快楽殿の創造
Inauguration of the Pleasure Dome 1954,1956,1958,1960,1978年 アメリカ
海外版ビデオ
スタッフ/キャスト
監督: ケネス・アンガー
編集: ケネス・アンガー
音楽: レオシュ・ヤナーチェク(既成曲)
音楽(別バージョン): E.L.O.
 
出演: サムソン・ド・ブリエ
Marjorie Cameron
Katy Kadell
Renate Druks
ジョアン・ホイットニー
アナイス・ニン
Paul Mathison
カーティス・ハリントン
ケネス・アンガー
38分
レビュー
 アメリカを代表するアンダーグラウンド系映画作家にして、ハリウッドの内幕をスキャンダラスに暴き出したベストセラー「ハリウッド・バビロン」の著者として知られるケネス・アンガーが、神秘思想家アレイスター・クロウリーの宗教儀式に想を得て制作した作品。ある種の祭式のような映画で、その参加者は各々がお気に入りの神に扮して登場します。
 この集いには多くの著名人も参加していて、映画『ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女』の原作者でヘンリー・ミラーの愛人として有名なアナイス・ニンの姿も見ることができます。
 初出は1954年ですが、幾度にも渡る再編集を経ているので、いくつかのバージョンが存在します。

 この映画のインスピレーションの源泉となったアレイスター・クロウリーという人物は1875年のイギリスに生まれた詩人、神秘思想家、魔術師、自称予言士で、1947年に亡くなるまでに、派手な演出でマスコミに登場して論議を醸した他、神秘主義的傾向の強い多数の著作を残したことで知られています。ちなみに、有名なタロット・カードである「トート・タロット」の制作者でもあります。
 アンガーはそんなクロウリーの思想に傾倒し、『ローズマリーの赤ちゃん』に悪魔役で出演していたことでも知られる悪魔崇拝者アントン・スザンドル・ラヴェイが主催していたオカルト講座から発展した「マジック・サークル」においては中心的な役割を果たしたと言われています。
 そのサークルでは舞台劇のような演劇的儀式が行われていたそうで、この映画はその儀式の記録と捉えることもできます。“オール・サバト・イヴ”、つまりサバトの前夜祭の映画です。

 アンガー曰く「この映画は現実にもとづいていて、そこでは神や女神たちが相互に作用し合う。その核となるのはバッカスの神話であり、巫女により神が切り刻まれるところで儀式は終る」とのことですが、正直言って、見てみてもナニがナンダカさっぱり分かりません(^^;。訳の分からん扮装をした訳の分からん男女が訳の分からんことやってるだけで・・・。でも、不思議と印象に残る映画ではあるんですよね。
 これも『花火』と一緒で、中学生の時に上記したような予備知識も一切なしに見たのですが、結構楽しんじゃった記憶があります。私が見たのはBGMとしてヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」が付けられているバージョンだったので、民族色豊かでノリノリのヤナーチェクの音楽にノセられてしまったということもあるかと思いますが。
神様たちに混ざって
『カリガリ博士』の“眠り男チェザーレ”
と思わしき人物の姿も見られます(笑)。
なんだかカワイイ悪魔もいたりして

 訳が分からん、訳が分からんと連呼してしまいましたが、この映画の魅力は、明らかに、そうした訳の分からないところでもあるんですよね。全てが曖昧模糊としています。虚なのか実なのか。つまり、ゲストたちの仮装を仮装として捉え、あくまでも儀式として描いているのか、それとも完全にフィクション世界として位置付け、本当の神々の饗宴として描いているのか、漠としたままはっきりしません。いや、本質的には(映画の中の出来事は)全てが演劇なのであって、全てが虚構に過ぎないのですが、この映画の曖昧さ、得体の知れなさは、そうした現実感さえぐらつかせます。まるで神々、いや神とまでは言わないまでも、何某かの悪魔じみた存在を目撃してしまったかのような気にさせるのです。アンガーの映画が「魔術的」と評される理由はこの辺にあるのでしょうね。

