| ストーリー |
ハリネズミくんは、今日も木苺の砂糖漬けを入れた小袋を片手に、友だちのコグマくんのところへ出掛けていきます。ハリネズミくんは、コグマくんと一緒に木苺を食べながら、空の星を数えるのが何よりも楽しみなんだ。怖いフクロウさんが後から付いて来て、脅かしたりもするけれど、ハリネズミくんの頭の中は小熊くんの事でいっぱいなの。トコトコとマイペースに、茂みの中へと分け入っていきます・・・
ハリネズミくんが茂みを抜けた先で目にしたのは、霧の中に佇む白馬さんでした。
「白馬さんは霧の中で溺れてしまわないのかな?」
不思議に思ったハリネズミくんは、丘を下って、生まれて初めて、霧の中へと踏み入っていくのでした・・・
霧の中は本当に不思議なんだよ。葉っぱが落ちてきたり、カタツムリさんがゆっくり歩いていったり、コウモリさんがビュンビュン飛んできたり・・・、いつも見てるものが、みんな初めてみたいに見えるんだ!
大きな木があってびっくり! 真ん中に穴が空いていて、中に入れるんだよ。木の中で「ヤッホー」って言ったら、「ヤッホー」ってコダマが返ってきたんだ。
あれ!? そう言えば、木苺の入った袋はどこに行っちゃったんだろう!?
ハリネズミくんは一生懸命に袋を探しますが、だんだんと霧が濃くなってきて、辺りはすっかり暗くなってしまいます。頼りになるのはホタルさんの明かりだけ・・・、でも、そのホタルさんも、どこかに飛んでいってしまったの・・・
迷子になってしまったハリネズミくんは、目に映るもの全てが怖い! カタツムリさんもコウモリさんも、霧の中に見える不思議な影が、みんな怖くてたまらない!!
必死に走ったハリネズミくんはスッテンコロリン! 顔を上げたら、目の前には大きな口を開けた犬がいて、もう怖くて目をつぶっちゃう!
でもね、このワンちゃんはとても親切でね、ハリネズミくんのところに木苺の入った小袋を持ってきてくれたの。ニオイで分かったんだね。ハリネズミくん、良かったね♪
でも、これで一安心って思ったら、ハリネズミくん、慌てて走ったものだから、川の中に落っこちちゃった! ゆくっりゆっくり流されて行ったんだけど、毛皮がすっかり濡れちゃって、そろそろ沈んじゃいそう!
でも、親切なナマズさんが泳いできて、ハリネズミくんを助けてくれたの。ナマズさんの背中に乗って、スゴい速さで川をさかのぼったんだよ!
やっとの思いで小熊くんのところへ辿り着いたハリネズミくん。コグマくんはとても心配してたよ。コグマくんと一緒にいるのはやっぱり楽しいなあ。
でもね、ハリネズミくんは、あの白馬さんの事がどうしても忘れられないんだ・・・
 |
| レビュー |
「アニメーションの神様」とも称されるロシアの切り絵アニメーション作家、ユーリ・ノルシュテインの代表作。一匹のハリネズミが霧の晩に繰り広げる小さな小さな大冒険!
