸に招待された賓客たちのように・・・。きっと楽しいことばかりではないでしょう。パーティーには、大抵、鼻持ちならない人間も参加しているものです。でも、喧騒が過ぎ去った後に思い返すと、それは忘れられない一時になっている・・・ フランソワ・トリュフォーは言っています。「私が陰鬱な青春時代を乗り越えることができたのは、『ゲームの規則』を何度となく繰り返し見たおかげだ」と。私たちもきっと、この映画を、何度も何度も繰り返して見ることになるでしょう。その度に、この広い家は、新しい部屋を用意して迎えてくれることでしょう。 *注 劇中で貴族のおばさんがやたらとやりたがっている「ブロット」というのは、フランスで一般的なトランプゲームです。主に4人でプレイするゲームなので、盛んに人を誘っているんですね。日本ではあまり遊ばれていない「トリックテイキング」という種類のゲームですが、駆け引きがあって楽しめます。Thanos Cardgamesというサイトで1人用のプログラム(←得点システムを簡略化したバージョン)が公開されているので、興味のある人はお試しあれ。こちらのサイトを参照して、この“ゲームの規則”も覚えちゃいましょう(笑)。
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| DVDは2003年2月に発売されました。販売紀伊國屋書店、発売IMAGICAです。特典の「予告編」というのは、オリジナル版ではなく、日本版の予告編です。ちょっと残念ですね。でも、本編のクオリティーは概ね良好なので、問題なく楽しめます。ただ、このDVD、もう廃盤になっちゃってるみたいなんです。中古にはプレミアが付いてます。中身は未確認ですが、500円のワンコインDVDでも出ているみたいなので、そちらを購入してみてもいいかも? アメリカのクライテリオンから2枚組の豪華版が出ているので、フランス語のヒアリングができる方、及び英語字幕でOKな方には、断然そちらがオススメです。『The Rules Of The Game: Criterion Special Edition』という商品です。 | |
(2007/12/29)
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