 登場人物たちの姿が、神のように、悪魔のように見えると言いましたが、これは原始宗教の儀式のイメージとも重なります。仏教の護摩では僧侶が不動明王に成り代わって厄を祓おうとしますが、多くの原始宗教においても、儀式の中心にいる人間は、その身に神を宿すことで祭事を執り行おうとします。つまりこの映画は、映画に固有のマチエールを、そのまま儀式に利用しているのです。映画に出演する人間は、スクリーンの中では神にもなり得ます。この『快楽殿の創造』は、儀式の記録であると同時に、それ自体が儀式であるような映画なのです。

 もちろん、こんなのは茶番に過ぎません。私だって真に受けて霊感を受けたりはしてませんよ。しかし、この色彩、この音楽、そしてこの映像処理は、サイケデリック・ムービーとしては申し分ないものです。時代の空気を伝える映画としては貴重でしょう。
 ちなみに当時の先鋭的なミュージシャンたちにクロウリーを紹介したのもアンガーなんですよ。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーも傾倒し、アンガー監督の『我が悪魔の兄弟の呪文』に音楽を提供したりしてます。レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジに至っては、クロウリーの別荘、通称ボレスキン・ハウスを買い取ってしまうほどの入れ込みぶり。ビートルズのアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の表紙にもクロウリーは登場しています。
 アンガーの映画、中でもこの『快楽殿の創造』や『我が悪魔の兄弟の呪文』、『ルシファー・ライジング』といった神秘主義的傾向の強い作品は、映画マニアのみならず、ロック・ファンにとっても興味深い存在なのではないでしょうか。
月の女神に扮して踊るアナイス・ニン

 余談ですが、アンガーが参加していた「マジック・サークル」は、1966年のヴァルプルギスの夜のラヴェイの宣言を境に、「悪魔教会(The Church of Satan)」なる悪魔信仰教団へと変貌しました。そして教会のメンバーだったスーザン・アトキンスという女性は、その後、チャ−ルズ・マンソン率いるカルト集団「ファミリー」に加わって「シャロン・テート殺害事件」を引き起こすことになります。彼女は主要な実行犯でした。(*「シャロン・テート事件」については『マクベス』のレビューで少し触れています。)
 「マジック・サークル」時代にアンガーの弟子だったボビー・ボーソレイユという男も、「マンソン・ファミリー」に加わってゲイリー・ヒンマンというミュージシャンを殺害しており、この事件はシャロン・テート事件の引き金になったと言われています。
 クロウリーが唱えた神秘主義自体には悪魔崇拝的な傾向はなく、ラヴェイやアンガーが志向した悪魔信仰も暴力的な思想ではなかったとも言われていますが、結果としては陰惨な事件を引き起こすことになり、その悪影響は現在でも続いています。アンガーの映画が大っぴらに紹介され辛い背景には、こうした負のイメージが響いているのかも知れませんね。まさに“呪われた映画”。あくまでも虚構ですが、現実の世界の悪魔信仰の一端を伝えています。
映画の印象
/
降水確率40%
「全国的には雨模様となりますが、
一部地域では晴れ間も見られるでしょう。」
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 2005年12月現在、DVDは国内盤、海外盤共に発売されていません。私はバンダイビジュアルから1986年に発売された『マジック・ランタン・サイクル』という二本組のVHSで見ました。この『マジック・ランタン・サイクル』というのは、1947年から1980年に制作された作品の中からアンガー自身が選抜したプログラムで、この『快楽殿の創造』の他に、『花火』、『ラビッツ・ムーン』、『人造の水』、『プース・モーメント』、『スコーピオ・ライジング』、『K.K.K.』、『我が悪魔の兄弟の呪文』、『ルシファー・ライジング』の8本が含まれています。

 97年頃(?)にイメージフォーラムからもVHSが発売されました。こっちは四本に分けてあり、各4500円(税抜)。未確認ですが、『快楽殿の創造』の音楽がヤナーチェクではなく、E.L.O.になっているらしいです。(←情報お待ちしてます。)こちらのビデオの方も現在では廃盤となっていますが、お店によってはレンタルで置いてあるそうなので、興味のある人は是非探してみて下さい。

(2006/1/9)

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