内外の著名人、及び業界関係者の投票による、「日本と世界のアニメーションベスト150」のベスト・ワンにも選出された、紛れも無い傑作アニメーションです。
<神は細部に宿る そして神は宇宙を創造された>
信じられないほど濃密な10分間! まさしくこれは「体験」です。映画を見ている観客たちも、ハリネズミくん同様に、10分の間、霧の中に引き込まれてしまうのです。
「切り絵アニメーション」と聞くと、何んだかセル・アニメよりも表現の上で制約のあるものを想像してしまうと思いますが、ノルシュテインのアニメーションに関しては、全くそんな事はありません。いや、寧ろ、「切り絵」が持つ独特の質感が、セル・アニメにはあり得ない「実在感」を作り出して、画面に不思議なリアリティーを付与しています。人形アニメーションのようにリアルで、絵本のように優しい映像と言ったところでしょうか。
キャラクター造形も秀逸です。ノルシュテインの公私にわたるパートナーであるフランチェスカ・ヤルブソバの手になるキャラクターたちは、どこか垢抜けなくて、野暮ったいのですが、それが寧ろ、素朴で親しみ易い魅力となっています。
つぶらな瞳が可愛い「ハリネズミくん」はもちろんの事、過剰なほどに表情が豊かで、田舎っ臭い風貌の「コグマくん」も最高です。彼が登場した瞬間、画面がほわわ〜んと和みます。中盤以降、映像と物語のテンションが高まり続けるので、このコグマくんの存在が、一服の清涼剤的な役目を果たしています。
<体験する映画>
セルゲイ・エイゼンシュテインを師と仰ぐノルシュテインは、アングルと編集にも並々ならぬコダワリを見せています。全体に洗練された映画的な演出が施されているのですが、特にアニメーションらしからぬ、その斬新なカメラワークには驚かされます。
冒頭は真横からの「引き」のショトで、三人称のカメラによる「絵本的」な映像で幕を開けるのですが、ハリネズミくんが茂みの中に分け入っていくと、カメラもその後ろから、ズンズンと付いていってしまうのです。
まるで、私たち自身が茂みの中に分け入って、ハリネズミくんの背中に追いすがろうとしているかのような感覚です。このワン・ショットの牽引力によって、観客たちは瞬時に映画の中へと引き込まれてしまいます。そして、すかさず挿入されるハリネズミくんの主観映像を通して、「霧の中に佇む白馬」の姿を目撃した観客たちは、ハリネズミくんと一緒に、霧の中へと踏み込んでいく事になるのです。
私たちの眼前に降りかかってくる枯れ葉、私たちが見上げた木の、なんと大きい事! 深い深い霧の中で、私たちは夢ともうつつともつかないイメージの奔流に心を囚われます。ここには一つの宇宙が広がっているのです。
深まりゆく闇の中で、一匹のホタルの光が与えてくれる安心感。そして、それが去ってしまった時のえも言われぬ孤独感・・・。全ての音が、全ての影が、恐怖の対象へと変貌して襲いかかってきます。
必死になって逃げるハリネズミくん。でも、この巨大な闇・・・、広大な宇宙は、実はちょっとした「淀み」に過ぎないのかも?
親切なワンちゃんが登場した時、彼を呼ぶ口笛が聞こえたでしょ。姿は見えないけど、この映画には人間も登場してるんです。この人間の存在が、ハリネズミくんの生きる世界の「小ささ」の事を意識させます。たぶん、この深い深い霧も、人間のような“大きな”生き物にとっては、膝もとを曇らす程度の“白モヤ”に過ぎないのでしょう。
でも、この「小ささ」というのは、逆説的に、大きな神秘性を内包しています。
<霧=非日常の世界>
「犬の散歩」というのは日常性の記号です。この「宇宙」は、私たちが普段、気にも留めないような路傍の空気の淀みの中に広がっているのです。これは、ハリネズミくん自身にとっても、昨日までは想像もできなかった世界です。
昨日までのハリネズミくんにとって、「世界」とは、コグマくんの家との往来の中にだけ存在しているものでした。それが、ホンのちょっと、いつもの道を逸れたばっかりに、超常的な世界に迷い込んでしまったのです。
これは、ハリネズミくん自身が、無意識の内に望んでいたものなのかも知れません。ハリネズミくんは、度々「コダマ」を求めています。古井戸や木のウロを覗き込み、闇に向かって呼びかけるハリネズミくんは、自らの内なる声の返答を求めていたのではないでしょうか?
