チョコレート・ファイター
Chocolate 2008年 タイ
スタッフ/キャスト
製作: プラッチャヤー・ピンゲーオ
監督: プラッチャヤー・ピンゲーオ
脚本: Napalee
Chukiat Sakveerakul
撮影: デーチャー・スリマントラ
アクション監修: パンナー・リットグライ

出演: ジージャー・ヤーニン
アマラー・シリポン
阿部寛
タポン・ポップワンディー
ポンパット・ワチラバンジョン
92分

レビュー
 本国タイで記録的な大ヒットを飛ばし、世界各国(主にアジア諸国)で一大センセーションを巻き起こしたアクション映画。監督とアクション監修は、『マッハ!』、『トム・ヤム・クン!』コンビのプラッチャヤー・ピンゲーオとパンナー・リットグライということで、アクションが凄いのは当たり前。どうしてそんなに話題になったかと言うと、主人公がゴツイ男ではなく、カワイイ女の子だったから。早くも「次世代のアクション女優ナンバーワン」との呼び声の高い、ジージャー・ヤーニンのデビュー作です!

 ストーリーはこんな感じ・・・
 海外進出のためタイに派遣されていた日本のヤクザの組員マサシは、タイのマフィアのボスの情婦ジンと許されぬ恋に落ちる。ボスに浮気を知られたジンは、マサシの身を案じて彼を日本へ帰したが、その時、彼女は既にマサシの子を身ごもっていた・・・
 裏家業から身を引き、新しい人生を歩み始めたジンは、女の子を出産して「ゼン」と名付けた。しかし、ゼンは普通の子ではなかった! 脳に障害を抱えていて、自分の世界に閉じこもってしまっていたのだ! そんなゼンを、惜しみない愛情を注いで育てるジン。
 十数年後、途中から街でイジメられていた孤児の男の子モンも加わって、貧しいながらも楽しい生活を送っていたゼンたちだったが、突然、家族を悲劇が襲う! ジンが重い病に倒れてしまったのだ! 薬を買うにはたくさんのお金が必要だ! ジンがマフィアにいた時にお金を貸していた人間のリストを見付けたモンは、ゼンを連れて借金の取り立てに行くが、チンピラまがいの連中が大人しくお金を返してくれるわけもなく、手荒に追い出されてしまう・・・

 障害を持った子供に、病気の母親・・・、陳腐な設定連発のお涙頂戴の展開に辟易してしまいそうなところですが、みなさんご安心を。これは、あくまでもアクション映画ですから(笑)。

 実はゼンは、テレビでカンフー映画を見ただけでその技をマスターすることができる、天才的な格闘能力の持ち主だったのだ! 『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じていた「サヴァン症候群」の人が、障害がある代わりに天才的な数学能力の持ち主という設定でしたが、これはその格闘版です。
 力づくで追い出そうとするチンピラたちを、ゼンは逆にボコボコにする! こんな調子で次々と借金を取り立ていくゼンとモン。薬のおかげでジンの具合もだんだんと良くなり、家族は、少しずつ幸せな時間を取り戻し始めたが、ゼンの活躍がマフィアのボスの知るところとなり、家族にマフィアの魔の手が伸びる! 愛する家族を守るため、ゼンの鉄拳・・・もとい、鉄肘、鉄膝、鉄足が火を噴く!!

