スペル
Drag Me to Hell 2009年 アメリカ
スタッフ/キャスト
製作: ロブ・タパート
グラント・カーティス
製作総指揮: ジョー・ドレイク
ネイサン・カヘイン
監督: サム・ライミ
脚本: サム・ライミ
アイヴァン・ライミ
撮影: ピーター・デミング
音楽: クリストファー・ヤング
 
出演: アリソン・ローマン
ジャスティン・ロング
ローナ・レイヴァー
ディリープ・ラオ
デヴィッド・ペイマー
アドリアナ・バラーザ
99分

レビュー
 銀行で働く女性が、住宅ローンの返済期限の延長を断ったばっかりに、魔術師の老婆から恐ろしい呪いをかけられてしまうというお話。センスのない邦題を付けられてしまったけど、本国アメリカではスマッシュヒットを飛ばした、サム・ライミ監督久々のホラー映画です。ホント、売る気あるのか?って感じのタイトルですよね。『Drag Me to Hell』っていうカッコいい原題の面影もない。

 さてさて、私もファンの一人として、ライミのホラー映画復帰を喜んでいたわけなんですが、これは別に彼の「恐怖演出」を評価していたからではないんですよ。彼の映画を「怖い」って思う人は、たぶん多くないはず。ライミの目的は、とにかく観客を楽しませること。「怖い」かどうかは二の次で、「面白い」と思うアイディアをナンでもカンでも詰め込んじゃうんです。ホラー映画の金字塔の一つと言われる『死霊のはらわた』シリーズだって、「怖い」というのとは、だいぶ違ってた。やり過ぎの演出とくだらないギャグのオンパレード。すこぶる楽しいけど、怖くはない。ライミは膨大な蔵書をかかえているコミック・コクレターとしても知られていますが、まさに彼の映画は、映画による「コミック」なんですね。
 そんなライミのスタイルは、もちろんどんなジャンルの映画にも適用できるのですが、その個性が遺憾なく発揮されるのは、やっぱりホラー映画なんじゃないかって思います。だって、ホラー映画っていうのは、ある意味、「ファンタジー」であり、“ナンでもアリ”の世界じゃないですか。思いつくまま、やりたい放題やっても、全部許容してくれるんですね。
 同じことはライミの大好きな「コミック・ヒーローもの」にも言えるのですが、『スパイダーマン』のような大作ともなると、外野がなんやかんやとウルサくなるから、それはそれで難しくなっちゃうし。現に『スパイダーマン3』は、ライミの主張が反映されてない残念な出来になってた。ライミがシリーズ続投のオファーを蹴ってまで低予算のホラー映画畑に戻って来た背景には、「自由に映画を撮りたい!」という切なる思いがあったのでは?

 さてさて、そろそろ本題の映画の感想ですが・・・。この映画は、ライミ節が炸裂した痛快な娯楽作です。相変わらず「怖い」かどうかは問題ではない。老婆がパワフルに暴れるシーンなんて、ほとんどギャグ。まぶたに留まっていたホッチキスの針が、驚いて目を見開いた瞬間に飛んでいくスローモーションなんて、観客を怖がらせようという意図からは完全に外れてるでしょ。だけど、そういうクダラナイところが一番面白い。「ああ、久々にやりたい放題のサム・ライミだ!」って感激しちゃいましたね。・・・だけど、だんだんと雲行がおかしくなっていく・・・
 主人公の口にハエが入り込むのを見せられたら、「後でウジ虫を大量に吐き出すんだろうな」って思うじゃないですか。それが実際には、ケーキを食べてる時にそのハエが口から飛び出して、周囲のヒンシュクを買うだけ・・・(血をビューって吐くシーンもあったけど)。なんだ、このショボさは? 観客の期待を「いい意味で裏切る」ならいいけど、期待値を下回っちゃダメでしょ。なんだか後半に向かうにつれてテンションがどんどん落ちてくる。それでも「ラストには一発カマしてくれるのだろう」と期待しながら見ていたのに、そのラストがまたショボい。だって、これってプロローグで描かれていたことの繰り返しじゃない。冒頭のシーンに回帰していく円環構造にして、きれいにまとめようとしているのは分かるんだけど、新鮮な驚きがないのは困る。同じことを繰り返すにしても、せめて10倍派手にしてくれなきゃ! これがホントにサム・ライミ?
 たぶん、「相変わらずのサム・ライミ」って言われるのを避けたかったんでしょうね。いつものように“勢いまかせ”で見せ切るのではなく、「気の利いたオチ」、「気の利いた映画」というのを作ろうとした。だけど、慣れないことはやるもんじゃない。伏線の張り方が稚拙なので、伏線を張った瞬間にオチが見えちゃう。オチが分かってても楽しめる映画もあるけど、この映画の場合、オチが分かっちゃうとラスト20分のサスペンスがほとんど機能しなくなるんだもんなー。脚本は、ライミとライミの兄が共同で書いてるんだけど、腕のいい脚本家に助けてもらうべきだったと思う。

 う〜む、色んな意味でガッカリさせられてしまった。『死霊のはらわたV』のオチ(ディレクターズ・カット版の方)がつまらなくても、『スパイダーマン3』が残念な出来でも、「予算が無かったんだろう」とか「外野がウルサくて自由に撮れなかったんだろう」とか、色々と理由をつけては好意的に受け止めてきてたんだけど、ヒットメーカーとしての地位を確立して、ある程度自由に映画を撮れるようになったライミが、自分の映画会社で自発的に制作した映画が、この程度の出来に終わるなんて・・・
 脚本の問題だけじゃないですよ。「まだこれはクライマックスじゃない。きっとこれから本当のクライマックスが!」って思ってるから我慢して見てたけど、演出もビシッと決まらずに終始スベってた。ファンサービスのつもりか、『死霊のはらわた』シリーズをパロディーしたシーンが出てくるんだけど、オリジナルとは比べものにならないほどテンションが低くて、まるでライミじゃない人がライミの映画をパロディーしてるみたいに見えてしまった(『スパイダーマン3』の時にも同じことを感じたなあ)。
 誤解しないでもらいたいのですが、別にこの映画、救いがないほどつまらないというわけじゃないんですよ。むしろ、どっちかって言うと、面白い部類に入ると思う(脚本は並以下だけど・・・)。レンタル店でなんの気なしに借りたとしたら、ちょっと得した気分になるかも知れない。私の期待が大き過ぎたのかも? 昔からライミは娯楽映画の“これから”を担ってくれる人だと思っていたんだけど、いつの間にか、もう過去の人になっていたのかも知れない。そんなこと考えたくはないんだけど・・・
ソフト
 ブルーレイとDVDが2010年4月23日に発売されました。劇場公開版に加え、ディレクターズカット版も収録していますが、劇場公開版の方がタイトにまとまってていいかも。

(2010/7/14)

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