霧の中に佇む白馬は神秘性の象徴に他なりません。白馬に導かれて、ハリネズミくんは未知の世界へと踏み込んでいきます。
そびえ立つ巨木は、「流れ」の中で静止しているかのよう・・・。ハリネズミくんは、自分とは違う「時間の流れ」の中に生きている、この巨大な存在を前にして畏敬の念に打たれます。そして、続いてハリネズミくんは、ゆったりとした川の流れに身を委ねる事を選ぶのです。
ハリネズミくんは、この時、自分の中に何か「異質なもの」が流れ込む事を受け入れたのではないでしょうか? 流れに身を任せるハリネズミくんを覗き込む、白馬さんの姿が印象的です。
<霧につつまれた・・・>
最後には、ハリネズミくんは、再び日常の世界へと戻ってきます。でも、ハリネズミくんが、霧の中から抜け出す瞬間の映像はありません。カットが変わると、丸太に腰掛けたハリネズミくんの傍らに、友だちのコグマくんがいるのです。
これは意図的な演出でしょう。ハリネズミくんは、霧の中から抜け出してなどいないのです。早口でまくし立てるコグマくんを尻目に、ハリネズミくんは物思いに耽っています。そう、ハリネズミくんは、霧の中に永遠に囚われてしまったのです。
これは言い換えれば、ハリネズミくんが、霧の中へ足を踏み入れる前と後で、“違うハリネズミくん”になってしまった事を意味します。自分が変わり、世界が変わるのです。これは人生における神秘です。
私たち観客は、本作を見る事で、紛れも無い神秘を体験します。この映画は、鮮烈なイマジネーションの力でもって、私たちを“霧につつまれた”世界へといざなってくれる事でしょう・・・
<本レビューの要旨>
「ハリネズミくん、カワイイ!!」 |
|
1 |
|
|
|
5 |
|
|
|
|
10 |
| 私が愛している度 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 私が評価している度 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 一般人気 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| マニア人気 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| オススメ度 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| ソフト |
DVDはパイオニアより発売されました。「ユーリ・ノルシュテイン作品集」です。
収録作品は以下の通り。
・『25日・最初の日』(1968年製作/9分 A・チューリンとの共同監督)
・『ケルジェネツの戦い』(1971年製作/10分 I・イワノフ・ワノーとの共同監督)
・『狐と兎』(1973年製作/12分 ザグレブ国際アニメーション映画祭グランプリ)
・『あおさぎと鶴』(1974年製作/10分 ニューヨーク国際映画祭最優秀賞、アヌシー国際映画祭審査員特別賞)
・『霧につつまれたハリネズミ』(1975年製作/10分 テヘラン国際児童青少年映画祭グランプリ、ロンドンファスティバル賞)
・『話の話』(1979年製作/29分 ザグレブ国際アニメーション映画祭グランプリ、オタワ国際アニメーション映画祭最優秀賞)
・『四季』(1966年製作/9分 アニメーターとして参加。W・クルチェフスキー監督)
・『愛しの青いワニ』(1969年製作/9分 I・イワノフ・ワノー監督 ノルシュテインはアニメーターとして参加)
まあ、なんと言っても、『霧につつまれたハリネズミ』と、本作に勝るとも劣らない傑作、『話の話』の存在が眉唾ですが、『狐と兔』を始めとする、本邦初ソフト化作品の収録もウレシイです。
偉大なアニメーション作家にして、ロシアを代表する映画監督、ユーリ・ノルシュテインの仕事を一望できる珠玉の一枚! 家宝決定ですね(^^)
音声は原語のロシア語のみで、日本語字幕が表示可能ですが、吹替え音声が収録されていなかった点が心残りです。海外アニメーションのソフトは、もっぱら玄人向けに発売されている傾向がありますが、本ディスクに限っては、小さな子供でも素直に楽しめる内容のものが多かいので、是非とも吹替え音声を収録して欲しかったところです。
私自身、以前、NHKで放送された時の吹替え版の印象が強かったので、本ディスクの字幕では「ヨージック」(←ロシア語でハリネズミの意)と表記されているところを、あえて「ハリネズミくん」と書かせてもらいました。コグマくんの「ハリネズミく〜〜〜ん!」という呼び声が、頭の中に延々とコダマしております(笑)。 |