マスコット
Fetiche/Fetiche mascotte/The Mascot 1934年 フランス
スタッフ/キャスト
監督: Wladyslaw Starewicz
脚本: Wladyslaw Starewicz
撮影: Wladyslaw Starewicz

26分








レビュー
 ブサカワイイぬいぐるみのワンちゃんが奇想天外な冒険を繰り広げる短編人形アニメーション。短編だけど内容盛りだくさんのオモシロ過ぎる傑作です! それもそのはず、監督は人形アニメーション界の巨人、スタレーヴィチ!
 スタレー・・・・って誰?と言われそうですが、無理もない。日本ではほとんど紹介されていない人なんですよね。DVDの一枚も出ていない。どういういきさつか、NHKが海外のテレビ局と共同制作したドキュメンタリーが放送されたりもしましたが、アレを見てもスタレーヴィチの偉大さは到底伝わらない。クエイ兄弟へのインタビューとか、色々と興味深いところもあったけど、日本では見ることのできない作品の名前を列挙されてもピンと来ないし、つまらない物語仕立てにして変なCGキャラクターが案内する構成は、ほとんど冒涜的ですらあった。番組終了後に二本の短編が流されたけど、どうせなら一時間たっぷりスタレーヴィチの作品を流してほしかった。

 ラディスラウ・スタレーヴィチ(ウワディスラフ、ウラディスワフ・スタレーヴィチ、スタレーヴィッチなどとも表記)は、1882年ポーランドに生まれ、帝政下のロシアで映画制作に関わり始めた人物です。幼少期から虫が好きだったスタレーヴィチは、虫を主役にした映画を撮ろうと思い立ちますが、本物の虫は思い通りに動いてくれません。そこで考え出されたのが、針金と粘土で本物そっくりの虫を作って(*本物の虫に針金を通したとも伝えられる)、少しずつ手で動かしながら、1コマずつ撮影するというやり方。こうして生み出されたのが、『麗しのリュカニダ』、『カメラマンの復讐』などの作品群です。1912年に作られたこれらの作品は、「世界初の人形アニメーション」だと言われています。なんと、私たちが今日親しんでいる人形アニメーションの元祖は、このスタレーヴィチだったんですね!
 『カメラマンの復讐』は、人形アニメーションに興味がなくても、映画ファンなら一度は名前を耳にしているだろう歴史的な作品。虫を擬人化した物語、カブトムシとキリギリスが痴話喧嘩を繰り広げる様を見て、当時の人々は、スタレーヴィチが虫を調教しているのだと思ったとか。
 その後、ロシア革命のゴタゴタの中、スタレーヴィチはフランスへと逃れますが、創作の手を緩めることはなく、次々と作品を生み出していきます。この『マスコット(Fetiche)』は、そんな時期の一本。代名詞の「虫」こそ出てきませんが、技術面では飛躍的に向上した作品です。

 これは、私が初めて見たスタレーヴィチの映画です。その出会いは偶然で、アメリカのImage社が発売しているカール・ドライヤーの『吸血鬼』のDVDを購入したところ、本編の後にオマケとして入ってたんです。全然予備知識がなくて、ワケも分からず見始めたのですが、すぐに惹き込まれた!

 貧しい母子家庭、小さな女の子が寝つく頃、お母さんが内職でぬいぐるみを縫っている。彼女が思わず涙を漏らすと、その一粒がぬいぐるみの犬の上に落ちて、ハートの形になって、心臓のように鼓動し始める。彼は、優しい心を授かったみたい。「お母さん、わたしオレンジを食べたいの」、「オレンジはとても高いのよ。無理を言わないで・・・」、親子の会話を聞いて可哀相に思ったワンちゃんは、女の子のフトンに飛び込んで一緒に寝てあげる。
 次の朝、女の子が寝ている間に、お母さんは、ぬいぐるみを箱に詰めて送り出す。ピエロのぬいぐるみ、バレリーナのぬいぐるみ、チンピラ男のぬいぐるみ、サルのぬいぐるみ、ネコのぬいぐるみ・・・、そしてあのワンちゃんのぬいぐるみも一緒に。どうなっちゃうの? もう女の子とは会えなくなっちゃうの!?
 てんやわんやの末に、市場へと行き着いたワンちゃんは、そこでオレンジを見つけます。このオレンジをあの女の子に届けてあげたい! 果たしてワンちゃんは、女の子のお家までたどり着けるのでしょうか?

 もう、ワンちゃんがカワイ過ぎ! ちょっと見はブサイクなんだけど、表情が生き生きと動いて愛くるし過ぎる! ガラの悪いサルやズル賢いネコ、その他のキャラクターもいい味出してる。コマ撮りの精度も高くて、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』や『ウォレスとグルミット』なんかと比べても全然見劣りしない。実写の映像を背景にスクリーン投影するという、当時としては先進的な特撮も活用。同時期に『キング・コング』が作られてるわけだし、技術それ自体では驚くに値しないかも知れないけど、スピード感を強調した映像はスリリングで、ずっと現代的です。こんな昔にこんな凄い人形アニメーションが作られていたなんて!

