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 断酒会

 小学生の私
中学生の私
高校生の私

 恋心を知る私
娘になった私

 愛を知る私
妻になった私

 生命の尊さを知る私
母になった私

 生命の儚さを知る私
愛する人を次々失った私

 生きる事も死ぬことも放棄した私

 育むことより破滅を選んだ私

 色々な私たくさんの私

 一人一人の私に伝えたい
何をしてでも生き延びろ

 かっこ悪くたっていい
笑われたっていい
草を食べたっていい
何でもいいから
とにかく
生き延びろ

 32歳になったら
断酒会という所に巡り会う

 それまで何としてでも
生き延びろ

 全てが味方ではない
だからといって全てが敵でもない

 32歳になったら
断酒会という場所にたどりつけるから
たくさんの私
一人一人の私
歯を食いしばってでも
死ぬな
頼む
お願い
生きのびろ

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  徳島

 去年の徳島の一泊研修
足が痛かった
眠たかった
早く家に帰りたかった
このままどこかへ行きたかった
苦しかった
主人にたくさんたくさん殴られては抱きしめられるの繰り返しで体も心もクタクタだった

アルコール依存症の父を持つ主人
強がる癖のある主人
自殺という形で父をある日突然失った主人
小さい時から殴られて育った主人
「この世にお酒がなかったらいいのにな・・・」そう願ってた小さな子供の時の主人

アルコールにのめり込んでいった若い時の主人
お酒が止まらない現在の主人

暴力という形でしか自己表現も愛情表現も出来ない主人

全てが自分と重なってる思いで主人に恋をしてた
もう一人の自分が目の前で飲んでる
そんな思いを抱えながら崩れていく主人を眺めていた
何も出来ずただただ眺めていた
暴れて家の物を壊して私を殴って私を抱きしめてまた暴れて最後に疲れて眠ってしまう主人
正座して主人の寝顔を見つめながら何回も「愛している」と小さい声で話しかけた
その声は最後まで主人の耳には届かなかった
警察が何回も何回も家に来た
警察が何回も何回も主人を署に連れて行った

「俺から離れないでくれ」って飲んでる時の主人が言った

「この子を連れて俺から今すぐ逃げてくれ」飲まない時の主人は言った

どっちの主人が本当の主人なんだろう
多分どっちの主人も本当なんだろう

こんなに愛しているのにどうして私の想いは伝わらないんだろう

私の何がいけないんだろう
たくさん色々な事を考えながら徳島に行った

 一年表彰をもらったら結婚しようと主人と約束した

先生から「おめでとう」って一年表彰を二人でもらった
そのまま入籍した
来年から連名で表彰もらおうね、私が言った
そうやな、って主人が照れて笑った

子供さんの名前も入れるぞ、って先生が大きくうなずいた

パパ ママおめでとう、って子供が言った
連名でもらう約束をしてた二年目からの表彰は手に入らなかった

 

徳島に行く車の中でも帰る車の中でもずっと眠ってた
安心してた
眠るのも久しぶりだった

帰りに色々な所へ連れていってくれた
お風呂に連れていってくれたとき内心どうしようって思った
太ももにに大きな黒あざが残ってた
見たら心配かけちゃうだろうな・・・って怖かった
見られないように隠しながらお風呂に入った
お風呂のお湯の色が綺麗だった
色々な色のお湯のお風呂がたくさんあった

私の足の傷も隠してくれた

この傷は蹴られたんだったかな・・・叩かれたんだったかな・・・って考えてた
「俺じゃなくてもよかったんだろう?男だったらだれでもよかったんだろう?」
いつも主人はそう言って飲んで暴れた

お風呂に入りながらたくさん涙が出てきた
どんだけ殴られても蹴られても泣いたことは一回もなかったのに
たくさんたくさん涙が出てきた

今から主人の待つ家に帰る訳だが
早く帰りたいとも思ったし、もう帰りたくないとも思った

車に乗って暖かい人達に囲まれてまた眠った

 来年の徳島に行く頃には私たち親子はどんな形でいるんだろう・・・
そんな事を思いながら眠ってた
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 「もう一度だけ」

 いつのまにか

父が「お父さん」じゃなくて「僕」に変わっていく
母が「お母さん」じゃなくて「私」に変わっていく

電話で話をするたび、逢って話をするたび
「僕はな」「私はね」と両親がそれぞれ話す
初め聞き逃してたたった一言の言葉が
たった一言のその言葉が

父の、そして母の人生を私に見せてくれた

こんなに簡単な事だったんだ
お父さんは一人の人間で
お母さんも一人の人間で
それぞれに産まれてそれぞれに大きくなって
そして二人が結婚して私が産まれた

父には父の人生
母には母の人生
私には私の人生

それでいいんだ

父も頑張って生きてきた
母も頑張って生きてきた
私も頑張って生きてきた

それぞれ頑張って生き延びてきた

「僕の事はもういいから君の人生を歩いてくれ」
「私の事は私でするから貴女は貴女の事だけ考えて」
離婚して離れて暮らしてる両親なのに似たような事を
連絡してきて私は少し笑った お腹がくすぐったかった
クスクスと笑いが止まらなくて
だんだん涙になっていった

 

「もう一度、断酒会に戻りたいのよ・・・」
私はその一言を言うのだけが精一杯なくらい泣いてた
父は「君の望むように」と
母は「仲間だね」と答えてくれた

あっけない解決が突然目の前に姿を現し
それぞれが歩きだしてる
「僕」が産まれたお父さん
「私」が産まれたお母さん
そしてそれに気が付いた瞬間に私の中で『私』が産まれた

震える手で離れかかってた会に電話した
再入会を拒絶されると思ってたから震えが止まらなかった
「君は迷惑なんだよ」って言われても仕方ないと思いながら震えが止まらなかった
「みんな待ってるよ。早く帰っておいで」と返事が来た
耳がおかしくなったのかと思った
「早く帰っておいで、会員みんな待ってる」ともう一度答えてくれた

もう一度今度は素直な心で酒を止め続けたい
もう一度今度は強くなるために酒を止め続けたい

 両親に

「産まれてきてごめんね」じゃなくて
「産んでくれてありがとう」って言える私になりたい
きっと恥ずかしくて一生言えないかも知れないけど
私はまだまだ生きてたい

「私は駄目な母親だけど貴女の事を愛してる」
恥ずかしいけど娘に言ってみた
「いつも正しい人間なんていないんだからオカンはオカンで頑張り」
娘が大笑いした
「ハナタレ小僧じゃ、オカンは」って大笑いして抱きついてきた
娘が14歳の誕生日の日だった

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