 この映画の見所は、ナンと言っても、天才格闘少女ゼンを演じるジージャー・ヤーニンの魅力に尽きます。「Jeeja Yanin」でググってみれば分かるけど、ワリとカワイイのだ。そりゃあ顔だけを売りにしたアイドルなんかと比べたら落ちるかも知れないけど、これで凄いアクションをこなすとなれば、男の子は夢中になってしまうはずです。スポーツ万能の女の子ってカッコイイよね!
 ジージャーは、11歳からテコンドーを始め、高校時代にはバンコク・ユース・テコンドー大会で優勝、国が育成する強化選手にも選ばれていたという実力の持ち主。本作のアクション監修を務めているパンナー・リットグライの監督の『七人のマッハ!』のオーディションを受けにきていたジージャーを見初めたプラッチャヤー・ピンゲーオ監督が、「彼女は『七人』の1人ではもったいない! 1人で堂々主役を張れる逸材だ!」とスカウトし、さらに4年に渡ってムエタイやカンフーやスタントを特訓した上でデビューさせた、筋金入りのアクション女優なのです。
 ただ単に格闘技の得意な女の子を出演させたんじゃなくて、みっちりと訓練した上でデビューさせたのが生きてますね。身のこなしが華麗で、見映えがイイ! 本物の格闘技と、映画で映えるアクションというのは違いますから。基礎がテコンドーだったのも良かったかも? テコンドーには、回転系の技や跳び蹴りなど、アクロバチックな技が多いので、映画のアクションに応用が利いたと思います。ちなみに、ブルース・リーやジャッキー・チェンもテコンドー経験者。
 国技なのでこれは外せないというムエタイの技も披露しますが、これがまたキマってる。『マッハ!』のトニー・チャーよろしく、敵を攻撃しながら跳躍し、次の敵の脳天にヒジ落としを見舞うジージャー! へばっている敵にヒザ蹴りで止めを刺すジージャー! へばっている敵にヒジ打ちで止めを刺すジージャー!(←へばっている敵にも容赦しないぞ!) 技が炸裂する瞬間はもちろんだけど、技を放つ前や放った後の「構え」がまたカッコイイのだ。ムエタイ独特の手をクルクルっと回す仕草にシビレル! ヒジ落としのフェイントでガードを外しておいてからの前蹴り→ヒジ打ちの連係とか、芸が細かいところもマル。こういうのって、他の映画ではあまり見ませんよね。
 当然、テコンドー仕込みの蹴り技は、全般的にレベルが高いです。打点の高いキックをこれでもかと披露! 自分の頭より高いところにある敵の顔面をジャンプして蹴ったり、跳躍から綺麗なカカト落としを決めたり・・・。エンディングに収録されているNG集には、得意の回し蹴りでスタントマンを本当にノックダウンしてしまうシーンも・・・(^^;
 『マッハ!』が公開された後、世界中から「トニー・チャーと戦いたい!」という猛者たちがピンゲーオ監督のもとに押し寄せて、その内の何人かが『トム・ヤム・クン!』への出演を認められたとのことですが、こりゃあ今回も、ジージャーに蹴られたい!・・・もとい、戦いたい!っていう人たちが大勢押し寄せることでしょうね。
 ジージャーの凄いところと言うより、タイ映画の凄い(酷い?)ところと言うべきだけど、過酷なアクションもスタントマンに頼らず、本人にやらせてるの。だからジージャーの体もスリ傷や打ち身だらけ。接ぎ木やテーピングで足首を固めて撮影に臨んでいる様は痛々しかったです。ネットで公開されてるリハーサル風景を見たら、本編よりももっと動けてるように見えたので、怪我の影響もあったのかも知れません。NG集には顔面を蹴られて目に怪我するシーンも・・・。負けるなジージャー! 頑張れジージャー!・・・って、ついつい応援したくなっちゃいます。撮影終了後に撮影されたピンナップを見ると、顔にマジで傷があるの。顔に傷が似合う女優なんて、そうはいませんぜ(^^;

 そんなわけで、『チョコレート・ファイター』は、アクション女優ジージャーの魅力にノックアウトされること確実な痛快作なのですが、アクション以外の部分はどうかと言うと・・・
 ストーリー自体が致命的に悪いとは思わないけど、オープニングとエンディングが、阿部寛演じるヤクザのマサシのエピソードになっているのがワケ分からん! コイツ、そんなに物語の中で重要な役割果たしてないじゃん。特に、「愛」がどうのとか言ってまとめる、強引なラストにはシラケた。あれだけ頑張って戦ったんだから、ラストぐらいゼンを中心に据えろよ。タイの映画なのにナレーションが日本語なところもちょっと・・・。タイの人には、日本語がカッコよく聴こえるのかも知れないけど・・・

