花火
Fireworks 1947年 アメリカ
海外版ビデオ
スタッフ/キャスト
監督: ケネス・アンガー
編集: ケネス・アンガー
音楽: オットリーノ・レスピーギ(既成曲)
 
出演: ケネス・アンガー
ゴードン・グレイ
ビル・セルツァー






15分
レビュー
 アメリカを代表するアンダーグラウンド系映画作家にして、ハリウッドの内幕をスキャンダラスに暴き出したベストセラー「ハリウッド・バビロン」の著者として知られるケネス・アンガーの現存する最も初期の作品。これ以前に撮影されたフィルムはアンガー自身の手によって焼き捨てられており、実質的な処女作と考えて差し支えないです。

 アンガーが17歳の時、両親が家を空けた三日間に自宅で撮影されたというこの作品は、ゲイ映画の古典として知られています。水兵に恋焦がれる青年が、夜の街へ出掛けて筋骨隆々の水兵と出会うが、軽くあしらわれた挙句、血の気の多い水兵たちにリンチされるという、ジャン・ジュネ的とも言える世界が展開されます。
 ほとんど90年代近くになるまで、ハリウッドではホモセクシャルはタブー視されていたので、この様な映画は自主制作ベースでしかあり得ないものでした。60年代に入ると、アメリカでも独立系やアンダーグラウンド系映画が盛んになり、自由で過激な表現が氾濫するようになりますが、アンガーは40年代に、既にそれを実践していたのです。
 その先進性のため、この映画はまるで60年代に制作されたアングラ映画のように見えます。私も初見の時は、一切の予備知識がない状態で見たので、てっきり60年代辺りに制作された映画だと思ってしまいました。しかし、本作に時代を超越した魅力を付与しているのは、そうした主題の先進性以上に、その手法の先進性です。
 物語の整合性を無視したカット繋ぎ、イメージカットの大胆な挿入・・・。これはほとんどアバンギャルド映画です。アバンギャルド映画と言えば、20年代から30年代にかけて隆盛を極めたジャンルですが、この時代においては寧ろ斬新であり、60年代においては、限りなく時代に合致していたと言えます。

 こうしたアバンギャルド映画的風貌がどこから齎されたものなのかは明らかです。本作は、アバンギャルド映画の代表作である、ジャン・コクトーの『詩人の血』(1931年仏)の影響を強く受けているのです。
 その証拠はいくつも見つけられます。アンガー自身が演じる主人公の青年の部屋には、『詩人の血』を彷彿させる針金のオブジェが吊るされています。また、少々素っ頓狂な印象を与える音楽の使い方も、『詩人の血』を思わせます。
 もっと言えば、物語の骨子さえも、『詩人の血』の変奏なのです。夜の街へと続くドアは、詩人が夢の国へと旅立つために通り抜けた、あの鏡の役割を果たしています。青年が体験する暴力的な事件が夢の中の出来事であることは、映画の最後で明かされています。アンガー自身がこの映画について語った、「主人公は自分の夢に満足できず、光を求めて夜の世界へと出ていき、針の目に吸い込まれてしまう。夢のまた夢、彼はより空虚な気分でベッドに戻るのだ。」という言葉は、『詩人の血』の第一章のプロットを語っているかのようでさえあります。
 『詩人の血』は、コクトーの弁に従えば、フランスよりも寧ろアメリカで受け入れられて、ニューヨークの映画館では20年以上に渡るロングランを記録したと言いますから、アンガーはあの映画を十代の多感な時期に見ていたのでしょうね。

 本作は当のコクトーの目にも触れ、「魂の急所にすばやく触れる映画」と評されると共に、シュールレアリスムを受け継ぐ作品だと絶賛されました。まあ、この過剰とも言える賛辞の裏には、コクトーの個人的な嗜好が読み取れるような気もしますが、この映画が強い衝撃を湛えた映画であることは紛れもない事実です。
 肉体にそそがれるエロテックな視点、セックスと渾然一体になった暴力。これらは皆、40年代に制作された映画とは思えないほど生々しいです。しかし青年の胸元がビンの破片で切り裂かれると、その中からは、カチカチと脈打つ機械のメーターが姿を現すのです。
 この辺がシュールレアリスム的ですね。生々しいリアリティーの中に、唐突に幻想が滑り込みます。でも誤解しないで下さい。この映画は、頭の固い芸術志向の作品などではありません。そのイメージは俗悪です。とても幻想的なんて言えたシロモノではありません。粗野で野卑で直情的で、まさに十代の若者の溢れ出んばかりのリビドーそのもの。
 後年は、あくまでもアーティストとして主題に取り組んでアイロニカルなアプローチを旨とすることを語っていたアンガーですが、この時はまだまだ若かったんでしょうね。でも、この単純さ、この純粋さは、寧ろ映画の輝きを増しています。そう、まるで「花火」のように・・・
 音楽高鳴る中での花火の炸裂。性的エネルギーの放出を意味する花火が、水兵の股間で火花を散らします。

 粗雑だけど、一度見たら忘れられないような魅力を湛えた映画。映画史の桧舞台からは遠く追いやられていますが、20年代に全盛を極めたアバンギャルド映画と、60年代に花開いたアンダーグラウンド映画とを繋ぐミッシング・リンクとしても大いに興味深い一本です。
映画の印象
/
降水確率50%
「全国的には雨模様となりますが、
一部地域では晴れ間も見られるでしょう。」
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 2005年12月現在、DVDは国内盤、海外盤共に発売されていません。この『花火』はともかく、『スコーピオ・ライジング』のような人気作もあるのに、ケネス・アンガーの映画が一枚もDVD化されていないなんて意外ですね。出せば結構売れると思うんだけどなあ。どの映画も一切台詞がないので、海外盤でも全然問題ないのですが・・・

 私はバンダイビジュアルが1986年に発売した『マジック・ランタン・サイクル』という二本組のVHSで見ました。この『マジック・ランタン・サイクル』というのは、1947年から1980年に制作された作品の中からアンガー自身が選抜したプログラムで、『花火』の他に、『ラビッツ・ムーン』、『人造の水』、『プース・モーメント』、『スコーピオ・ライジング』、『K.K.K.』、『快楽殿の創造』、『我が悪魔の兄弟の呪文』、『ルシファー・ライジング』の8本が含まれています。
 とにかく変な映画をあさっていた中学生時代に、レンタルビデオ屋でその写真一つない真っ白なパッケージを見かけて、訳が分からなそうな映画だと思って借りてみたのですが、本当に訳が分からない代物だったので、正直困惑してしまいました(笑)。インターネットもない時代だったので全然情報がありませんでしたし・・・。でも、何か印象に残るものがあったので、ビデオ屋が中古を売り出した時に、ちゃっかり購入しておきました。後になって、「美術手帳」(美術出版社、1995年10月号)が特集を組んでいるのを見て、「いやあ、やっぱり結構な人物だったんだなあ」と、ビデオを確保しておいたことを喜べました(^^)。今ではもちろん廃盤です。

 そんなこんなの『マジック・ランタン・サイクル』ですが、97年頃(?)にイメージフォーラムからもVHSが発売されました。こっちは四本に分けてあって、各4500円(税抜)。まだまだ学生で財布事情も苦しかったので、「バンダイのビデオがあることだし」と思って購入しなかったのですが、実は、一部作品は別バージョンで収録されているらしいんですねー(←未確認)。今になってちょっと後悔しております。
 こちらのビデオの方も現在では廃盤となっていますが、お店によってはレンタルで置いてある所もあるそうなので、是非探してみて下さい。

(2005/12/28)

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