 これだけでも充分凄いんだけど、天才スタレーヴィチの想像力は、もっとずっと予想のできないところにまで飛躍していくんです! ぬいぐるみたちが街へ飛び出していくので、「あーこれから『トイ・ストーリー』みたいな冒険が始まるんだな」と思っていたら、いきなり悪魔が登場! 異形の怪物たちが集まって、悪魔のサバトへと突入していくのです!
 ・・・・・もう、口を開けてポカーン。この展開を予想した人がどれだけいたことか。別の映画が始まったみたいにトーンが一変! オドロオドロしくて奇々怪々。どうしてこうなっちゃったんだろう?? まあ冷静に考えると、ぬいぐるみが動き出すなんてことは十分怪奇的な出来事だから、悪魔やら異形の怪物やらが出てきてもなんら不思議はないのですが、普通だったら、このアイディアとこのアイディアは一緒にしないでしょう。ケナしてるわけじゃないですよ。大胆不敵でオモシロ過ぎます! そんでもって相変わらずコマ撮りのレベルは高いし、イマジネーションは奔放! 有無を言わせぬ吸引力で観客を魅了します。

 風に乗って舞って来た紙切れや地面に落ちていた棒切れが人の形になって歩き出す。鳥の骨や魚の骨がゴミ箱から飛び出して空を飛ぶ。片っぽだけ捨てられていた靴が起き上がってアコーディオンを弾き出す。次々と飛来する怪物やらゴミやら・・・。その内、あのバレリーナやチンピラ男、サルやネコのぬいぐるみも現れて、悪魔の宴に加わって行きます。そしてあのワンちゃんも・・・。「悪魔さん、この哀れな小犬をお見逃し下さい」みたいなことを身振り手振りで訴えるんだけど、宴の中に放り込まれちゃう! ああ、ワンちゃんの運命やいかに!?
 背徳の限りを尽くした大乱交・・・とか言いたいところですが、宴の様子は結構のどか。みんなで酔っ払ったり踊ったり、場末のバー程度の退廃です。地獄の鬼みたいな化け物も、別に悪いことをするでもなく、バーテンに徹してます。ワンちゃんも懐かしいネコちゃんとの再会を喜んだりして。でも気を付けて! このネコちゃんは、キミの持ってるオレンジを狙っているよ!

 最後は賑やかにドタバタで締められるのですが、その傍らでは脇役たちが哀愁漂う恋歌を奏でています。主役だけでなく脇役にも、等しくそそがれる優しい眼差し。それは、底の抜けた靴だとか破れたボールとかに対しても同様です。ひび割れたグラスたちのダンスは、ユーモラスだけれど物悲しい。少しずつ砕けて、最後にはみんなカケラになってしまう・・・。事物の内に宿る精神性、アニメーションの根底にあるアニミズムが表出します。映画という魔術を用いて、スタレーヴィチは、捨てられたモノたち、顧みられなくなったモノたちのためにサバトを開いているのです。さあ、私たちもこの宴に参加しましょう! 楽しく笑って、ちょっとしんみり・・・

 『マスコット(Fetiche)』は、子供向けの娯楽映画です。カワイイものにキモチワルイもの・・・、子供の喜びそうなモノがいっぱい! だけど、決して子供騙しじゃない。高い技術と豊かな詩情、優れた芸術家の一級の職人技が発揮された、まさに珠玉と言うべき作品です。
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 2009年10月現在、日本ではDVDなどのソフトは発売されていません。上記した通り、米盤『吸血鬼』にオマケとして収録されているのですが、『吸血鬼』のクオリティーが特に高いわけでもないので、購入するなら同じImage社が発売しているスタレーヴィチの作品集「The Cameraman's Revenge And Other Fantastic Tales」がオススメです。収録されているのは以下の6本。
・『The Cameraman's Revenge(カメラマンの復讐)』(1912年)
・『The Insects' Christmas(虫のクリスマス)』(1913年)
・『Frogland』(1922年)
・『Voice of the Nightingale(ナイチンゲールの歌)』(1923年)
・『The Mascot(マスコット)』(1933年)
・『Winter Carousel』(1958年)
 原版がアメリカ公開版なので、中間字幕が英語だったり、『マスコット』の最初に入る親子の台詞が英語に吹き替えられたりしてますが(←子供の声が全然子供っぽくない!)、画質は水準に達しているので、作品の魅力は十分堪能できると思います。ただ、『カメラマンの復讐』と『ナイチンゲールの歌』こそ収録されているものの、代表作を網羅というわけにはいっていないのが寂しいところ。全集クラスのコレクターズ・エディションとか出してほしいなあ。最高傑作との呼び声も高い長編『Le roman de Renard(狐のルナールの物語)』などは是非見たい! 日本のビデオメーカーさん、御願いします!!
 フランスでは、その「Le roman de Renard」を始めとして3枚のDVD(*PAL方式)が発売されています。国内盤が望み薄なようだったら、いずれ購入してみたいなあ。

*補足情報
 米Image社のDVDに収録されている本作『The Mascot』ですが、ちょっと気になる点があります。終盤、悪魔がナイフで刺されてヘロヘロになるところで、なぜか服までビリビリに破れているのですが、その後になって、悪魔がネコにのしかかられてひっかかれるシーンが出てくるのです。あれ? 映像が前後してない? 古い映画だからフィルムがごっちゃになっちゃった? それとも最初からこうだったの? 謎ですね。フランス盤を購入すれば確認できるのですが・・・

(2009/10/5)

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