 そもそも主人公が「サヴァン症候群」である必要性が薄いですよね。格闘技の才能に恵まれた普通の少女という設定でも別にイイじゃない。『レインマン』でも、主人公はダスティン・ホフマンの弟役のトム・クルーズだったでしょ。サヴァン症候群の人を主人公にしてドラマを作るのは難しいって。どうしても、その家族の方が中心になっちゃいます。この映画でも、ゼンの代わりに話を進めるモンというキャラクターを用意しているわけだけど、これじゃあ主人公自体には感情移入しにくいです。アクション場面だけじゃなく、ドラマ面でも、主人公がもっと動的に活躍してくれないと! 感情移入して見ることで、戦いの場面が、もっとずっと盛り上がるのに!(最後の方は、愛する家族のピンチで気合入るので、それなりに盛り上がるけど・・・) 
 主人公が「恐れ」という感情を示さないのも問題です。大勢の敵や、自分より強いような敵を前にした時、「一体どうする!? どうやって勝つ!?」って怯みながらも、死地に活路を見出す覚悟で立ち向かう姿に、観客は感銘を受けるものじゃないですか。それがヒーローの資質。でも、ゼンは、敵が少人数だろうが大人勢だろうが、弱かろうが強かろうが、そんなことは全然気にしないのです。これじゃあ、まるでスティーブン・セガールです!
 単に、格闘技の達人に見込まれて訓練を受けた子供が病気の親のために頑張るという話で良かったのでは? カンフー映画によくある使い古されたネタだけど、それをカワイイ女の子がやることで、充分新鮮な印象の映画にすることができたはずです。「アクションだけじゃなくドラマも!」と欲張った結果、ドラマだけでなく肝心のアクションさえ、煮え切らないものにしてしまった感があります。
 まあ、「映画を見るだけで強くなっちゃう!」っていうのは、映画マニアの喜びそうな話ですし、サヴァン症候群という設定も、ある意味、面白いかなーとは思うけど、それなら、もっとコミカルで明るい話にすれば良かったんだと思う。ブルース・リーの『ドラゴン危機一発』を意識した製氷工場での戦いとか、『サンダーアーム』のジャッキー・チェンみたいなチョコの食べ方とか、『サイクロンZ』のユン・ピョウみたいな開脚ジャンプとか、ベニー・ユキーデみたいなローリングソバットとか、色々とパロディー的なシーンがあるんだけど、これをもっと徹底して、ジージャーが名作カンフー映画の名場面を再現しまくる映画にしたら、カンフー映画ファンにアピールするオイシイ映画になったんじゃないかな? 普通なら「パクリばかりだ」と批判されるところだけど、この映画の場合、「主人公が映画で見たことを再現している」という設定のおかげで許されますし(笑)

 とまあ、色々と苦言を呈してしまいましたが、それもこれもジージャーが魅力的であるが故。「彼女の魅力をもっと引き出すことができたのでは?」と、ついつい思ってしまうからなのです。映画の中ではちょっとしか見せないけど、彼女は笑顔も素敵なの。もっと笑っている姿も見たかった!
 これ一作で、タイではすっかりアイドルになって、テレビや雑誌に引っ張りダコみたいだけど、普通のアイドル女優になんかならないで、ずっとアクション映画に出続けてほしいですね。アクション映画のオーディションを受けに行くぐらいの人だから、たぶん大丈夫だと思いますが・・・。次回作での勇姿を楽しみにしてます!

 最後はオマケ。YouTubeに投稿されているジージャーの動画をいくつかご紹介。
@http://www.youtube.com/watch?v=OGjUyu9c8Ng&feature=related
 映画『チョコレート・ファイター』のオリジナル予告編。前髪を垂らして若作りのジージャー(23歳なのに)。
Ahttp://www.youtube.com/watch?v=HGcXMWIVnfo&feature=related
 台湾でのプロモーションの時の映像。人気タレントの写真を並べて「好みはどれ?」みたいに聞く、ありがちなクダラナイお遊びに付き合わされるジージャー。笑顔がカワイイ。口つきがマンガみたいなんだよね。6分23秒辺りから格闘の実演あり。
Bhttp://www.youtube.com/watch?v=bPhaQRUIiqM&feature=related
 香港でのプロモーションの時の映像。こちらは格闘の実演のみ。画質は良くないけど、ジージャーの動きの良さがよく分かる。ワイヤーや早回しの助けを借りなくてもこの動き!
Chttp://www.youtube.com/watch?v=vwxiMBMmBOM
Dhttp://www.youtube.com/watch?v=meYRamNHVXA&feature=related
 この2本は続きものです。タイのテレビに出演した時の映像。
 前半はアクションシーンのリハーサルの映像。本編にはなかったアクションも見られるので貴重。NGシーンもあり。
 後半はスタジオでの実技の披露。派手な動きがないだけに、ジージャーの実力がよく分かる。普通の回し蹴りも綺麗だけど、顔がくっ付きそうなくらいの近い距離からの上段回し蹴りはさすが!(映画にも入れれば良かったのに・・・) ブルース・リーばりの連続回し蹴りも凄いぞ!

 余談ですが、この映画、日本版予告編では、「ノーワイヤー! ノーCG! ノースタント!」って宣伝されてますが、ありゃウソです(アメリカでもこんな宣伝されてますが・・・)。ワイヤーもCGも使ってます。そりゃあそうでしょう。ワイヤーなしでビルの4階の壁面で立ち回りをするなんて危険過ぎます! 私だってジージャーに死んでほしくないです! CGは、主にワイヤーを消すために使用。跳べない俳優を跳ばすためにワイヤーを使ったり、俳優の動きが悪いのを誤魔化すためにCGを使っているわけではないのです。そもそも、タイ版の予告編では、「ノーワイヤー!」とか「ノーCG!」なんて謳ってませんよ。「ノースタント!」って言ってるだけ。エンディングに収録されているNG集でも、ワイヤーはバッチリ映ってます。仮にワイヤーを使っているにしたって充分凄いことをやってるんだから、素直に評価できるのに、配給会社のウソのせいで、映画の方までウソつき呼ばわりされてしまいそう。ジージャーはウソつきじゃないぞ! そもそも、どうしてそんなに「ワイヤー」を目の仇にするのかワケ分からん。映画なんてどうせ作りモノなんだから、ワイヤーを使うことで見映えが良くなるなら、それはそれでいいじゃないの。全盛期のジャッキーだって、ワイヤーを使っていたんだし。まあ、使い過ぎてナンでもアリにしてしまうのは、それはそれでツマンナイですけどね。ご利用は計画的に、です。
勝手に総評
1 5 10
私が愛している度
私が評価している度
一般人気度
マニア人気度
オススメ度
ソフト
 DVDはまだ発売されていません(2009年4月現在)。そりゃあそうです。なにせ日本公開が2009年の5月23日以降ですから。公開までにちょっと時間がかかり過ぎですよね。他の国ではとっくに公開されてDVD化もされているというのに・・・
 どうしてもすぐ見たいという人は、海外盤の購入を検討してみてもいいかも? 字幕なしでも大体分かるような程度のお話ですし。
 ブルーレイの再生環境がある人には、アメリカで出てるブルーレイ盤がオススメ。収録内容はDVDと同じですが、画質が綺麗なのに越したことはないですよね。英語字幕も表示可。特典としてメイキングを収録。メイキングの終わりの方に、オリジナル予告編も収録されてます。

(2009/4/9)

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